僕と母はこの頃時々二人で公園の中を散歩します。そしてその時彼女は道端に咲いている花を「わぁーきれい!」とか言って嬉しそうに摘みます。
それを見て僕は「可哀相だから止めろ」と言ってやるのですが、彼女は止めようとしません。僕としては花だって生き物だからその生命を絶ってはいけないという論理で彼女を責めるのですが、どうやら彼女は別の論理(?)で生きているらしいのです。
でも今の僕には彼女の気持ちがなんとなく分かるのです。
数年前のある日、アルバイトの帰り道で僕の心は道端に咲いていたたくさんの小さな赤い花(後でサルビアと知る)に引きつけられてしまいました。そして僕は花に対して心から関心を持ったのです。心から。この赤い花たちは誰に見せようとして色づいているのだろうと。
花は植物の生殖器ですが、単に生殖目的ならあんなに美しい色形やいい匂いは必要ないはずです。花には眼や鼻がないのですから。
そういう認識から僕の妄想かもしれませんが、僕には次のように思われるのです。花にとっての幸せは人に自分の存在を認めてもらうことではないのか。どうしても自分のものにしたいと人に思わせるほどにと。
摘まれたらその花の生命は終わるけど、僕には花にとってはその存在価値を認められたのなら満足して死ねるのではないかと思われるのです。
花を女性が男性よりも愛するのはその価値を男性よりも認めてしまうからではないのか。認めてやるのではなくて認めてしまうのではないか。
そういう思いもあるから、僕はこの問題について善悪で裁いてはいけないのではないかとも思ってしまうのです。