渡辺茂「ピカソを見わけるハト」によると、人間は不正確なくずれた情報からその元になったものを探り当ててしまう能力を持っているといいます。
図の1から5はそれぞれ六個の点が三角形を作っているように見えます。
よく見るとどの場合も、点を結んでいって三角形を形作ってみると、きちんとした三角形でなく、ゆがんでいることがわかります。
ところが指摘されなければ極端なものを除いては、疑問を持たず三角形と思ってしまいます。
この図は原型となる三角形と、これをくずしたのが1から5までで、そのほかにデタラメニ配置したランダムドットが示されています。
被験者にはランダムドットと原型を少しくずした図形(たとえば2)を最初に見せておいて、つぎに原型を含む6個の図を見せ、最初に見せた三角形にどの程度にているか評点をつけさせています。
この場合は最初に見せた図形が2なのですから、2が最も高い評点がつくはずなのですが、原型の三角形に最も高い評点をつけてしまうそうです。
この結果に対して著者は、人間は変形されたものを見せられたときに、その元になったものを見たと思っているのだとしています。
つまり人間はものを詳しく見ないで、既成概念に当てはめて見てしまう傾向があるということです。
詳しく正確に見ていこうとすると、時間とエネルギーがたくさん要りますが、既成概念に当てはめるのならエネルギーも時間も少なくてすむので便利です。
その反面たとえば原稿の校正をするとき、誤字があっても気がつかない場合のように不都合な面もあります。
またここでは、被験者が最初に見た図形をきちんと記憶しているかどうかを問題にしていません。
人間の視覚的な記憶というものはあいまいで、また持続しないのが普通です。
たいていの人は図形を見て、あとからその図がその図がどんな図形だったか正確に思い出すことはできません。
視覚的な記憶力の不足を既成概念で補うので、元の形を選ぶのです。
これに対して似たような実験をハトについて行うと、ハトのほうは原型のほうよりも最初に見せられた図形のほうを選ぶそうです。
ハトは指示に対して忠実で、思い込みで判断をしないで見たとおりを選ぶのです。
ハトは三角形といった概念を持っていないのかもしれませんが、視覚的な記憶力が人間よりも優れているので、既成概念で判断するような便法を使わないですむのかもしれません。
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