数日前、本書の著者、高杉良氏の別の小説 『乱気流 小説 巨大経済新聞』 で名誉を傷つけられたとして、日本経済新聞社の鶴田元会長が講談社と高杉氏に損害賠償と出版差し止めを求めた裁判の判決がありました。
名誉棄損が認められましたね。出版差し止めは免れましたが、要するに、争点は、「乱気流」が虚構のエンターテインメント小説か、実在の人物を題材にしたモデル小説かどうかということだったのですが、判決では、“日経をモデルにした” と判断したということですね。
日経新聞に関しては、拙ブログで取り上げた、『日経新聞の黒い霧(大塚将司)』 や 『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日(ベンジャミンフルフォード)』 を読めば、かなり経営に問題ありだとわかっていますが、『乱気流』では、ないことまで書いたということでしょうか。未読なので何とも申せませんが…。
でもどうなんでしょう、人気の幸田真音氏や江上剛氏の本もしかりですが、“経済小説” という分野があるとすれば、現実に即して、その裏側を紹介するからこそ存在価値があるのであって、モデルがわからない経済小説というのはありえるのでしょうか。
つまり、正面から批判しても相手にされない強大な権力機構や、マネーシステムに対抗する手段が経済小説だと思いますから、モデルのわからない経済小説というのは言葉の矛盾のような気がします。
高杉氏の作品も、まさしくフィクションとノンフィクションの危ういところを書くというのが特徴で、本書もそんな一冊です。いわゆる“外資” の実態がどういうものか。日本の企業や税金までも食い物にしていくのではないかという危機感が書かせたのでしょう。
現実、最近でもサッポロビールが、外資に買収されるのを防ぐために、株主総会で買収防衛策を可決したばかりです。日清食品やアデランスといった、他の日本の有名企業も名前が上がっていますが、今やどの上場企業も外資の買収のターゲットになることを真剣に恐れるようになってきた印象です。
日本の3大証券の一つ、日興コーディアル証券もシティーバンクの手に渡ったばかり。あっという間のスピード決着で、しかも日興は上場廃止にはならないという決定でしたから、シティーは大満足でしょう。みずほがあれこれ思案している間にさっとさらっていきました。もちろん合法ですが、実際、イメージとしてはまぎれもなく“ハゲタカ”。
さらにこの5月からは、外国の企業が、現金ではなく、自社株を対価に日本企業を買収することができる、いわゆる“三角合併” が解禁になります。こうなるとますます今の円安ドル高は、日本企業の輸出が伸びると喜んでばかりいられません。『黒字亡国』にもありましたが、経済は本当に難しい。
日本における、そういったな経済の流れを危険だと感じたためか、本書では、外資は日本の企業風土に合わない、情け容赦のないハゲタカとして描かれています。バブル崩壊の影響で日本企業が苦しんでいる時期に書かれたものです。
主人公は外資系金融機関を渡り歩くエリートです。理想に燃えて仕事に励み、順調にキャリアの階段を登っていくのですが、徐々に外資の実態を知るにつれ、それ特有の考え方に疑問を抱きはじめます。
強引な手法によって、日本の一般企業だけでなく、金融機関、官僚や政府までもが手玉に取られ、結局途方もない額の税金を吸い取られた挙句、さらにその買収された企業では厳しいリストラが行われる。
当時、旧日債銀、長銀、そごうなど、規模の大きい企業の破綻処理には、税金を使うことや外資を入れることに関して、かなり論争がありました。本書では、日本の当局者が、外資の言いなりになっていく情けない構造が描かれています。
ストーリー自体が上手く展開しすぎる点、酒場談義や不倫(サービスのつもりかな?)などの余分な描写が多いかなという気もしますが、外資の行動原理のようなものがはっきり書かれ、なるほどと思いながら読みました。
外資が入ったおかげで、やっと、ほんとうにやっと不良債権が片付いて、日本経済が復活した、というのも事実でしょうが、果たして本当にハッピーになっているかどうか、モデルはリップルウッドと長銀。どう思いますか。
やはりフィクションなのかノンフィクションなのか、実にきわどいという感じがします。
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