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玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

タヌフン博士を観察する 2 マーカー事件

2017-07-01 02:34:10 | ぽんぽこ便り
★「白の50番事件」
 津田塾大学構内にはタヌキがいて、タヌフン博士はタメフン調査を行っている。私(棚橋)がそのタヌキの行動範囲を知りたいと言ったところ、
「ソーセージなどの餌にプラスチックの色番号付きマーカー片を入れてタヌキの来そうな場所に置き、それを食べたタヌキのフンから出てきたマーカーを調べることにより、タヌキの動きを推定する」
という「マーカー調査」を教えてくださった。初めての経験だったが、私たちはマーカーをつくり、ソーセージに入れ、津田塾大学のキャンパス内において、タヌキが食べてくれて、タメフン場に糞をしてくれるのを待った。


 準備したマーカー入りソーセージ

 タメフン場には新しい糞あり、タヌフン博士が分析用にもちかえって水洗したところ、なんだか白いものが入っていたという連絡がきた。最初は「貝殻かな?」くらいに思ったそうだが、よく見ると50という数字がみえる。そこで「白色の50番」の写真が送られてきた。


出てきた「白いマーカー」

 白色のマーカーなど置いていない…。どうやらこれはテープの粘着面に貼られた薄膜であり、色で場所を区別しようとしていたのにこれでは場所がわからない!ということに気がついた。皆、落胆の色は隠せなかった。

 だが、これであきらめるタヌフン博士ではない。
「待てよ、棚橋さんはマーカーにするテープの角がなくなるようにハサミで切っていた(タヌキの消化管やお尻のために)。もしかしたら、その切った形からわかるかもしれない。ダメもとだが聞いてみよう」

 夜11時ころ、再びタヌフン博士からのメールがあった。
高槻メール「ダメもとで聞きますが、色付きマーカーの写真を撮っていませんか? 50番の写真があれば、形から何色かわかるかもしれません。」
棚橋メール「ス、スバラシイ思いつき! あります!」(そして添付画像を送信)
 すっかり深夜の0時すぎ頃、再びタヌフン博士から比較画像とともにメールがきた。


 5色の50番マーカー

高槻メール「さ、さなえちゃーん! ピンクでないの? うん、まちがいない、ピンクの、上が平らで左肩が斜めなのはほかにない。これは快挙である! シャーロック・タカツキ」
(注:さなえは棚橋の下の名前)
棚橋メール「ま、間違いありません!名探偵!ということは、北東、梅子墓所東のですね!!!」
……こうして無事に白の50番の出処が判明したのだった。

 後にタヌフン博士は、そのときのことをこう回想している。

 棚橋さんはプラスチックテープの角が四角いと、タヌキの消化管やお尻を傷つけるのではないかと心配し、私に相談した。失礼なことに私はその相談を受けたとき、笑い飛ばしてこう言った。
「あのねえ、私はたくさんのタヌキの糞を分析したけど、哺乳類の骨はもちろん、プラスチックの塊りや、輪ゴムや、ゴム手袋や、もうなんでも出てくるんですよ。野生動物は硬いから食べないなどと言っていたら生きていけない。皆さんが思うよりずっと丈夫でたくましいんです。やさしいのはいいけど、人間の感覚をそのまま延長するとまちがうことだってある。」
 私の言ったことはまちがっていないと思う。が、もちろん角を切ってはいけないということではない。その面倒な作業をしたことにあきれ、感心したまでだった。しかし一枚一枚ハサミで角を落としたために形が異なり、そのことがマーカーを置いた場所をつきとめることにつながった。

 このエキサイティングなコトの運びに、タヌキ調査参加者は大いにわき、タヌフン博士にとってもお気に入りのエピソードのひとつとなった。

★名探偵シャーロック・タカツキ
 フンを「ふるい」で水洗いしたときも出る植物片や種、カケラをみながら「これは〜の〜ですね」と言っている様子は、名探偵さながらだ。


 糞の中身をじっとながめるタヌフン博士

 BBCの取材のとき、タヌキの糞を水洗して、ふるいの上の破片をじーっと眺めては「これはミズキの種子、これはスズメノカタビラの葉、これはげっ歯類の大腿骨」とつぎつぎと中身を言うので、イギリスの取材者が舌を巻いていた。


 BBC取材のとき、クリス・パックマンに糞の中身を説明するタヌフン博士


 水洗して出てきた糞の中身

そういうタヌフン博士を見ていると、段々と、チェックの帽子にマントを羽織り、虫眼鏡を持っているように見えてくるのだった。

(つづく)

