映画「愛を乞うひと」は下田治美の原作を平山秀幸監督が原田美枝子主演で映画化した1998年の作品である。
その年の日本アカデミー賞をはじめとした映画賞を独占して、キネマ旬報ベスト10でも北野武監督「HANABI」に引き続き2位である。なぜか長い間レンタルビデオ店になかった。名画座の上映チャンスもなく、そんな有名な作品をこれまで観るチャンスがなかった。今回Amazon primaのラインナップをみつけて早速見た。ともかく原田美枝子の熱演に圧倒される。
早くに夫を亡くし、娘の深草(野波麻帆)とふたり暮らしの山岡照恵(原田美枝子)は亡くなった父陳文雄(中井貴一)の遺骨を探していた。彼女の異父弟が詐欺で捕まった知らせが届き弟と再会し、少女の頃の生活を思い起こす。
文雄の死後、孤児施設に預けられていた照恵を母・豊子(原田美枝子/2役)が迎えにくる。照恵は新しい父・中島武人(モロ師岡)と弟・武則とバラックの家で同居する。やがて中島と別れた豊子は、子供を連れて“引揚者定着所” に住む和知三郎(國村隼)の部屋へ転がり込む。和知は傷痍軍人となって街角でお貰いを受けていた。
この頃から気の荒い豊子の照恵に対する態度が狂乱的にひどくなってゆく。ちょっとしたことでも怒って殴り、叩くようになる。顔にケガの痕が残ってしまう。中学を卒業した照恵は就職したが給料は全て豊子に取り上げられる。それが続き思いつめた照恵は家を飛び出す。豊子に追いかけられるが弟がかばう。照恵は娘と父の故郷である台湾で遺骨を探しに伯父を訪ねる。
社会の底辺で生きる母娘を強烈な演出で映す。すごい映画だ。
原田美枝子の娘への虐待の演技は半端ではない。というより、何度も叩かれる子役たちは大丈夫だったのかと逆に心配する。ともかく原田美枝子が半狂乱で強烈なのだ。10代の頃「大地の子守歌」という名作で、原田美枝子はヌードを披露して若くして売春婦になった少女を演じた。若き日の野生味あふれる演技にも圧倒されたが、それを上回る凄まじさだ。
⒈原田美枝子と河井青葉
当時39歳だった原田美枝子は清楚で美しい。健気に父親の遺骨を台湾の奥地まで行って探す。ひとたび母親役になると急変だ。鬼の顔でもうとんでもない女だ。映画「あんのこと」でドツボにハマった河合優実が親に売春をやらされていた役を演じて、母親役の河井青葉が娘が言うこときかないと暴力を振るった場面が多々あった。好演だった。河合優実の役柄は這い上がれなかったのに対して、この映画では復活する。少しは救いはある。とは言っても暴力の度合いは原田美枝子が上回る。
⒉傷痍軍人
まだこの当時若かった國村隼が傷痍軍人のふりをして、お貰いをする義父を演じる。まだ自分が小学生だった昭和40年代半ばまでは、渋谷駅のガード下あたりにアコーディオンを奏でる傷痍軍人がいっぱいいた。戦争でケガして大変な人たちだと気の毒に感じていた。この映画のように悪い連中だと思っていなかった。母親から暴力を振るわれておでこにケガをした主役が、これは使えると傷痍軍人の父が自分の横に並ばせてお貰いするシーンはいたたまれない。
⒊ロケ地のボロ家
孤児院から戻された少女が母親に連れられて行った先は平屋のボロ家だ。外壁が木板の建物が立ち並ぶ長屋は昭和40年代までは見る機会は多かった。今から27年前は全国各地をロケハンすれば出会えたのかもしれない。次に住み移ったのは中廊下で風呂なしの共同トイレのボロアパートだ。これも減ったなあ。平成のヒトケタというのは、まだ昭和や戦後の痕跡をひきづっていたのかもしれない。