ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔家庭昭和史〕光男終戦日記(1) 昭和20年4月

2006年08月18日 | 昭和家庭史
昭和20年4月14日
 午前一時頃、町内へ爆弾焼夷弾多數落下。
直ちにポンプ班を指揮して消火に当たるが、奥村家より教会、長井家と延焼するに及んで万策つき緊急避難命令を出す。
 蒲團二枚、釜一つを出して、礫川校庭へ避難。
 明け方西願寺で妻子隣組員に落合ふ。
 君子と順子は蒲團一枚を持って逃げたが途中で遂に捨てて了った由。
 礫川へ一同集合。 焼跡から豆腐、おから、人参を持って来て隣組一同で食ふ。
八時半乾パン配給。
 瀧の湯へ一同引上げる。
共同炊事。
 ○石井さん見舞ひに来る。 ○丸尾、芋と握り飯を持って来る。
 区から毛布十枚、むしろを少し借りて、流し場の疊の上に寝る。

 4月15日
 父の祥月命日。
清水さん知らずにお経を讀みに来る。
○嘉一さん握り飯と絵本を持って来て呉れる。
 鮭の鑑詰配給一人一個宛。 夕方、石井さんへリヤカーを頼みに行く。 二日間の不眠不休で疲労甚だし。
 夜、大空襲。
焼かれた者の強さ、うとうと眠りつづける。

4月16日
 二度に分けて、丸尾へ荷物を運ぶ。
 菱沼さんの発議らしく、團子の御馳走、せん別十円。 組合積立金十円返して呉れる。
 愛子さん父より十円見舞。

4月17日
 朝、石井さん見舞品を持って来る。
 箪笥一竿 、米三升、 大豆一升、 かつ節一本、 醤油四合 紙、鉛筆 煮うどん釜一杯。
 ○傳叔父よりみつ葉一把。  
○鈴木、自転車で見舞に来て是非土浦へ来いと云ふ。(注1)
見舞金三十円貰ふ。

4月18日
 ヒゲブラシ、毛拂ブラシを買ふ。
 小石川税務署へ廃業届。
 安田銀行で國債貯金全拂。
今日、とても風あり。
 丸尾より見舞品レンゲ、シャモジ、ハシ。 丸尾へ二十日間代を拂ふ。子供のシャツを一枚やる。

4月19日
 今日は曇りでうすら寒い。
 朝、六時半、安田火災へ行き正午頃保険金六千八百円受取る。
途中空襲となったが直ぐ解除。
 富坂局へ三千二百円貯金する。
 組合川崎さんで、ブラシ、ゴムマル(注2)を貰ふ。
 ○嘉一さんから見舞として蒲団一枚呉れる。
 夢のやうな気がする。
 智生、十五日以来気管支カタル。今日最も悪し。注射をして貰う。

 4月20日
 順子、会社へ挨拶に行き、見舞金百円貰ふ。
 富坂へ行き挨拶。
 嘉一さんへ礼に行く。
○丸尾から今日、蒲団を呉れる。 あと一枚欲しければ百円で賣ると云ふ。断る。
 夜、石井さん、ビール、切りいか持参、遊びに来る。

4月21日
 朝三時半に四谷駅へ行く。
駄目。 荷造り準備。
 夕方、罹災後始めて湯へ入る。

4月22日
七時半から四谷駅へ行き、やっと切符が手に入る。
 今日、午後からやや暇。静養。

4月23日
 早朝、早崎君宅へ行き疎開してあった行李を取って来る。
智生のケープを貰ふ。
 荷造りをする。

4月24日
 午前八時より二時間空襲。
 丸尾と二人で飯田町駅へ荷物を運ぶ。
 午頃、石井さんへ車を返し、うどんをご馳走になる。
 二時頃、早崎君、ふかし芋を持って来る。 夕食を共にする。
 丸尾と、早崎君の頭を刈る。
 とうとう東京最後の夜となる。

4月25日
 三時半。 四谷駅を一番に乗る。五時五十分上野發。八時土浦着。 鈴木、米沢氏荷物を運んで呉れる。 たくわん、菜づけ、ねぎ、ごぼう、みつ葉を貰ふ。 魚の配給あり。常陽銀行へ三千八百円あづける。

4月26日
 五時起床。 丸尾、安達、石井へ礼状。
 砥石三つ、十三円で買ふ。
 貞雄さん来る。芋を貰ふ。 湯へ行く。

4月27日
 智生の牛乳申請。
 電燈会社へ行く。新聞紙を申込む。
 帰途、シューマイを食ふ。
文州(注)より葉書来る。
○米、味曽、醤油、塩、茶、砂糖、---一日配給とりに忙殺される。

 4月28日
 昨夜は罹災後始めて熟睡したので、頗る元気回復。
 午後、大森さん、前原さんの子等の調髪をやる。
 鈴木清一氏、丸尾光(注)より便りあり。
 文州、早崎君へ葉書を出す。
 英生と湯へ行く。 夜食の後、ミルク入り團子を食ふ。

 4月29日
 寒し、如何にも旅の空の感じ。
 隣家お祖母さんの顔を剃る。
鋏四、小型鋏一を磨いでやる。
雑巾三枚、ふかし芋を貰ふ。
○しじみの配給一円。
 荷物五個の内、四個届く。
やっと家の中が形づく。 今日までの収入四円五十銭。

 4月30日
 店の準備をし開業準備。 夜、仙台へ長文の手紙を出す。
 蒲團を依頼する。


■■ジッタン・メモ
(注1)
鈴木さんは昭和家庭史に登場する文芸同人誌「嘴」の仲間で、光男の親友。
鈴木さんは3月の空襲で被災し土浦に疎開していた。
17日には土浦から自転車で光男を訪ね、「住むところを用意してあるから」と彼が居住している隣家の空家への移住を勧めた。

(注2)
ゴムマルとは理髪で顔刷りに使う用具。ゴム皿の形状をしている。

(注3)
文州とは、前述の「嘴」同人の仲間。



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