映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「花腐し」 荒井晴彦&綾野剛&柄本祐&さとうほなみ

2023-11-17 05:30:03 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「花腐し」を映画館で観てきました。


映画「花腐し(クタシ)」は、脚本家荒井晴彦「火口のふたり」以来の監督作品だ。芥川賞を受賞した松浦寿輝の原作を脚色してピンク映画の監督を主人公にしている。主演のピンク監督は綾野剛で、元脚本家として「火口のふたり」の主役柄本佑を起用する。荒井晴彦の作品は毎回観ているし、自分のブログでも昭和の時代の「遠雷」「嗚呼!おんなたち 猥歌」「赫い髪の女」などアクセスの多い記事もある。「映画芸術」の主宰者で、左翼系の連中と付き合っているせいか映画にもその匂いを感じることもある。しかし、根本的思想は自分と真逆でも信頼する映画人だ。

ピンク映画の監督栩谷(綾野剛)は直前まで同棲していた女優祥子(さとうほなみ)が、映画監督桑山と心中したことに衝撃を受ける。栩谷はもう5年も映画を撮っていない。生活も困窮して、家賃も滞納している。

そんな栩谷が大家のところへ行った際、所有するアパートの住人が1人だけ立退に応じないので追い出してくれれば賃料を配慮すると大家に言われた。早速、部屋に行き交渉する。入居者の伊関(柄本佑)と押し問答した後で、伊関も映画に携わっていたと知る。気がつくと缶ビール片手に2人で語り合う。過去の女の話題になり、関わりをそれぞれ語り続けていく。


凡長になる部分も多いが、荒井晴彦作品らしい味わいが感じられた。
男女の性的絡みのシーンは多い。城定秀夫監督「愛なのに」でも大胆な濡れ場を演じるさとうほなみがここでも頑張る。
モノクロ映像でスタートする。心中して亡くなった祥子の葬儀でお焼香を拒否されたり、映画監督の通夜できびしいピンク映画の現状を映画仲間と語り合ったりするシーンが続く。ところが、回想シーンとなると、カラー映像にかわる。現在がモノクロで、過去がカラーだ。

妙な縁で出会った2人の女は同一人物の祥子だったのだ。延々と飲んで初めてわかる。この映画の時代設定は2012年で、伊関は2000年に祥子と知り合い、栩谷は2006年に撮影がきっかけで祥子と付き合う。それぞれが祥子と一緒に過ごす場面はカラー映像で語られる。よくある同棲物語だけど、それぞれのカップルの性の履歴をクローズアップする。

東京でもいくつものピンク映画館がなくなっているので、新作映画の需要がない。スタッフは仕事に困る。予算は50万円くらいしか出てこない。通夜のお清めで映画人が語り合う。最近出演頻度が高い川瀬陽太がケンカを別の映画人に仕掛ける。でも、横で見ている綾野剛演じる栩谷はボソボソと話しながら取り乱さない。同棲相手が別の男と心中したら何にも話す気はないか。

賃料滞納で大家に謝りに行った時、立ち退きをやってくれと言われる。入居者の伊関のところへ行っても綾野剛には凄みがない。ボソボソ話すだけだ。今まで来た人と違うねと妙なことに感心される。ずいぶんと綾瀬剛の映画観ているけど、タイプが違う。撮影中の荒井晴彦監督の仕草を意識したようだ。今回は濡れ場もこなす。


柄本佑は一時期ピンク映画を大量に観たことがあるとインタビュー記事で語る。なるほど。「火口のふたり」でも最近の「春画先生」でも濡れ場が多い。選んで出演しているのかな。さとうほなみとはじめての交わりでは童貞で、やっとのことでホールインだ。同居する中国人の若い子との絡みも含めて、繰り返し濡れ場をこなす。楽しそうだ。さとうほなみとの激しい性的絡みで前貼りはしているのであろうか?この映画では義父奥田瑛二も出演しているが、多忙な安藤サクラとはすれ違いになっていないだろうね。

さとうほなみは、「愛なのに」で初めて存在を知った。真面目そうな顔のわりにずいぶん大胆だなと印象づけられた。「愛なのに」映画芸術では昨年のベスト10に入っているので、当然荒井晴彦は知っているはず。オーディションで選ばれたと知り、意外に思った。柄本佑からアナルで交わろうと言われ、痛い痛いと応じるが、時が過ぎ綾野剛とはむしろ進んでアナルでいたす。性的成熟が徐々に進むところも示す。飲み屋のシーンで奥田瑛二に水をぶっかける。山口百恵「さよならの向こうに」をカラオケで歌う。特別上手いわけではないけど、2度観たので脳裏に焼きついて離れない。


映画が始まりヴァイオリンとピアノによる音楽のセンスがいい。まだ残っているんだなあという共同廊下のアパートが舞台。2人が語り合うアパートも昭和の部屋のつくりそのままだ。ロケ地は坂や階段が多い場所を巧みに選択。四谷荒木町のなくなった料亭の看板をそのまま映すので見覚えのある稲荷神社裏手の階段だとわかる。雨が降るシーンもそこで撮る。飲み屋自体は新宿ゴールデン街のどこかの店の中で、映している飲み屋街はゴールデン街じゃないのでは?新宿ゴールデン街、四谷荒木町いずれも自分のホームグラウンドなので親しみが深まる。


荒井晴彦が楽しみながらつくった映画という印象を受ける。ストーリーで観る映画ではない。欠点は多いが、映画のもつさびれた雰囲気は自分の好きな感じだ。さとうほなみはそれなりのボリューム感だけど、柄本佑演じる伊関と暮らす中国人の女の子とその友人はいかにもAVという感じのバストのボディだ。デイヴィッドリンチ監督作品で、乳輪の大きなボリュームたっぷりの女性の裸が登場するのを連想する。ピンク映画の色彩を根底に残す。荒井晴彦の苦笑いが目に浮かぶ。最後のさとうほなみの歌も好みの曲なのだろうか?しつこいけど、残る。

柄本佑のインタビュー記事を読むと、荒井晴彦「雨月物語」のような映画がとりたかったそうだ。ラストに向けて、もうすでに亡くなって存在しないさとうほなみ幻影を映して怪談的要素をもたせる。たしかに「雨月物語」での田中絹代の幻の姿を連想する。

後記 11/20
小説を読了した。主人公はデザイン事務所の経営者に変わっていたが、倒産寸前で街金のおやじに立ち退きを頼まれる。立ち退き交渉のセリフなどは映画とは同じだ。さすが、松浦寿輝の筆力はすごい。短編だけど、読み応えある。でも、今回の荒井晴彦の脚色は上手だったと思う。ピンク映画という言葉はどこにも出てこないけど、その設定で、しかも祥子の設定を含めてお見事だと言える。最後の場面は原作に忠実だった。ここを読んで、荒井晴彦は「雨月物語」を連想したのであろう。このように映像に具現化できてよかったと感じる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「法廷遊戯」 永瀬廉&杉... | トップ | 映画「モナ・リザ アンド ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画(日本 2022年以降 主演男性)」カテゴリの最新記事