子らの未来に残したいものはー伐採されたコブシの木に寄せてー
安河内葉子
2016年に小金井市の玉川上水沿いに引っ越してきました。玉川上水は、都心にほど近いにもかかわらず30kmにも及ぶみどりの回廊です。子どもにそのような環境のすぐ近くで育ってほしいと思い、引っ越しを決めました。当時の小金井市の玉川上水は、小金井公園正面口付近500mほどの間だけ樹木が少なく、それ以外の場所ではケヤキやムク、エノキ、クワなどの大木が残っていました。のちに樹木の少ないその場所は小金井サクラ復活事業のモデル地区であることを知りましたが、その頃は何年か待てばこの辺りも他の場所のようにみどり豊かになるだろうと考えておりました。
小金井に越してきた翌年、高槻成紀先生が代表を務める玉川上水花マップの植物調査に参加するようになりました。玉川上水で見られる様々な種類の木々や草花、その季節折々の姿、植物を頼りに生きるいきものたち、たくさんのことを勉強させていただきました。調査で学んだことは子どもにも伝えました。はじめは自然に興味を持たなかった子どもも、少しずつ理解できるようになりました。よく実のなるクワの木をみつけ、習い事の帰りに友達と一緒に食べて帰ってきたりもしていました。
そんな数年間の間に、小金井橋から梶野橋の2kmほどの区間で伐採はだんだんと進みました。そしてついに、昨年度の冬は小金井橋から陣屋橋、今年度の冬は陣屋橋から梶野橋までの区間において、サクラとツツジ以外の木が、わずかなモミジやマユミを残してなくなってしまいました。梶野橋から西を望めば、遠くの山々が見えるほどにひらけています。足元の法面を見れば、切られたばかりの生々しい切り株が並んでいます。
我が家のすぐそばにあったコブシもまた、切られた木のうちの一本です。毎年春先にたくさんの白い大きな花が咲き誇っていました。
今年も枝いっぱいに花芽をつけ、春を待っていました。
ところが、この木にも伐採予定の赤いテープが巻かれました。伐採の数日前、なんとか伐採を見直してもらえないだろうかと、「この木を切らないでください」と書いた張り紙を取り付けました。張り紙を取り付けた際のコブシの木肌のヒヤリとした感触を、この先忘れることはないでしょう。しかし張り紙は取られ、コブシは切られてしまいました。
私はコブシの切り株を一部もらい受け、年輪を数えてみました。30年から40年は経っているようで、自分と同じほどの時を重ねた木であったことがわかりました。
玉川上水をこの地につくったのは人間です。管理していくのも人間です。そこにサクラを植えるのか、あるいは自然に育った木々を残すのか、どちらが正しく、どちらが正しくないということはありません。ただ、人それぞれに玉川上水に込めた想いがあります。その想いが相反するものであっても、寛容さをもってお互いに認め合ってほしいと願わずにはいられません。未来を担う子どもたちに何を残すのか、私たち大人はしっかりと考えるべきです。
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