Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

人類最古の麺

2013-07-01 14:48:24 | 日記

★ では、この人々の暮らしが悲惨なのか、というと、私は全然そうは思いません。それどころか、とても快適なのです。木が生えていなくて、旱魃に苦しみ、雨が降ったら洪水が起きて、村人が貧困にあえいで、出稼ぎに行って苦しい労働を強いられるような、そんな村が快適だというのは、悪い冗談のように思うかもしれません。しかし、私は心からそのように思っています。

★ その快適さの要因のひとつは、「窰洞(ヤオトン)」と呼ばれる独自の住居にあります。これは、黄土の特性を巧みに生かすことで、地元でとれる石をアーチ状に組み上げて、それの上に厚く黄土を積み上げて作るトンネル状の美しい建築物です。土にとりかこまれているため、保温や保湿に優れ、夏に涼しく冬に暖かいという特徴があります。

★ 窰洞の前面は、上部が窓になっている木製の門で蓋をしてあります。この窓の部分の細工は見事なもので、夜になると窰洞の中の電灯でそのシルエットが浮かび上がります。谷のあちこちに、このシルエットが浮かび上がる様子はなかなかの見ものです。

★ 料理は竈(かまど)でやります。竈にはものすごく大きな丸い鍋が埋め込んであり、全ての料理をこの鍋でやります。ふいごをつかって空気を送り込んで石炭を焚くので、高温が得られます。料理となると家族全員がとりかかり、鍋に材料を入れる人、ふいごを操作する人、材料を混ぜる人などと自然に分業がなされます。(・・・)朝、目覚めたときに、朝ごはんを作るためのふいごの音を聞くのは、なんとも言えない心地よいものです。ある学生は「窰洞が呼吸しているみたいです」と美しく表現してくれました。

★ 食事はみんなで食卓を囲むということはありません。ご飯とおかずをひとつの丼に入れて、各人、思い思いの場所で立ったりしゃがんだりして食べます。最初はえらく行儀が悪いなと思ったのですが、一度やってみると、料理を持って窰洞の前庭から谷を見下ろし、山を見上げ、村の音を聞きながら食べると、非常においしくなることに気づきました。(・・・)皆さんにぜひお伝えしたいのですが、「家族団欒」などと言って、毎回きちんとテーブルに座って、見飽きた親兄弟の顔をながめながら食事するというのは、必ずしも良い食べ方とは限らないのです。

★ 黄土高原の村の「名物」といえば、「ハーラオ」と呼ばれる麺です。小麦粉を練ったものを、底にたくさんの小さな穴の開いた筒から押し出して、それを茹でて作る麺です。黄土高原は麺類の発祥地ではないかと言われていて、現在のハーラオを作るための器械と同じ形をした古い木製の器具が発掘されているそうです。ハーラオは人類最古の麺とさえ言われます。この麺にトマトペースト、唐辛子、自家製の酢、葱、ゴマなどをかけて食べるのが、この地域の最高のご馳走です。私はこれが大好きで、これを食べるために研究していると言ってもいいくらいです。

<安富歩“人生をファンタジー化しよう―中国・黄土高原から”―『高校生のための東大授業ライブ』>








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