都市における鳥類による種子散布の一断面
以下の記録は今年の1月に採取した鳥類による散布種子集団を2月11日の観察会で類型し、その後高槻が残りを類型、カウントしてまとめたものです。観察会当日のようすは こちら
<はじめに>
私たちは赤い実のなる木にヒヨドリなどの鳥が来て食べているのを見ることがある。鳥たちは木の実をついばみながら下に落としたり、飲み込んだりしているが、やがていなくなる。おそらく別の木に移動するのであろう。その木の下にはたくさんの果実が落ちているが、その木の果実以外にもいろいろな果実が落ちている。これらはその前にいた木のものであろう。
鳥類による種子散布のイメージ
以下の記録は今年の1月に採取した鳥類による散布種子集団を2月11日の観察会で類型し、その後高槻が残りを類型、カウントしてまとめたものです。観察会当日のようすは こちら
<はじめに>
私たちは赤い実のなる木にヒヨドリなどの鳥が来て食べているのを見ることがある。鳥たちは木の実をついばみながら下に落としたり、飲み込んだりしているが、やがていなくなる。おそらく別の木に移動するのであろう。その木の下にはたくさんの果実が落ちているが、その木の果実以外にもいろいろな果実が落ちている。これらはその前にいた木のものであろう。
鳥類による種子散布のイメージ
こうして鳥類は移動できない植物の種子を散布している。そういう植物は鳥類に種子を運んでもらうために目立つ色の、あまり大きくなくて鳥がひと飲みできるくらいの大きさの果実をつくるように進化してきたと考えられている。
このことは当然想定されることだが、実際に調べるのはそう簡単ではない。山の林で木の下にある果実を探すのはきわめてむずかしいので、シードトラップ(種子を受ける装置)をたくさん置いて回収するということがおこなわれるが、そう簡単にできることではない。その点、都会の公園などにある木で下が舗装されていれば、落ちた果実は容易に発見でき、回収も簡単である。
<方法>
このことを利用して、小平市の3カ所で次のようなサンプリングをした。
1) 小平霊園のトウネズミモチの木の下
2) 小平市大沼公民館のクロガネモチの下
3) 青梅街道駅近くのJAの駐車場の電線の下
種子採取地の位置関係
小平霊園のトウネズミモチ(2018年1月)
と小平市大沼公民館のクロガネモチ(2018年1月)
上に母樹がある場合は当然その木の果実が多いが、3)は直近には木はなく、鳥が電線にとまって吐き出したり、糞をしたりした果実や種子が落ちていた。
採取は1)と2)は2018年1月4日、3)は1月7日におこなった。採取した面積はだいたい幅1m、長さが4、5mほどの範囲だが、厳密に測定してはいない。というのは絶対値が意味があるのではなく、内訳のほうが重要だからである。
<検出種子>
検出された種子は21種と数種の識別不能種があった。不明種の数はごく少ない。
検出された種子(1)1. アオキ, 2. イヌツゲ, 3. カラスウリ, 4. クロガネモチ, 5. ケヤキ, 6. ケンポナシ, 7. ジャノヒゲ, 8. シロダモ, 9. センダン, 10. ツタ, 11. トウネズミモチ, 12. ナンテン。格子間隔は5mm
検出された種子(2)1. ネズミモチ、2. ハナミズキ, 3. ヒヨドリジョウゴ, 4. ピラカンサ, 5. ブドウ, 6. ヘクソカズラ, 7. マンリョウ, 8. ヤマハゼ。格子間隔は5mm
数が多かったのはトウネズミモチとクロガネモチで、この2種は母樹からの落下が大半である。このほかではピラカンサ、ナンテン、ネズミモチ、マンリョウ、エノキ、センダンなどがある程度多かった。
21種のうち約半数の10種は栽培種であり、都市環境を反映していた。ただし、アオキ、イヌツゲ、ナンテンは野外にもある。またマンリョウも野外にあるが、調査地の範囲では野生のマンリョウはまずないので、栽培種とした。やや多かった6種のうち、野生種はネズミモチとエノキだけであった。なお、21種のほとんどは「多肉果」であり、堅果はケヤキ1種、乾果はヤマハゼ1種にすぎなかった。したがって鳥類に散布されるのは基本的に多肉果であり、そうでない場合でも実質的に多肉果状のものであることが確認された。
ピラカンサ、マンリョウ、イヌツゲ、エノキ、ヒヨドリジョウゴ
