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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『巨匠フランク・ロイド・ライト』

2007年04月27日 | 絵本・写真集・画集



建築家フランク・ロイド・ライトの主要設計住宅の写真と解説を収めた書籍『巨匠フランク・ロイド・ライト』を読みました。読みましたと言っても、実際は写真を見るだけで、解説はほとんど読んでいないのですが。

フランク・ロイド・ライトという人については、写真家・上田義彦さんの写真集“Frank Lloyd Wright―Fallingwater Taliesin”で初めて知りました。その写真集を手に取ったのは上田さんの写真を見るのが目的だったのですが、そのときにこの20世紀で最も有名だという建築家の建築をはじめて見たのです。

正直に言えば、何がこの建築家をそれほど有名にしたのか、上田さんの写真を見ても分かりませんでした。とりあえずモダンな雰囲気のある建物ですが、その革新性は、建築について素人の私には見当がつきませんでした。

今回この『巨匠フランク・ロイド・ライト』をみて、少しこの建築家の独自性が分かったような気がします。もっとも私は他の建築家についてまったく知らないので、他との対比で何がすごいのかまでは分からないのですが。

彼の設計した住宅は、必ずしも「人に優しい」というコンセプトではないのだと思います。想像してみても、この家に住むことは居心地がいいのだろうか?と首を傾げたくもなります。

そのデザインは、きわめて人工的な匂いがします。“手作り”とか、“人間味のある暖かさ”というものは感じられません。建物のデザインは直線的です。

この直線的な感触は、その建物が大邸宅のわりに一階建てか二階建てに作られ、横に長く設計されていることに由来します。

内部は、これもひじょうに直線的にデザインされ、余計な装飾はありません。プロテスタントの教会に似ています。とても整序されています。

写真では、これらの大邸宅の多くが緑豊かな土地に建てられています。しかし、じゃあその住宅は“自然と調和した”雰囲気を持っているのか?と言われると、そうでもありません。

むしろライトの建築は、人からも、自然からも浮いた、“建築”それ自体の自己主張が感じられます。


普通建物を設計するときに、建築家や依頼主は何を考えるのだろう?

家を建てる人であれば、“中心性”を感じさせる設計にするのじゃないでしょうか?そこは家族が住む場所ですから、家族のメンバーが一緒に住む場所として、単なる空間ではなく、人間同士が感情的に結びつくための場としての住宅が求められるのではないかと思います。

住む人同士の感情的結びつきを促す場としての住宅である以上、一つ一つの個々の部屋と中心となる部屋との距離は、できるだけ等距離になることが求められるのではと思います。これは、部屋の数の多少や大きさの大小にかかわらず、そうではないかと思います。

それに対して、ライトの設計のように高さがなく、横に長く伸びた家は、中心となる場所(例えば居間)と個々の部屋との距離は、その部屋の位置によって大きく異なる場合が出てきます。

ライトの設計に“人間味”が感じられないのは、ふつう私(たち)が考える「家族が住む場所としての住宅」に求めるものを、必ずしもライトが満たそうとしていないことに由来する気がします。

そのような従来の家族に関する価値観とは切り離されて、ライトの設計する家では、そこで暮らす人々が独立した個人としてその空間を愉しむことを狙っているように感じます。

また、必ずしも“自然と調和し”ているようにも見えません。彼の設計には、そのような作為的な“自然”という概念は感じられず、したがって私たちが“自然”という言葉で思い浮かべるような牧歌的な雰囲気は見られないのです。

にもかかわらず、なのか、だからこそ、と言うべきか、ライトの建物は、それ自体が一つの生き物のようです。住む人にも自然にも従属しない、一つの生き物のよう。住む人にも自然にも従属しないけれど、それが一つの生き物のようであることによって、人や自然との関係を結ぶ住宅。

直線的なデザインで横に広く伸びることによって、ライトの設計する住宅は、遠くの場所から識別するような派手さを持たずに、同時に近くに寄ると圧倒的な存在感をもつ建物となっています。

遠くから見える大きな建物であれば、そこに設計者の意図を感じることができます。しかし、彼の建物はそのような派手さを主張しません。しかし同時に、周りの風景に溶け込むような控え目さもありません。その長さが醸し出す存在感は、あらゆる既存の被造物のイメージとも異なるがゆえに、無視できないのです。

そのデザインは地味ともいえるほどシンプルですが、今まで見たことがないものに出会ったような感触を受けるがゆえに、その建築は世界に溶け込むこともありません。

この家に住むことが快適かどうかは分かりませんが、その異質さはやはり見る者の注意を放しません。




巨匠フランク・ロイド・ライト

鹿島出版会

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