うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

この世界の片隅に

2016年12月05日 | 映画

片淵須直監督 2016年

ネットなどで話題になっていたので、見たいと思いながらなかなか見られなかったが、ようやく観ることができた。上映館が比較的少ない。会社の子によると、知り合いがこの映画を好きで、やはり上映館が少ないので苦労したとのこと。どちらかというと、郊外のイオンモールみたいなところでよくやってるようだ。

予備知識はなくて、ただ終戦間際の広島、呉の日常を描いた、ということだけ聞いていた。白状するまでもなく、このブログを追ってもらうとわかるように、僕は先の戦争のことを描いた映画となると目がないのだ。どちらかというと、勇ましい戦いよりも、翻弄される運命とか、人々の苦悩を描いたものが好きなのだけど。。昔はステレオタイプに暗黒の時代という描写一色というのが多かったが、そこは人間、実際にはたぶん、のんきな生活場面もあったり、人の温もりが伝わる場面や、他方他人の運命の厳しさに涙する場面、いろいろあったのだろうな。

この映画のすずさんと、それを取り巻く人たちみたいに。

正直、期待以上に良かった。ほのぼのした絵柄と、のん(能年玲奈改め。なんだかぞっとしない芸能界の裏話は、ネットで何度か目にしたけど。。)さんのふわっとした感じの語り口がよく似合っていて、子供時代のエピソードなど、昔の絵本のようなのどかさだ。

最初のエピソードは昭和8年。wiki年表を見ていると、ヒトラーの首相指名から国会放火事件、全権委任法の成立と、ファシズムが急速に台頭、一方アメリカではフランクリン・ルーズベルトが大統領に就任。国内では小林多喜二逮捕虐殺、滝川事件、ゴーストップ事件と、そろそろ思想統制が本格化してくる。そんな社会背景を通奏低音に、一方ではまだまだ庶民生活はささやかな楽しみに満ちていたようだ。商店街のきらびやかなモール、キャラメル、お菓子、ショーウィンドウの人形(だったかな?)などが映し出される。当時の日本もサンタさんの衣装があったらしい。すずさんの、子供の視点からの街の描写が楽しい。

物語はすずさんが大人になり(といっても満18)、呉にお嫁にもらわれるあたりから本格的に展開していく。昭和18年、まだ本土に空襲は来ていないが、食料は配給になって生活は日に日に厳しいものになりつつあった。すずさんも慣れない暮らしに必死になじもうとするが、朝暗いうちから食事の支度、姑、義理のお姉さんのもと、つらかったろうな。まだ二十歳前の子供なんだし。。

コツコツとぶつかりながらも次第に北條家になじんでいくが、一方でこんどは戦争の影が一段と濃くなっていく。食糧難、はじめての空襲。そして。。

すずさんは自分から何かを志そうとはしない。そう教えられてきたのだろう。本当ならというか、時代が許せば好きな絵の学校でも行って、何かを残すこともできたかもしれない。けれど、それはしなかった。だが、もらわれていった北條家の人たち、周作さんもご両親も、ちょっときついお姉さんも、すずさんを受け入れ好意を持っているし、すずさんにもそれは伝わっている。

ただ、幼馴染の水原君と再会したときは、ちょっとだけ本当のすずさんが見えてくる。水原君は不思議なことを言う(台詞はうろ覚えだが)。すずさんは本当に普通でええのう、笑いかたも、家族とのつきあいかたもふつうじゃ、と。そして、俺はどこから普通じゃなくなったんだろう、と。

水原君は子供の頃お兄さんを亡くし、そのあと自分も海軍に入って「青葉」に乗り組む。少年時代には少し影があるこどもだったようだが、水兵となった彼は快活に笑い、そんなに道を大きく外れているようにも思えないのだが。彼も色々運命に翻弄され、嫌いだった海を職場とし、好きだったすずさんと結ばれなかったことで、「普通じゃない」と思っているのかな。。

物語は戦争が終わり、周作さんと戦後の新生活を語るところまで続く。その先、すずさんと周作さんはどのような戦後を過ごしていったのかな。願わくば、楽しい日々を過ごしてほしい気がするけど。

適当に書き散らしてまとまりがなくなってしまった。とりあえずこの映画、数年に一度の傑作と言っていいと思う。

そういう比較は失礼だけど、「風立ちぬ」よりもずっと良い。ストーリーのまとまり、絵のきれいさ、声、そして随所にみられる微細にこだわりを見せた、事物の描写など。

映画館では、泣いたらあとで格好悪いな、と心配しながら見ていた。彼らを襲った過酷な運命は、本当に厳しく辛いものだと思うが、それでも僕はあの頃の日本人、日本の庶民たちのふれあい、家族の生活ぶりなどがうらやましく思える。本当の自分がいるべきなのは、あそこなのではないかと思ったりする。

いや、本当を言うと今だって、彼らのことを想い胸がぐっとなりながら書いているんだよ。。

*原作コミックもKindleでダウンロードしてみました。時間の取れるときに、コーヒーか何か飲みながら読むのが楽しみ。

終わって外に出たら雨。結構強く降っていた。

さて、個人的にもいろいろあったが、仕切り直しっと。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 週末 | トップ | 大衆の力 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画」カテゴリの最新記事