チョコレート空間

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黒いカクテル(ジョナサン・キャロル/創元推理文庫)

2006-10-10 01:34:29 | 
『パニックの手』と並ぶジョナサン・キャロルの短編集。
・熊の口と
・卒業生
・くたびれた天使
・あなたは死者に愛されている
・フローリアン
・我が罪の生
・砂漠の車輪、ぶらんこの月
・いっときの喝
・黒いカクテル

またしてもブラックな作品揃いですが、『パニックの手』より読みやすい感じがするのは立て続けにキャロルを読んでしまったからかも知れません。
なんだか本書では高校時代が出てくるのがやけに多かった気がします。
そのときがみじめだったとか、逆にそのときが人生最良の時だったりとか。
割とその類はどうでも良くて、好きではないけど印象に残ったのは「くたびれた天使」
ゆるいタイトルの割には思い切りブラックな終わり方をします。
おいおい、そりゃないだろう、的な。
ややロマンチックな感じのする「砂漠の車輪、ぶらんこの月」
ロマンチックというよりは正確にはシュールというべきでしょう。
この最後に主人公が安らぎを感じてるけど一般的に見たらハッピーエンドじゃないよね!?な所が「秋物コレクション」に共通する気がしました。
そして本書で一番気に入ったのは「あなたは死者に愛されている」
心臓の悪いキャリアガールが交通事故がきっかけでストーカー的な凶悪なアルピノの若者と出会ってしまう。
いったいどうなってしまうの!?と思っていると驚愕の力関係の逆転が訪れる。
このメビウスの輪の様なハッとさせられる展開がキャロルの素敵なところ。
短編というより中編の「黒いカクテル」
これも途中から思いがけない展開をします。
そして最後の突き放し方と来たら!
確かにこの主人公たちは悟るとかいうよりモンスターっぽいですけどね。
”生肉男”とか全くこのネーミングには(笑)です

そして本書を読み終えた直後に知りショックだったことが訳者、浅羽莢子さんの訃報です。
既に先月半ばにお亡くなりだったらしいのですが。
キャロルの訳はもちろん、タニス・リーの妖魔シリーズの文章も美しくて豪華で好きでした。
だからこのところ立て続けにキャロルの文庫が出たのでしょうか、と思うと切ないです。
乳癌だったそうですが、まだ53歳と充分お若い年齢です。
もしご存命ならまだまだすばらしい文章を私たちに提供してくだすったでしょう。
残念でなりません。
ご冥福をお祈りいたします。