久遠の絃

-くおんのいと-
since 2003/9/1
キレイな写真なんていらない。もっと本当の姿が見たい

僕が君に魔法をかけた

2007年01月14日 23時36分37秒 | ことばのうみ
”僕が魔法をかけました”
”ねぇ、それはどんな魔法?”
僕の瞳の中、吸い込まれてしまいそうなくらい見つめる君の顔が飛び込む。ゆったりとした髪を揺らし、小さくグラスを傾けるように。
 からん
グラスの中に入った琥珀のようなアルコール。大きな氷がそんな音を立てた。
”さぁ、どんな魔法だろうね”
僕は何も答えず空になったグラスに目を移した。
”変な人・・・・・・ やっぱりあのころと変わってないのね”
白い肌に映える赤い唇に透明のグラスがそっと触れ、小さくため息をつくようにそのアルコールを飲み干した。
ゆっくりとした動作。もう酔ってるのかもしれない。潤んだような瞳が僕を見つめている。
”それじゃぁ君は変わったの?”
新しいグラスを前に僕は彼女に問いかけた。
 からん
空いたグラスの中で氷が踊る。黒いボトルから新しく注がれるその液体はゆっくりと氷を持ち上げていく。
”さぁね。どうだと思う?”
そう言って君は笑う。
”そっか、変わってないんだね。なんだか懐かしいよ、その顔は”
どこからともなく降り注ぐやわらかな音楽はいつの間にかピアノからヴァイオリンへと変わっていた。
”変わろうと思っても変われないものなのね。よかったわあなたも変わってなくて”
”でも、長い時間だったね”
”そうね、長かった”
僕を見つめる瞳がゆっくりと閉じられ、白い肌の顔がゆっくりと僕に近づく。赤い唇が僕の唇に触れ、あわく切ない思い出がよみがえる。
”ねぇ、さっきの魔法をかけたってどういう意味?”
ほおを染めた、いたずらっぽい笑みが唇に残る柔らかさに問いかけた。
”知らないよ。何となく言ってみただけさ”なんとなくね。
小さく消え入る声に君の声が重なる。
”じゃぁ私もあなたに魔法をかけてみるわ”
”どんな魔法?”
”さぁね。たぶんあなたがかけたのと同じものよ”
そう言ってもう一度唇を寄せた。



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