チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

MAZE(恩田陸/双葉文庫)

2006-12-24 20:41:18 | 
とあるアジアの西の果ての地、連なる岩山を越えた荒野の丘の上に白い直方体の建物がある。
それは天然のものとも人工物ともつかない。
その場所は数少ないそこをおとずれた人々に「有り得ぬ場所」などと呼ばれてきた。
その場所には昔から訪れた人が時折ふっつりと消えてしまうという伝説がある。

年齢40前後、年季の入ったフリーター時枝満は幼馴染の神原恵弥にかなり怪しい仕事を持ちかけられて引き受けた。
1週間この「有り得ぬ場所」通称”豆腐”に滞在して、この建物の人間消失の謎を解いてみて欲しいというのだ。
彼らの他には軍人と思しきスコット、そして現地の有力者の息子であるらしいセリムという4人の男性。
このプロジェクトにどのくらいの権力と金が絡んでいるかは明らかにされないがかなり大掛かりであることは確からしい。
しかしこの謎を解こうと、例えば衛星写真を撮影してもその場所は映らないというのだ。
過去の記録で一個小隊まるごと消えたというデータもあるため、うかつに近寄ることもできない。

特殊な場所、特殊な限定された状況で物語は進んでゆく。
満の目線で話は進行してゆくが、彼以外の全員が何かの事情を隠しているように思われ、本当の事を話しているかどうか判らない。

そして本書は意外な結論付けをされ、ちょっとそれは…理にかなっているといえばかなってるけどな~というオチながらも、それでは説明しきれない理不尽な謎も残されたまま終わる。
おそらく謎を明かす役割である恵弥も真実を知らされていないのだろう。

面白いのはここに出てくるキャラクター。
恩田陸には珍しく登場人物は中年の男性のみ。
特に面白いのが主要人物である小太りで料理上手な満と、態度は女らしくはないものの、まるっきり女言葉でマシンガントークな恵弥。
恵弥は恩田作品に登場する舌鋒鋭い美女達の男版といったところ。
彼いわく、女きょうだいに囲まれて育ったバイリンガルということらしい。
彼らの丁々発止が楽しくて、読みやすい。

特筆すべきは読む以前から評判になっていた『例の1行』
読んでいて鳥肌モノの怖い1行があるというのだ。
正直、わたし読んでてそれ気付くのかな?
と思いましたが
気付きましたー
というか、その直後の展開も含め怖かったーー

ここらへんを読むためだけでも読む甲斐がある1冊です。