玉川上水みどりといきもの会議

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玉川上水の小平市鷹の台地区での鳥類調査(2023年7月から2024年6月)

2024-06-11 21:41:41 | 調査報告
大出水幹男・高槻成紀

はじめに
 小平市鷹の台地区の鎌倉橋から「いこい橋」までの間(1.6 km)は、樹林幅が35 mほどもあり、玉川上水全体でも幅が広く、鳥類も豊富である(高槻ほか 2023)。ここは「小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線」(以下、小平328号線)が計画されている(こちら)。実際の工事の内容や時期などは不明であるが、この種の開発が行われる場合、しばしば開発後の動植物の状態は開発前のデータがないために、その影響が評価できないことが多い。こうした中で杉並区の「放射5号線」の場合は、工事前後の調査が行われたために、道路開通が鳥類群集に及ぼす影響が明瞭に示され、事前調査が重要であることが示された(大塚ほか 2023)。その意味で、鷹の台地区の小平328号線予定地でも現状の記録をしておくことが望ましいと考え、2023年と2024にかけて毎月一度の調査を行ったので、報告する。

方法
 方法は高槻ほか(2023)と同じで、玉川上水の鎌倉橋から「いこい橋」までの距離1.6 kmの範囲(図1)の左岸をゆっくり歩くラインセンサス法によって鳥類を確認して記録した。センサスは原則、月1回行い、10月は2回おこなった。時刻は午前7:00から約1時間をかけた。


図1. 調査地の地図

 生息地と鳥類の関係を示すために,鳥類の生息地選択によるタイプ分けをした.これにはAVIANデータベース(高川ほか 2011)を採用した. JAVIANデータベースでは生息地を市街地,農耕地,海岸,湖沼河川,湿地,草地裸地,森林,高山に分けてあるので、それをもとに次の7つのタイプに分けた。

森林型、都市・森林型、都市・農地型、都市・水辺型、水辺型、都市型、ジェネラリスト

 このうちジェネラリストは森林、農地、都市環境など特定の場所に限らずどこでも生息するタイプである。

結果
 12回の調査で通算31種、合計1767個体が記録された。種数は7-10月中旬までは10種前後と少なかったが、その後増加して18-20種レベルになり、4月以降は徐々に減少した(図2)。


図2. 種数の推移

 個体数は7, 8月は80個体前後であったが、その後増加して12月には最大数の236個体となった。その後徐々に減少して150個体ほどになり、5月以降は100個体をやや下回った(図3)。


図3. 個体数の推移

 主要種の月変化を見ると、ヒヨドリが10月に非常に多くなり、その後も多かった(図4)。ムクドリの月変化は明瞭な季節性はなかったが、夏には少なく、11月、2月などに20個体を超えた(図4)。ハシブトガラスは比較的安定しており、12月に30個体と多くなった(図4)。カワラヒワは夏には少ないか全く記録されなかったが、11月から4月に多くなった(図4)。


図4. 主要種の個体数の推移

 これらに準じるものとして、シジュウカラは20個体前後で安定しており、6月の巣立ち時期に多くなった(図5)。メジロは夏から10月下旬までは少なく、その後20個体程度に増加し、その後漸減した(図5)。ヤマガラは9月を中心に多く、そのほかの月は少なかった(図5)。ハシボソガラスは8月前後が多く、そのほかの月は少なかった(図5)。


図5. 準主要種の個体数の推移

 個体数の通年の合計値はヒヨドリが25.1%で最多であり、シジュウカラ(11.6%)とハシブトガラス(10.5%)の3種が10%以上であった(表1)。
なお、「小平市の鳥」に選ばれたコゲラは12位であり、5月を除く全ての月で記録され、この場所に安定的に生息することが確認された(図6)。

