我々が普段「痛み」と呼んでいるのは、急性疼痛と呼ばれる痛みのことだそうだ。
そして、それは切り傷の痛み、喉の炎症の痛みなど、痛みの原因が明確であり、その原因を取り除けば痛みを取り除くことができる。
それに対し慢性疼痛とは、身体組織から原因らしきものがなくなったにもかかわらず痛みがおさまらない疼痛のことで、そのメカニズムには不明な点が多く、その現象自体がなかなか理解されてこなかった歴史があるそうだ。
患者は痛みだけでなく、痛みを理解してもらえないという苦しみをも抱え込まねばならなかったのね。
でも、最近の研究では、この慢性疼痛、どうやら記憶と関係していることが分かってきているらしい。
これは損傷や炎症から来る痛みの刺激が消失した後にも、神経系の中に「痛みの記憶」が残ってしまう状態と考えられているそうだ。
つまり、痛みの記憶をうまく消去できなくなった状態のことだそうだ。
このことは、損傷や炎症といった身体組織の物理的変容のみならず、記憶もまた痛みの原因たりうることを意味している。
さらに、これに関する興味深い事実があり、慢性疼痛を感じている状態にある患者は、外部から与えられる急性疼痛の痛みを「快」と感じるという。
慢性疼痛患者と健常者に同じ痛み刺激を加える実験を行なったところ、本人の主観的報告では、どちらのグループも痛み刺激について同程度の不快感が表明されているものの、脳の活動を見てみると、慢性疼痛患者は健常者とまったく異なり、急性の痛み刺激をまるで「報酬」のように捉える活動パターンを示していた。
また何よりも、患者本人に慢性疼痛の変化について尋ねると、一様に驚いた様子で「〔慢性疼痛の〕自発痛は減っていました」と報告したという。
國分功一郎著『暇と退屈の倫理学』から引用。
う~ん、うすうす感じてはいたけど、人間って本当に不思議な存在だなあ。