北朝鮮による日本人拉致問題の象徴でもあり、あの『奪還』 を書かれた蓮池透さんが、拉致被害者家族会から強制的に退会させられるという信じ難いニュースが流れました。どう思われますか?
民主党政権で拉致問題はどうなるのだろうとずっと思っておりましたが、中井拉致問題担当相は元気がよく、問題解決の進展を期待していましたが、元気がよすぎて女性問題を取り上げられる始末…。
それはともかく、本書の著者である黄氏が来日するかもしれないというニュースが流れました。どれほどの衝撃を与えるのか分かりませんが、個人的には注目しています。さらに金賢姫氏の来日も予定されているらしいので、そちらにも大注目です。
本書を読めば、黄氏が日本、韓国、北朝鮮にとって特別の存在であると理解できるのではないでしょうか。
以下は以前にご紹介した記事を手直ししたものですが、よろしければお読みください。
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実は私の教え子のお母さんが、拉致被害者のお一人と同級生だったこともあり、間接的にいろいろお話を聞いておりまして、どうしても北朝鮮の拉致は許せないのです。
これまで、何冊も北朝鮮関連の本を取り上げました。その中でも 『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作(高沢皓司)』 はとうてい忘れられない一冊で、やはりそこで書かれている、日本人が深く拉致などに関わっていることが証明されたと思いました。
そしてもう一冊、『宿命』 に劣らず、深く心に残った一冊だと思われるのは 『北朝鮮に消えた友と私の物語』 です。そう、本書の翻訳者である、萩原遼氏が日本共産党員のころに出した衝撃の一冊です。
萩原氏がはじめて北朝鮮の強制収容所の存在を暴いたと言われています。その萩原氏が必死になって翻訳の権利を取って出版されたのが本書です。(こういう英雄的活躍をした人をどうして 『日本共産党』 は除名にしてしまうのか、理解に苦しみます。)
本書の著者は元北朝鮮の思想的リーダー、主体思想を発展させてきた黄長(ファンジャンヨブ)氏です。戦前に日本の中央大学、その後モスクワ総合大学に留学。42歳の若さで金日成総合大学総長就任。さらに72年からは11年間、北朝鮮最高人民会議(国会)議長を務めるなど、多くの要職を歴任している北朝鮮の元大幹部です。
金日成・金正日親子が、北朝鮮を宣伝する際に、思想的に最も頼りにしていた人物で、97年に韓国に亡命した時は大ニュースになりました。しかし…、今から考えると、残念なことにタイミングが非常に悪かったですね。
当時、金大中韓国大統領が太陽政策で2000年には南北首脳会談をすることになり、北への批判はできず、韓国内でも軟禁状態。小泉首相の訪朝は2002年ですから、北朝鮮や日本人の拉致問題に対する関心は日本では低かったですね。
北朝鮮の実態に世界中が気付いた今であれば、氏の亡命はとてつもないインパクトがあったでしょう。が、同じく超太陽政策の盧武鉉大統領下の韓国では、とても自由な活動ができませんね。
黄長氏は、実に淡々とした書き方で自らの出生から北朝鮮で果たしてきた役割や、家族を捨ててまで、亡命を決断するに至る経緯を語ります。金正日の実態が明らかになった今でこそ、続編を望みたいのですが、韓国では出版させてもらえないようです。
父親である金日成は確かにそれなりの人物であったようですが、金正日はそれに比べて権力闘争には天才的なひらめきを見せるものの、凡庸な俗物であるようです。とにかく経済とか思想といったものにはまるで無知で、度々繰り返される、北朝鮮の飢餓は天災ではなく、完全に経済失政が招いた人災であると指摘します。『餓鬼』で描かれた大躍進時代の中国そのままです。
氏が亡命を決断するのは、日々多くの人が飢え、あるいは拷問にかけられながら、自らは権力の維持しか考えていない金正日が許せないという気持ちからです。本気で南を攻めようとしている軍部に嫌気が差したのかもしれません。
すべてが金正日の一存で決まり、国全体を自分の奴隷のようにしか考えていないと指摘します。危険分子はそれと疑われるだけで次々と粛清され、でたらめの伝説をでっち上げることなどを通して、偶像崇拝を徹底させています。
それが貫徹しているため、他の国の独裁者のように人民の前に出て演説し、力を誇示したり、民衆を扇動する必要すらないというわけです。権力を完全に掌握した後は、父親の金日成さえ、金正日のご機嫌取りをしなければならないほどだったというのですから、驚きです。
金日成は晩年、自分が中心となって世界革命を起こすと妄想し、金正日はアメリカ・中国は自分の権威におびえていると吹聴し、高飛車な外交姿勢に周りが異を唱えることができず、後押ししている構図です。
さすがにソ連や東ドイツが崩壊した時には、言葉で表現できないほどの衝撃を受け、国内にも動揺が広がったそうですが、皮肉にも理論的裏付けでもって、その動揺を沈めたのが著者なわけです。とにかくけたはずれに頭が良いのですね。本書を読みますと、ものすごい学問的な修行をしているかのようです。
もちろん今では、金政権の権威付けに手を貸してしまったことで、良心の呵責にさいなまれるわけですが、当時、金正日にとって黄長氏は絶対に捨てられないコマだったわけです。
金親子を崇拝する自分の家族、最愛の妻にすら、何も告げずに亡命を実行します。亡命すれば、家族はもちろん、親戚など一族郎党が捕らえられるだけでなく、自分と一緒に仕事をした経歴を持つものまで疑われ、最悪、死を覚悟しなければなりません。しかし、家族や仲間よりも民族全体を救うという信念で亡命したそうです。
亡命者の意見をどこまで信用して良いかという疑問もあるでしょうが、萩原氏が信頼しているのであれば、ほぼ確実な情報ではないかという気がします。巻末に萩原氏が素朴な疑問をぶつけるインタビューが付いています。
P.S.今、ネットで黄長氏の論文を見つけました。ぜひご覧下さい。テレビ朝日が今年インタビューしたものに、氏が活動する“コリア国際研究所” が手を加えたものです。新しいです(2007年2月)。
⇒『6ヵ国協議合意をどう見るか 金正日政権に騙されるな』
北朝鮮民主化同盟委員長 黄長
金正日への宣戦布告―黄長〓@57F6@回顧録 文藝春秋 詳細 |
北朝鮮に消えた友と私の物語 文藝春秋 詳細 |
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『金正日への宣戦布告-黄長回顧録』 黄長(ファンジャンヨブ)著 萩原遼 訳 文藝春秋:422P:859円
本書には、北朝鮮の惨状はもちろんですが、氏の人柄というか、金正日との関係が非常に興味深く書かれています。お時間があればぜひ…。
黄氏が来日するのですか!
もしかしたら韓国にいるより日本での方が思うことを全て喋れたりして・・・。
興味深いですね。