映画「レイブンズ」を映画館で観てきました。
映画「レイブンズ」は写真家深瀬昌久の破天荒な人生の歩みを描いた浅野忠信主演作だ。レイブンズは鴉(カラス)を意味する。日仏をはじめとした4カ国の資本が入っている作品だ。深瀬昌久についての知識はない。監督、脚本はイギリスのマーク・ギルで、深瀬昌久の妻役はこのところ出番の多い瀧内公美だ。主演級の古舘寛治、池松壮亮、高岡早紀が脇を固める豪華メンバーだ。
浅野忠信の前作「かなさんどー」は愛情に満ち溢れた自分が好きな作品だった。「将軍」でゴールデングローブ賞を受賞してまさに国際派俳優として名をあげた。その一方で「箱男」、「湖の女たち」など幅ひろい出演作もある。以前にましていい女になった瀧内公美は「敵」で、古舘寛治は指名手配犯「逃走」で、池松壮亮は「本心」や「ぼくのお日さま」で観てきた。いずれも日本映画界では最も信頼されている俳優だ。エンディングロールのクレジットは英文字で、諸外国のスタッフの人数が多いのに驚く。
1951年の北海道、大学の写真学科に合格して進学したいと父親(古舘寛治)に報告した深瀬昌久は家業の写真館を継ぐには「学」はいらないと怒られる。結局母親からもらったカメラを持って上京して大学で学び、故郷に帰らず写真家を志す。屠殺場の豚を撮ったりユニークな写真を撮るようになる。
1963年昌久(浅野忠信)は写真のモデルだった洋子(瀧内公美)と意気投合して一緒に暮らす。勘当同然の関係なので実家には結婚を伝えなかった。洋子を中心に撮ってきた昌久はその斬新な写真を認められるようになっていく。一方で酒に溺れる生活で、洋子も呆れ果てている状況だった。そんな昌久を訪ねて父親が上京してくる。
おもしろかった。浅野忠信がうまかった。
無頼派というべきか破茶滅茶だけど天才的センスを持つ深瀬昌久を演じた浅野忠信が自然体でよかった。タチの悪い飲んだくれ役を連続して演じる。浅野が被写体として写真を撮りまくる相手役の瀧内公美は観るたびごとに魅力的になっていく。時代を感じさせる建物でのロケ撮影なので60年代70年代のシーンでもすべてに不自然さを感じない。バックに流れる音楽も時代に応じた適切なチョイスだ。
⒈父と息子の葛藤
北海道の写真館の店主の父親のもと、深瀬昌久は子どものころから写真を学んできた。「写真館で撮る写真には芸術性はいらない」というのが父親の言い分だ。東京の大学へ行くと聞くと合格通知を破ってしまい部屋に閉じ込める。暴力も振るう。暴君のような父親役の古舘寛治ががんこ親父になりきる。そんな時に空想のカラス(レイブンズ)がでてくる。セリフは英語だ。このレイブンズは最後の最後まで昌久の横にいる。昌久の心の中とも言えるし、味方とも言える。
一度は父と息子の心は離れた。それでも父親は上京し、昌久は何度か北海道に行く。そこでも取っ組み合いの大げんか。でも、その父親が亡くなって葬儀が終わった時に、母親が遺品の中から息子の作品が掲載されているカメラ雑誌を見せる。父親が大事に保管しているケースがあったのだ。本当は息子を思う父親の気持ちが伝わるジーンとする場面だった。
⒉ユニークな写真と酒癖の悪さ
屠殺場から移動寸前の肉を撮ったり、流産した子供の写真を撮ったりユニークな写真で名を売った。モデルの洋子と親しくなると、ひたすら洋子を撮りまくる。でも、団地住まいをしながら生活は豊かにならない。一度酒を飲み始めると止まらない。これで大丈夫かと洋子もその母親も心配する。
それで始めたのがCM撮影だ。これがおもしろい。掃除機のCM撮影で、モデルにギターのように持ってよと注文する。それがカタチになっている。そんなユニークさも認められて、昌久の写真がニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示されることになる。その時洋子と一緒に喜ぶシーンがいい。ニューヨークで大はしゃぎだ。それでも、深瀬の酒癖の悪さは治らない。破滅への道を歩んでいき離婚だ。
その後しばらくして脚光を浴びた深瀬昌久の展覧会に、洋子がきてくれて喜ぶ昌久に向かって「わたし結婚したの」と告げて呆然とする浅野忠信の顔が最も印象に残る。
⒊新宿ゴールデン街
途中から新宿ゴールデン街と思わせる店の並びが出てくる。あの界隈は昼間閑散としているので、その時間に撮ったのであろう。建物は古いままなので、時代設定を70年代から1992年としてもおかしくない。映画に出てくる店は今もゴールデン街に実在しているようだ。昔は青線だったどの店もカウンターの配置はほぼ似たようなものだ。高岡早紀のママはいかにもゴールデン街のママという感じを醸し出す。
ゴールデン街自体、店がいっぱいになって次の客が来たら席をあけて別の店に行く暗黙のルールがある。深瀬昌久はどうだったのであろうか?だいたい一階と二階にそれぞれ店があるので、自分がなじみの二階にある店では酔っていると落ちないようにねとママが声をかけて見張ってくれる。ところが、深津昌久が階段で落ちた時はいつものように酔っているとみなされていて気がつくと転落して頭を打った。脳挫傷を負ってしまうのだ。
自分自身あの界隈で酩酊したことがある。飲んだくれた浅野忠信を観ていると自分のことのようで共感する。逆に自戒にもなったシーンであった。