映画「父と僕の終わらない歌」を映画館で観てきました。
映画「父と僕の終わらない歌」は、寺尾聰が認知症の老ミュージシャンを演じる小泉徳宏監督の新作。親の面倒をみる息子を松坂桃李が演じる。予告編でいかにも寺尾聰らしいボーカルが聞けて、認知症を描く映画にしてはノリが良さそうだ。
今の若い人は、寺尾 聰の「ルビーの指輪」の記録的大ヒットは知らないだろう。自分の高校の部活仲間が、大ヒットする前に寺尾 聰のシングルをピックアップして教えてくれた。残念ながら60歳を手前にして亡くなってしまった。その友人を思い,彼の代わりのつもりで早々映画を観に行く。意外に年齢層の高いおばさんが目立つ。
横須賀で楽器店を営む父間宮(寺尾聡)は妻(松坂慶子)と暮らしている。かつてレコードデビュー寸前まで行った父は地元商店街のイベントで歌声を披露している人気者だ。商店街の若い仲間が結婚するにあたり、東京でイラストレーターをしている息子(松坂桃李)が戻ってきた。ところが、運転しているのに、帰りの道がわからないと言う父親の様子がおかしい。医者(佐藤浩市)に行って診てもらうとアルツハイマー型認知症のようだ。息子はしばらく横須賀で過ごすことになる。
地元のステージで歌うために練習している認知症の父親を、息子がインスタグラムに歌う親父の姿をアップするとバカ受けする。テレビに出演したり,レコード会社からも注目を浴びたのに、本人が行方不明になったり急に様子がおかしくなる。
寺尾聰がまさに適役でノリノリで楽しく見れる映画だった。
ビールのCMで有名な「Volare」を寺尾聰自らがアレンジして歌う曲が抜群に良い。ヤシの木が立ち並ぶ道路をぶっ飛ばすシーンは最高だ。認知症の老人を描く映画は多い。その中でも抜群の明るさだ。
横須賀でもどぶ板通りなどのロケ地選びに成功して、お店や部屋などの美術も雰囲気良くしている。登場人物が営む「アルフレッド」は、どぶ板通り商店街に実在するダイナーである。寺尾聰が息子とアメ車のライトバンを走らせる椰子の木が立ち並ぶ馬堀海岸も雰囲気がいい。そのバックに寺尾聰の曲が流れれば明るい気分になれる。
横須賀が舞台の映画といえば「豚と軍艦」が飛び抜けていた。あえてモノクロの映画で同じ場所でも逆に暗いムードもある。まだ小学生の頃、父と久里浜に車で釣りに行った。横浜を抜けて横須賀の街に入ると、道路沿いに英語の文字の大きな看板がある店が並んでいた。突然異国のような雰囲気になっていた。映画を観る限りではそのムードは薄らいでいるのかもしれない。それでも横須賀をロケ地に選んだのは大正解だ。
⒈寺尾聰
こんな音楽好きの不良親父を演じられるのは他にいない。しかもノっている。寺尾聰は70を大きく過ぎて父親宇野重吉に似てきたのかもしれない。宇野重吉が癌に侵されている晩年に気を張っていろんな作品に登場した覚えがある。寺尾聰は先日見た「金子差入店」にも出演していた。多作になったのは親父の影響かな。主演作で好きなのは「雨やどり」だ。これは本当に良かった。剣が絡む時代劇なのにこの映画のもつ居心地の良さはなんとも言えない。
ノリノリの親父が突如訳のわからないことを言い出す。レコード会社にInstagramのコンテンツを認められて良い方向に向かうと急に脱線する。認知症が治るわけではない。家の物置の物を投げつけたり奇妙な動きもする。ボケの演技ができるのもさすがベテランの味だ。
寺尾聰の歌をカラオケのオハコにしている人は意外にいる。「ルビーの指輪」だけでなく、この映画と同じようなテイストを持つ「HABANA EXPRESS」の歌もよく聴く。不良オヤジを自認している連中だ。
高校の時の部活仲間とは大学はお互いライバル校に行ったが、よくお互いの家に遊びに行っていた。レコードプレーヤーで寺尾聰の歌を聴いた。これいいんだよと薦めていて、しばらくして「ルビーの指輪」が空前の大ヒットをした。晩年がんに冒されて余命少ない時にそのプレイヤーを聴いた部屋で2人であった。キツそうだった。その時の想い出が脳裏に浮かぶ。
⒉松坂慶子
太ったなあという印象。初めて松坂慶子を見たのは、末期の大映でデビューした当時の岡崎友紀主演TV「おくさまは18歳」であった。当時の小学生はみんな見ていた。一世を風靡した「愛の水中花」のバニー姿の頃は本当に美しかった。その昔お世話になったおじさんたちは多いだろう。「蒲田行進曲」などの深作欣二作品でも活躍したし、「男はつらいよ」でもその美貌を披露した。今回はわざと太って肝っ玉母さん振りを見せようとしたのか?同一人物には見えない。 70歳を越え、自分の立場を踏まえた登場の仕方である。
⒊三宅裕司&石倉三郎
三宅裕司は以前に比べるとテレビで見る機会は減った。約20年前に池袋の劇場でスーパーエキセントリックシアターを見に行ったことがある。当時TVのギャラを舞台に注ぎ込んでいると言われていた。あの舞台はもともと喜劇役者を目指していた彼にとっての生きがいのようだ。
石倉三郎は京都祇園のラウンジで一緒になったことがある。撮影の後、静かに飲んでる雰囲気だった。萩原健一主演のTV「課長サンの厄年」が好きで,思い切って「あの時の石倉さんが大好きです」と声をかけたら、相手にしてくれてうれしかった。
そんな2人が、寺尾聰の友人役で出てくれるとうれしい。映画の中では友人にすぎず存在感が強いわけではないが、2人がいるだけでうれしい。