カラスウリは果実が例外的に大きく、鳥類は果肉をついばむが、種子が食べられるかどうかわからなかったが、これで種子を散布することが確認された。
カラスウリ
ケンポナシは形態学的には果肉でなく果柄部分が肥厚したものだが、生態学的には多肉果である。この「果実」はすぐに母樹から落ちて甘い匂いがするので哺乳類がよく利用するので、鳥類が利用していたのは発見であった。
ケンポナシ
またジャノヒゲの種子は青くつやがあって多肉果のように見える。このため食べても栄養はないと思われるが、いわば「だまされて」食べるものと思われる。ジャノヒゲは密生する葉の下に果実をつけるので見つけたにくいが、それを鳥類が探して食べたものと思われる。
ジャノヒゲ
ヘクソカズラの果実は赤や青のように鮮やかではなく、人の目には目立たない黄褐色であり、果肉もあまりないように思われるとが、鳥類が食べていることが確認された。
ヘクソカズラ
ヤマハゼの仲間は種子の外面に資質に富んだ物質があって鳥類が好むことが知られている(ヌルデ:桜谷2001,ヤマハゼ:佐藤・酒井 2001,上田・福居 1992,ヤマウルシ:原田 2005; 桜谷 2001)。
ケヤキは風散布であり、鳥類がケヤキを食べるという記録があるかないか確認の必要がある。
ケヤキの果実
小平市の3カ所で回収した鳥類散布種子集団。母樹由来の種子は灰色で示した。
<落下種子集団>
樹下には母樹の果実も多数あったが、これらは対象外とし、種子だけをカウントした。予想どおり、小平霊園ではトウネズミモチの種子が、大沼公民館ではクロガネモチの種子が大半を占めていた。青梅街道駅ではトウネズミモチの種子が大半を占めていた。
回収された種子の内訳(クロガネモチとトウネズミモチ以外はまとめて「その他」とした)
次に外部から持ち込まれた種子集団について見る。小平霊園には11種が外部から持ち込まれていた。とくに多い種はなく、ばらついていた。大沼公民館では13種の持ち込み種子があり、トウネズミモチとピラカンサが多かった。これらに対して青梅街道駅では持ち込み種子数は10とさほど違いはなかったが、大半はトウネズミモチであり強い偏りがあった。
持ち込まれた種子の内訳(%)
<まとめ>
この調査でわかったのは、都市の多肉果をつける樹木や鳥だまりの下に落下している種子を調べることで、鳥類による持ち込み種子があることが確認され、その種数は10種あまりであったということである。母樹のない鳥だまりの1例ではトウネズミモチが大半を占めた。トウネズミモチはトウネズミモチの母樹の下ではもちろん、クロガネモチの下でもある程度検出されたから、小平市には絶対量が多いものと思われる。
堅果であるケヤキが食べられていたのは意外であった。ニホンザルは冬にケヤキの堅果をよく食べることが知られているが(辻・中川, 2017)、鳥類での知見は未確認である。そのほか、小数ながらケヤキ、ジャノヒゲ、ヘクソカズラ、ケンポナシなどこれまで鳥類が食べることを確認していなかったものが確認できた。
<観察会のテーマとして>
自然観察会などのテーマとして、野生植物だけでなく、庭に植えられたナンテン、マンリョウなどが鳥類に散布されていることを確認するものとして適していると思われる。難点は分析に時間がかかることで、すぐには答えが出ない点である。しかし通りいっぺんの観察では知り得ない「ストーリー」が読めるという程では一歩深みのある観察会に適用できると思われる。また少数ながらヘクソカズラ、
引用文献
上田恵介・福居信幸.1992.果実食者としてのカラス類Corvus spp.:ウルシ属Rhus spp.に対する選好性.日本鳥類学会誌 40: 67-74.
桜谷保之.2001.近畿大学奈良キャンパスにおける野鳥類の食性.近畿大学農学部紀要 34: 151-164.
佐藤重穂・酒井 敦.2001.ヤマハゼRhus sylvestris果実の鳥類による被食過程.森林応用研究 10: 63-67.
辻大和・中川尚史.2017.日本のサル.東京大学出版会
原田直國・上田義治.2005.農業環境技術研究所生態系保存実験圃場における果実食鳥による種子散布の記録.インベントリー 4: 15-19.
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