玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

たまゆら草 高槻成紀 2021.2.24

2023-09-03 09:09:12 | 意見・エッセー
たまゆら草 
高槻成紀

春になりさまざまな野草が咲き始めるのは楽しみなものです。その中でも雑木林の下に生える野草には格別のものがあります。以下のスケッチは玉川上水で見られる早春の野草ですが、その多くは初夏には枯れて消えてしまいます。



 落葉樹は冬のあいだ、葉を落とすので林は明るくなりますが、気温が低いので野草類は生育できません。春になると木々は葉を開き、あっという間に林は暗くなります。これらの野草は、この、暖かくなって、しかも林が明るいという短い期間に一気に伸びて花を咲かせ、光合成をして地下に物質を蓄えたら、あとは次の春まで地中で眠るという生き方をするようになりました。それは長い進化の間に生まれた実に微妙な生き方です。特殊といえば特殊な生き方です。

 光合成には光と温度が重要な要素なので、暗くても気温が高い時期に盛んに光合成をするような生き方を選んだ植物もあるし、さんさんと直射日光が当たるところでどんどん育つ生き方を選んだ植物もあります。

 さて、早春限定に育つ野草は短い間に消えてしまうので、スプリング・エフェメラル(春のはかないもの)と呼ばれますが、私は大和言葉で「たまゆら草」と呼んではどうかと思います(こちら)。たまゆら草は季節変化の明瞭な落葉広葉樹林という場所での特殊な生き方を選びました。いわば他の植物との競争を避ける生き方を選んだといえます。そのため、直射日光が当たる環境では、これらの野草には明るすぎるだけでなく、他の植物がどんどん伸びるので、競争に負けてしまいます。

 生物多様性の考え方の最も重要な点は、こうした特殊な生き方をする植物を含め、多様な生き方をする生き物の全ての存在を尊重するという点です。それは地球という星に生まれて、気の遠くなるような長い時間をかけて生まれてきた生き物たちに対する敬意から生まれた考え方といえます。そのことはもちろん人の個性、文化の多様性、独裁よりも民主的な政治のあり方などとも重なるものですが、生物多様性はそれらを離れて純粋に価値のある考え方です。世界はそれを尊重し、日本もこの考え方を取り入れることにしました。今では日本における自然保護の最重要な考え方になっています。

 こうした流れを考えたとき、サクラだけを守って他の樹木は要らないからすべて伐るという姿勢の意味を考える必要があると思います。たまゆら草はそのことを教えています。
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