肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『去年マリエンバートで』、観ました。

2006-07-06 22:22:05 | 映画(か行)

去年マリエンバートで

 『去年マリエンバートで』、観ました。
バロック調の豪華城館に、ひとりの男が迷い込む。城内では社交界のゲストが
集うパーティーが催(もよお)されており、男はそこでひとりの女を見つける。
「去年マリエンバートで僕たちは出会った」と女に声をかける男だが、女に
その記憶はない。だが男に迫られるうち、女は過去と現在の境を見失い、
その記憶は曖昧なものになっていく…。
 長らく映画を観ているが、これ以上の“異色作”には出合ったことはない。
そして、多分、今後も出合うことはないだろう…。こいつは「映画」であって
「映画」でない。いや、どちらかと言えば「映画」よりも「文学」、それも“詩”に
近い。幹となるストーリーはなく、シナリオすら存在してない。登場人物は
3人だけで役名もない。各シーンは、現実なのか、幻想なのか、現在なのか、
過去なのか、ハッキリせず、そこでは男が女に「去年会ったかどうか」の対話が
繰り返されるだけ。“過去の記憶”を遡(さかのぼ)るように…、“夢の世界”へ
誘(いざな)うように…、“幻想の中”へと吸い込まれるように…、そして現実の、
“今の自分自身”に言いきかせるように…、主人公が呟く独り言が、まるで
呪文のように果てしなく続いていく。この映画の始まりは、観客がいきなり
意味も分からず、暗闇の何も見えない“初めての場所”に放り出されて、何が
何だか分からない。勿論、その時点では、今、自分が立たされている場所も、
これから進むべき方向も分からないのだけど、映画が進むにつれて霧が晴れる
ように、少しずつ前方の視界が開けてくる。すると、「嘘」と「虚像」が光を失い、
透け出すように…、「本心」と「真実」が光を浴びて、見え出すように…、
大きいが冷たい感じのする豪華城館のこと、意味深なポーズをした石像のこと、
広くて殺風景な庭園のこと、いつも開いている扉のこと、鏡と円柱のこと、
大き過ぎる階段のこと、不思議なカードゲームのこと、不気味な射撃場のこと、
陰気臭い芝居劇のこと、かかとの折れたヒールのこと‥‥、それらは幾多の
ミステリアスを孕(はら)みつつ、騙し騙され男と女の心理戦、観る側に“無言の
サイン”を送り続ける。それにしても、観終わってすでに数時間が経つというのに、
いまだ“映画の迷路”から抜け出せず、さ迷い続けるボクがいる。「映画」とは、
見るもの??、考えるもの??、感じるもの??‥‥。いや、この映画に関しては、
そのどれもが当てはまらない。主人公の意識に同化して“イメージ”するもの…。
きっと、本作ではその表現がピッタリだ。