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空に浮かぶ子供(ジョナサン・キャロル/創元推理文庫)

2007-05-01 19:04:35 | 
『月の骨』シリーズ3弾。
原題は空に浮かぶ、というか「空を横切る子供」
前作にも出てきた映画監督のウェーバーが今回の主人公。
彼の親友ホラー映画監督のフィルがある日突然ライフル自殺を遂げる。
彼の作品「深夜」シリーズは絶好調だったのに。
しかも死の直前にウェーバーに掛けてきた電話はどうでもいいような、親指の話。

死後、ウェーバーに託された3本のビデオテープが届く。
その中には、ウェーバーのトラウマでもある子供の頃に飛行機事故で死んだ母親の、その死までの数分間が映っていた。
そして再生するたびビデオテープには新たな内容が追加されていた。

どうやらフィルはホラー作品を作り続ける中で、世界の成り立ちに関わってしまうような、重要な「なにか」をフィルムにしてしまい、そのせいで死ぬはめになったという。
そして放っておくとフィルにとって重要な人々-別れた恋人のサーシャなど-が死んでしまうという。
彼はウェーバーに彼が世に放ってしまった「なにか」を元に戻すような形で製作途中の「深夜」シリーズ最新作を正しく完成させて欲しいと頼むのだ。

『月の骨』シリーズの中では話が重層的で面白かったです。
驚いたのは作中作品として出てくる短編。
短編集『パニックの手』に収録されている『フィドルヘッド氏』や『きみを四分の一過ぎて』はこの作品の作中作だったんだ
これは贅沢です。
確かに充分立派な別個の短編ですから。

そしていつもながら各箇所に散りばめられた毒。
少年時代の死体を見つけるエピソードや、テレビの臨時ニュースで友達の父親の死が報じられる場面(ロックンロール)
子供で、物凄い美少女なのに腹が妊婦というピンスリープの存在。
自転車に乗ったダウン症の天使。
天使や神様がこんなところにいて、こんなに似つかわしくない姿かたちをしている、というのはキャロルが好きな設定のひとつのようですね。

しかしこのシリーズ内ではいちばん面白いと思ったものの、実はラストがよく判りませんでした。
誰かもしこれを読んだ方で教えてくださると嬉しいです。

★以下ネタバレ★-------------
結局ピンスリープはウェーバーに正しいことをさせようとしていたように終始見せかけ、フィルの才能では為し得ない「悪としての力を持った”本物”」を作らせるためにフィルと共謀した死の天使ということでいいんでしょうか。
そしてそれを最後に悟らされたウェーバーも、それが判ったけれど自分でそれを作るという魅力にあがらえなくてピンスリープ達の思惑通りに映画を完成させるであろうということなんでしょうか。
それにしても母の死の場面を映画に挿入して使うというのはなんとも悪魔的です。
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2 コメント

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Unknown (ちい)
2007-05-04 12:55:03
どうもありがとうございました。
自分も『空に浮かぶ子供』はかなりお気に入りの作品です。
「ロックンロール!」も印象的でしたが、
ピンスリープの生まれた理由というのが、
なんだか自分には衝撃でした。
実は子供の頃、自分にもピンスリープが
いたのです。あちらにはこんなこと書きづらかったので、ここに。変な人だと思わないで下さいね。
それでは失礼いたします。
 
コメントありがとうございます。 (よっちゃん)
2007-05-04 20:50:58
こんにちは。
身の周りにはキャロルを読んでいるどころか多分名前を知ってる人もいない気がします。
のでコメントなどいただけるとありがたいです。
もうすぐ文庫で新刊も出るようなので楽しみにしています。

子供の頃にピンスリープがいるのはそんなに変な事とは思いませんよ

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