★ 物たちに対する、何という敬意。どんな物にもその美しさがある。なぜなら、それは、存在すべき「唯一のもの」だから。それには、取り換えのきかないものがある。
★ ジャコメッティの芸術は、したがって、物たちの間に、ある社会的絆――人間とその分泌物――を樹立するような社会的芸術ではない。それはむしろ、高等な浮浪者たちの芸術、彼らを結びつけうるものが、すべての人、すべての物の孤独の承認であるほどに純粋な、浮浪者たちの芸術であるだろう。「私は独りだ」と物は言っているかにみえる、「したがって、あなたにはどうすることもできないある必然に捕らわれている。私は私がそうであるところのものでしかないのだから、私は破壊されえない。私がそうであるところのものである、保留なしにそうであるがゆえに、私の孤独はあなたの孤独を知るのである」。
<ジャン・ジュネ『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』(現代企画室1999)>
★ 彼女は最終列車に乗りそこねて駅の待合室で夜明かしすることがよくあるらしいが、そういう時ともすれば浮浪者然とした男が寄って来て「ねえさん、独りな?」と声をかけるそうである。「きっと精薄か何かに見えるのね」と彼女は嘆いてみせるが、彼女にはそういう独自なパーソナリティがある。
<渡辺京二“石牟礼道子の世界”―石牟礼道子『苦海浄土』解説(講談社文庫2004)>
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