蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話学裸の男フィナーレ終楽章について 6

2020年05月20日 | 小説
モンマネキ神話については部族民通信ホームサイトWWW.tribesman.asiaにて紹介されている(2019年9月30日、食事作法の起源1)。この頁に接近するにはトップ(検索)ページからサイト内検索ボタン(左上)をクリック、Googleカスタム窓でモンマネキを入力する。あるいは2019年頁に入って上記頁を選ぶ。より簡便な方法、モンマネキ神話でGoogle検索すると当ホームサイトの頁が一番目からぞろと並びます。お試しを。

多くのブログ読者様にはサイト閲覧の時間余裕がないかと。粗筋を以下に述べます。
モンマネキの冒険(神話M354Tukuna族の伝承)
大洪水で村人は死に絶えた。モンマネキと老母だけが生き残り、孤立した生活を営む。モンマネキは狩りの道具、老母は竈の火を所有している。(火と狩り、肉は文化に必需である。M1鳥の巣あらし神話では村が洪水に流され、バイトゴゴと祖母が生き残ったと伝える。モンマネキはまさに生き残ったバイトゴゴである)
夙にモンマネキは狩りに出る。道すがらカエルを見つけ悪戯心で棲む穴に尿を引っかけた。翌朝「お前がイバリを掛けたから妾(ワラワ)は子を身ごもった」カエルが迫った。モンマネキにしても同盟構築を心がけていたから、渡りに船、カエルを嫁にした。破局はすぐにやってきた。カエル嫁が用意する食事はムカデ、ゲジのかき集め。姑が「こんな食事が文化に昇華する訳がない」(=食事作法の起源)。異種同盟(動物との婚姻同盟)が4例続いて、全て食事作法に合致しないから姑に破談とされてしまう。5例目の人間の女(妙な言い回しを許せ)は漁労に長けている。身体を上下に分割できる。岸辺に下半身を置いて血を垂れ流す(経血、この頃はまだ月毎のさわりではない。月中に垂れ流しか一滴も出さない、不定期だった)。血におびき出され寄り来る魚を川面に浮かんだ上半身がすくい取る。普通の上下一体式の女がこれをやったら、水中の下半身が魚(ピラニア)に食われてしまう。嫁は水面下に下半身を持たないから安心してすくい取れる。
漁獲された魚食材は姑に否定される。(経血でおびき出す)漁獲法が規定外である(規定は魚が密集する溜まりに毒を流す)。より悪いは経血を吸収した魚は食せない(姑が働きの悪い婿を毒殺するために経血をふりまきの食を供した。別の神話)。二分割式の嫁は追い出された。
婚姻同盟を希求したモンマネキの努力は老母の「食事作法に合致するか否か」の検証で否定され、すべてが破談に至った。

対比される月の嫁神話は北米アラパホ族の伝承。
ホームサイトでの掲載は「食事作法の起源を読む」続き1(2019年10月15日)。当ページへの入り方は前述通りです。粗筋を以下に;
月の嫁(M425、北米プレーンズに居住していたArapaho族伝承)

アラパホ娘、ネットから採取

月を眺めあこがれる娘。姉妹二人と採取に出た。月の神(月に住む孤立家族の次男)は人の娘を娶らんと地に下りた。 野にて出会ったのが娘。神はヤマアラシに変身して「おいでおいで」のそぶりを見せた。娘は木に登ってヤマアラシを落とそうと棒を振るが、神はヒョイと逃げる。とうとう巨木の樹頂に至って、抱え込まれて月に下りた。太陽神(兄)はカエルを伴侶と選んだ。カエルとアラパホ娘、いずれが月の家の嫁にふさわしいか、食べ比べで選ぶ手はずとなった。食材はバイソンの乾燥肝臓。これがどのような硬度かは分からないが、日本人として「お煎餅」を思い起こして欲しい。
何が始まるのか、不安におののく嫁候補、月はテントに忍び込み娘を励ます。
「キミ、噛むときにポリポリ音を立てられるかな」月の世界の食事作法は「ポリポリ」の音立てだった。
「それって、アラパホ村での作法よ」娘は作法が同じなら人情も同じねと心したら一安心。月の世界で生きていけそう、食べ比べ出場の覚悟を決めた。太陽だってカエルに同じく示唆した。でもこっちは「ポリ音が好まれるのか」驚いた。カエルの作法はモグモグ、音立ては御法度なのだから。カエルは「なんとヤバンな所なんだ」意気がすっかりそがれた。
舅姑の臨席を仰いで娘とカエルの食べ比べが始まった。カエルは食材を口にするけどクネゴチャと舐めるだけ。ポリ音が一向に出てこないうえ真っ黒な脂汁の垂れ流しまでしでかした。アラパホ娘「ニバン~サ~ン」が登壇を促される。給された乾燥肝臓を手にとって「さあ、やるからね~」一気に全塊を大口に入れ、前歯に挟んで奥歯が噛みつく。ポリポリ音は平素のしつけの賜物、盛大に立てまくった。
舅らにはポリポリの豪快さがことさら優しかった。「イチバン~、アラパホ娘」

娘がポリポリの噛み音を立てなかったら、カエルが太陽の嫁になっていた。カエル優勢、人劣勢の構図が定着し、パリで人の脚を食う成金カエルが出現する。人類の恩人である。

乾き煎餅の噛み音が耳に快い日本人に、娘大口のポリポリ快挙は理解できる。
かくして娘が月の嫁になった。生活に慣れて十月十日、子を産みおとした。後に母となったアラパホ娘は子と共に月から脱出する。
この神話とモンマネキ神話を比較すると;神話自体(あら筋)は逆立し、意味(スキーム)は同一であるとレヴィストロースが教えた。一体、何の事なのか。
この辺りを哲人は語らないから、(勝手)解釈すると;
あら筋における逆立;
1 同盟の希求。獣(女ながら不完全を含め)の伴侶を人が求めるに対し、人(女)が(神に)求められる。
2 もうけた子。一方は獣側に属する(カエル、鳥など子を抱いて離れる)、人の祖先にはならない。これに対し子は月から地上に降り、アラパホ族民の始祖となる。
神話が「意味するところ」において同一とは;
いずれの神話とも文化の黎明期において、行いの基準を探りつつ、人と人社会にそれを適応する「意味」を語っている。モンマネキ神話では「食事作法」を探り、獣嫁の食事慣習は文化(食事作法)に適合しないと姑が判定を下し、モンマネキの婚姻は破断した。姑の決断から文化が獣性に汚染されず、人としての基準を範にする方向性を確保した。ムカデ食と経血魚捕りは前述したが、頼めばすぐに出てくる樹液酒、一茎の穂で1年分の酒を造る鳥の「秘伝」、草を刈るに根っこを食害し枯らすイモムシの技、これらが否定された。
月の嫁神話では「食事作法」が確立されていた。次の文化要素としての周期性の模索に移る。その始まりは兄の太陽と弟月の行動の周期性。天空での気儘な徘徊を止め、太陽は一日を作り月は一月を示す。これとあわせて女の周期性(月経と妊娠期間)も確立した。いずれも天空の神(父親)の指図だった。続く
(邦訳本の本書題名は「食卓作法...」原題のtableテーブルをそのまま訳した。しかし日本語の食卓作法の意は原義tebleと異なり、箸の持ちかた、椀のすすり方など狭視野の作法範囲に限定される。一方、新大陸先住民には食材の取得の由来、加工手順など、食卓作法を越えた広い視野で制約が課せられる。イスラムでは獣肉は一定の屠る決まり(ハラール)を経て肉以外は食べない。これも食事作法である)
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