子供はかまってくれない

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湯浅健二 後藤健生「日本代表はなぜ世界で勝てたのか?」:選手は「監督を男にしたい」と思っていたのか?

2010年10月11日 12時05分11秒 | Weblog
南アフリカW杯について,サッカー界においては有名な著者2人が現地と日本で行った対談をまとめた新書。初版の発行は8月10日になっているので,大会の終了から発売まで敢行されたと思しき突貫作業は,代表が与えてくれたエネルギーに与るところが大きかったのではないだろうか。
内容は書名通り,主に日本代表の快進撃について,サッカーコーチとサッカージャーナリストという立場から分析を加えた章に,この大会で明らかになった世界のサッカーの標準と今後の動向についての見通しや意見を加えたものだ。

私がサッカー関係の書物を読み始めた1990年代の前半,世界各地で行われているサッカーにこそその民族の歴史や特性が反映されている,という視点で貫かれた後藤健生氏の著書の幾つかは,世界の広さを実感させてくれる刺激に満ちたものだった。特にW杯を現地で体験していることのアドバンテージは大きく,90年代なかばまでは氏の筆によるルポこそが,私にW杯という特別な祝祭空間で繰り広げられるドラマの空気をリアルに伝えてくれる最高の媒体だった。
しかし,情報が瞬時に世界を駆け巡り,世界中の有能なフットボーラーが国境を越えてヨーロッパに集まることによって,ローカルなサッカー特性がどんどん平準化されていくこの時代にあって,後藤氏の分析が往時のような鋭さを欠きつつあることは,致し方のないことなのかもしれない。

本書においても,高地への馴化やコンディション調整の重要性など,素人でも想像がつきそうな理由を挙げることでは物足りないと感じたのか,アンカー(阿部)を置くことについて「いつかはやらなければいけないのになんでやらないのか,僕はずっと不思議に思っていた」と述べて,何とか独自の視点を強調しようとしている点が,逆に物悲しかった。
総じて,大会直前まで岡田監督の退陣を声高に叫んでいた一部の人気評論家たちに比べれば,まだ耳を傾ける価値のある論考だったとは思うが,それでも,誰が見ても使えない状態だった中村俊輔を外すことについて「それをうまくやったということが,岡田武史は凄いと思う」と,至極まっとうな意見のように言われてもなぁ,という感想を持ってしまった。

本書では専ら後藤氏のトークの受け手となっている湯浅健二氏は,ドイツでの修行経験を活かして「サッカー監督という仕事」をものした現役のプロサッカーコーチだが,「アイツはすごく『コスイ』ところもあって(中略)昔から私は岡田のことを高く評価しているんです」と,物書きとは思えない取材対象との距離の取り方で,反岡田陣営とは真逆な立場にいることを,何度も何度も強調している。
しかし大会後に報道された選手の談話に拠る限り,どうやら「監督を男にしたい」という雰囲気はなかったらしい,ということが明らかになりつつある現在,チームの内情を知ったように語るのもなぁ,とこちらも話半分程度で聞いておくのが正しい読み方なのかもしれないと感じてしまった。

全部で3章からなる本書だが,ブンデスリーガ開幕前に湯浅氏が第3章で行った「内田とか香川真司は無理なような気がするね」という予想が見事に外れてしまった今,第2章「世界のサッカーはどこまで進化したのか?」だけを読むのであれば,充分にお奨めできる。あくまで,値段も1/3になれば,という前提付きだけれども。
★★
(★★★★★が最高)


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