図6. 小平市でのコゲラの個体数の推移


表1. 通年の種ごとの個体数


 生息地選択のタイプ別の種数と個体数を表2に示した。なお種ごとのタイプは付表1に示した。種数は都市・森林型が10種で最多、森林型とジェネラリストがそれぞれ10種で多かった(表2)。森林型と都市・森林型を合わせると51.5%と過半数となり、森林に生息する鳥類が多いことが示された。
 ただし、ジェネラリスとは種ごとの個体数が多く、森林型は逆に個体数が少ないため、タイプごとの個体数を見るとジェネラリストが48.7%で半数近くを占め、森林型は4.7%に過ぎなかった(表2)。

表2. JAVIANの生息地選択に基づくタイプ分けとその種数と個体数


考察
 同じ範囲で2021年に行った調査では27種が確認され(高槻ほか, 2023)、今回はそれよりやや多かった。これは2021年には7回しか調査をしなかったためで、今回だけで記録されたのはアオジ、オナガ、キセキレイ、クロジ、ジョウビタキ、ダイサギ、モズ、ルリビタキ、カッコウ類の1種の9種であった。2021年だけで記録されたものにアトリ、オオムシクイ、カッコウの3種があった。
 本調査地は樹林状態が良いために、2021年に調査した小金井、三鷹、杉並と比較して種数も個体数も最も豊富であった(高槻ほか, 2023)。ここでは10年間の調査で84種もの鳥類が記録されており、その豊富さは皇居(西海ほか2014; 黒田ほか2017)や明治神宮(柳澤・川内 2013)に匹敵する(大出水・高槻, 未発表)。そしてその内訳は森林に生息する鳥類が多いということが特徴的であった。そして「小平の鳥」に選定されたコゲラも安定的に生息することが確認された。

コゲラ

 状態の良い樹林があり、鳥類が豊富であるということは、当然その食物となる昆虫類や果実類も豊富であるということであり、また営巣するための樹木の状態も良いということである。
 東西に連続するこの樹林帯を縦断する道路がつけば、樹林が失われ、鳥類をはじめとする生物多様性が甚大な被害を被る。特に長距離を飛翔することが少なく、樹木の幹や枝を歩くように移動するコゲラにとっては幅36メートルもある道路ができることは深刻な影響があると思われる。
 杉並における「放射5号線」が開通した時も鳥類群集は大きな影響を受けた(大塚ほか, 2023)。この場合は大型道路が玉川上水を挟むようにつけられたが、「小平328号線」の場合は樹林帯を縦断するので、被害はさらに大きくなるものと懸念される。
 道路建設については、いうまでもなく多方面からの価値観や意見があ理、容易に解答は得られないが、鳥類群集の保全という点から言えば極めて深刻なマイナス影響が予測される。玉川上水は太平洋戦争後に急速で大規模に進行した東京都の開発の中で、奇跡的に残された連続緑地であり、自然が失われた東京都全体にとっても極めて価値が高い。このことを東京都が公表した「生物多様性地域戦略」に照らせば、この道路計画は慎重に見直す必要があると考えられる。

文献
黒田清子・小林さやか・齋藤武馬・岩見恭子・浅井芝樹. 2017. 2013年7月から2017年 5月までの皇居の鳥類相. 山階鳥類学雑誌, 49: 8–30. こちら

西海 功・黒田清子・小林さやか・森さやか・岩見恭子・柿澤亮三・森岡弘之. 2014. 皇居の鳥類相(2009年6月-2013年6月). 国立科博専報, 50: 541−557. こちら

大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. Strix, 39: 25−48. こちら

高川晋一・植田睦之・天野達也・岡久雄二・上沖正欣・高木憲太郎・高橋雅雄・葉山政治・平野敏明・三上 修・森さやか・森本 元・山浦悠一(2011)日本に生息する鳥類の生活史・生態・形態的特性に関するデータベース「JAVIAN Database」. Bird Research, 7: R9–R12. こちら

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫. 2023. 玉川上水の植生状態と鳥類群集. 山階鳥類学雑誌,55: 1−24. こちら
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