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男子シングルが好きです。

氷の国の物語 4 (イラスト付き)

2010-01-12 23:01:00 | 氷の国の物語
まだまだ続きます。しつこく続きます。

<氷の国の物語 4>

城に着いたkumは、まず次期王の選定に関わる一切を任されている大臣にマントを納めると、あいさつをするためにdai王子の元へと行った。
dai王子は城の中庭で剣の稽古をしていた。普段の派手な服装ではなく、飾り気のない黒の上下の稽古着に身を包み、剣をふるう姿にはいつもとは違った精悍な男らしさが漂う。
剣を交えているのは姉のsiz姫。普段は豊かに肩に垂らしている長い髪を後ろで一つに束ね、男物の白いシャツに黒いパンツに膝までのブーツ姿。長身で凛々しい顔立ちのsiz姫にはこの姿がよく似合った。
この国ではたしなみのうちの一つとして姫君にも馬術や武術を習わせたが、何をしてもsiz姫は筋がよく、中でも剣術を好んだ。
だがお互い大人になった今、剣では全く弟に敵わない。siz姫が必死で打ち込むのを、dai王子はうまくあしらって相手をしている。
もちろん二人とも練習用の刃をつぶした剣を使っているが、わずかでも体に当たれば痣になる。優しいdaiが姉に怪我をさせないよう細心の注意を払っていることは、傍目にも見てとれた。

ひとしきり打ち合うと二人は剣を止め、邪魔にならないように少し離れて見ていたkumのほうにやってくる。
「まあ、kumじゃない。久し振りね。マントを持ってきたのでしょう?見せてちょうだいな」
侍女が手渡した布で無造作に汗をぬぐいながら、siz姫は気さくに声を掛けてくる。
「申し訳ございません。すでに大臣閣下に預けて参りました。こちらへ先にお持ちすればよかったのに、気が利きませんでした」
小腰をかがめてkumは返事をした。持ってこればdai王子にマントが完成したところを見てもらえたのにと、自分の迂闊さが情けなくなる。
「いいじゃないですか、姉上。大臣に言えばいつでも見られますよ」
「そうね、それに戴冠式であなたが纏うまで待つっていうのも一興ね」
「私が纏うと決まっているわけじゃありません」
「dai王子、何を情けないことを言っているの。自分が王になるという気迫でいないと、王になることはできません。常に自分が王になるんだという気持ちでいなさい」
優しすぎる性格の弟を、幼少の頃より不甲斐なく思っていたsiz姫は手厳しい。
「お言葉、この胸に留めておきます」
dai王子は右手を左胸に置き、優雅に会釈した。そんな美しい姉弟の姿にkumは見とれた。

「氷の美女」とも称されるsiz姫は、容姿端麗、才気煥発、何をしても優れていて、この姫が王子であったなら、最も国王にふさわしかったのにという声が今でも聞こえてくるほどだ。
今は剣の稽古のために男装をしているが、髪を結い上げ華やかなドレスを纏って宮廷の晩餐に出れば、万人が振り返るほどの艶やかさ。容姿と教養を武器に外国からの客人を魅了し、随分この国の外交を助けてきた。
当然外国の王や王子からの縁談は多いが、siz姫は中々首を縦に振らない。kumと同様にとっくに嫁いでいていい年頃だ。周囲が案ずる中、siz姫は遂に隣の大国の王との婚姻を承諾した。
ただし条件を付けた。この国の新しい王が決まり、戴冠式が終わるまでは待ってほしいというものだ。
siz姫もdai王子とこの国の行く末が心配でたまらないのだろう。身分や立場は違うものの、kumにはsiz姫の気持ちが痛いほどわかった。
siz姫ならば、隣国の王妃となった後もこの国を気にかけ、外から助けてくれるはず。姫はこの国の王にはならずとも、自分自身を最大限に生かす方法を知っていた。しかもそれはこの国のためになるだけでなく、大国の王妃として彼女自身の人生をも輝かせるに違いない。siz姫は何をしても常に鮮やかだった。

「私はもう少し剣を励むことにします。従兄弟たちに剣で負けたくはないからね」
dai王子はそう言うと、控えていた剣の指南役に相手をするように目で合図した。
「私が相手じゃ不満だったんでしょ」
siz姫は不満そうに言う。
「いいえ、ほどよく体が温まりました」
dai王子はあくまで姉を立てるが、王子自身の練習にならなかったことは明白だ。
王選びの試練に何を課されるのか、王子達はまだ何も知らされてはいない。だが祖父である今の国王が選ばれたときには、剣の勝ち抜き試合で決められたという。剣の腕だけは磨いておいたほうがいいだろうと、どの王子も剣の稽古に精を出していた。

dai王子の剣の指南役は、まだ若いが戦場で数々の武勲を立てた国の英雄だった。だが戦場での怪我が元で一時的に軍を離れる。傷が癒えた頃、城から頼まれてdai王子の剣の相手を務めるようになり、そのままdai王子の剣の指南役に収まった。時折戦場が恋しく、軍に戻って立身を極めたい想いに駆られるが、今はdai王子から離れることはできない。
人を惹きつける不思議な魅力を持つ王子だった。この王子のために何かしたいと人に思わせてしまう。いつの日か軍に戻るにしろその前にこの王子を王に押し上げ、命を懸けるに値する主君のために戦場で戦えたなら、それが指南役の願いだった。
dai王子のほうでもそれほど年が離れていない指南役を、兄であるかのように頼りにしていた。頑固なところもある王子だが、こと剣に関しては指南役の助言を素直に聞き入れ、剣の腕は急激に上達していた。

王子と指南役は笑顔で互いに歩み寄ったが、向き合って剣を構えた瞬間、場は一変した。
そこにいるのは先ほどまでの温和なdai王子ではない。別人かと思うほど目付き鋭く、体から発散される気合が空気を通して見物人の肌にまで伝わってくるほどだ。
対する指南役は落ち着き払ったまま。しかし油断なく王子を見据える。王子が相手の稽古でも、手加減する気は毛頭ないのだろう。
王子と指南役は激しく切り結んだ。どちらも足に古傷を抱えているはずだが、そんなことを微塵も感じさせない素早さで目まぐるしく動き回り、剣を何度も打ち合わせる。
こんなに激しい若者だったのだろうか。siz姫と並んで見守りながらkumは圧倒されていた。王選びの試練を前に王子の心も体も準備が整い、気力が充実しているのだろう。本番さながらの気迫からは、言葉以上に玉座に対する王子の意思が伝わってくる。
王子自身がまるで一本の剣のようだ。そうkumは感じた。下手に触れたらすぱりと切られてしまうような、鋭く、それでいて美しい抜き身の剣。決して触れることのできない剣。
それにも関わらず、一区切り付けてこちらを振り返った王子は、すでにいつもの親しみやすい笑顔の優しげな若者で、kumはどちらが本当の王子かわからなくなった。

「心の中で祈るkumとsiz姫」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

<つづく>

個人的には、3人のイマイチ頼りなげな王子達よりも、siz姫のほうがかっこいいんじゃないかと思います。
でも今回の後半では、dai王子も少しはかっこいいんじゃないかと自画自賛。(笑)
次回からやっと王選びの試練に入ります。


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