タヌフン博士を観察する 1 その特徴

2017-07-01 01:25:17 | ぽんぽこ便り
★似ている
 よくペットは飼い主に似るというが、高槻先生はタヌキに似ている。というか、「タヌキの親分」という感じだ。もともとはシカがご専門であるとのことだが、シカにはあまり似ていない(と私=棚橋は思う)。
 話し方が丁寧で少しゆっくりな……ちょうど聞き入りやすい一定のスピードを保ち淡々と、でも温かみがあり、ときにユーモアを交えるので、聞き手は子どもが昔話でも聞いているときのように、心地よく聞き入ってしまう。なによりも話している様子が、いつもとても楽しそうである。


 ゆったりペースで解説する高槻先生


 楽しそうに説明する

その、淡々、堂々、のほほんと自分のペースで活動する感じが、タヌキのイメージに重なる気がする。顔はもちろん似ている(と思う)。


 子供と話をする高槻先生

★魔法のバッグ
 先生は子供観察会のとき、自分のことを「タヌフン博士」と紹介していたから、以下はタヌフン博士と呼ぶことにする。タヌフン博士の生態(…というほどは知らないが)はおもしろい。
 まずスタイルは、薄茶色系の帽子に、たくさんポケットのついたベスト、チノパン、チェックのシャツが定番だ。
 そしてリュック。このリュックの中からは、ドラえもんのポケットさながらに、ピンセットやルーペやポリ袋、ティッシュ、スケッチブックなどたくさんの便利グッズが登場する。どの道具も、コンパクトにきれいに整理されているので、いつでもパッと必要なものが出てくるのである。片付けが苦手な私はいつも関心してしまう。いろんなこと見習いたいと思い、観察会のときにはジップロックのような小さなビニール袋やビニール手袋は、私も持ち歩くことにした。
 あるとき観察会を終えたお昼にカレーを食べに行った際、ビニールを取り出し、食べきれないナンを袋に入れながら
「この袋はこういうときにも役に立ちます」
と言っていた。なるほど。
 これと対照的なのが、観察会に参加している探検家で医師の関野吉晴先生。関野先生はタヌフン博士と同じ大きさのリュックの中をいつも探りながら
「あれ?どこにいったかな…持ってくるの忘れたかな…?」
とお茶目にはにかみ笑顔を作りながら、なかなか必要なものが出てこない。この二人の先生を比較観察するのも観察会の楽しみだ。この二人は、玉川上水を通りすぎる人の視線を気にもとめず、仲良くうんちをつついていたことがある。

★100均のボード
 タヌフン博士は最近はA4サイズほどのホワイトボードがお気に入りだ。観察会では散策をしながらたくさんの人に植物の解説をする。その際、多くの人に少し離れていても見える大きさで、ボードに図や文字を描きながら説明をしてくださる。「これは100均で買ったのですが、なかなかいい」と近くにできた100均もお気に入りのご様子。タヌフン博士がイギリスのBBCに取材されたとき、「狸」という漢字を100均のボードに書いて意味を説明し、取材クルーを喜ばせていた。タメフン場で糞を拾うときには日本の「割り箸」が活躍し、これもイギリス人を喜ばせていた。


 100均で買ったボードで説明するタヌフン博士

★ネズミの死体事件
 ある日、私がひとりでタヌキ調査のために津田塾大学を散策していたとき、茶色の小さなネズミが仰向けに死んでいるのを発見した。まだ死んだばかりのようで、とてもきれいな状態だった。それを一応写真に撮り、帰ってから報告のひとつとしてタヌフン博士にメール送信した。
 すると
「できればそれをひろって私にください」
 という。迷ったが、次の日再び拾いにいくと、ネズミはひどく傷んでいた。1日経っているため、体いっぱいに虫がうごめいている。意を決してビニール手袋をはめてうごめきを手に感じながら拾った。タヌフン博士の指示に従い、例の袋に5重くらいにいれてお菓子箱に入れて周辺をテープでとめた。
 その日の夜、駅の改札でタヌフン博士に渡すことになり、そこまで私は車で移動したのだが、車中はなんとなく異様な匂いが立ち込めた。改札にいたタヌフン博士はちょっと笑みを浮かべながら
「ご苦労様です」
 と嬉しそうにしている。箱を渡しながら、傷んでいる様子や匂いについて報告をすると
「あぁ、それはウジ虫ですね」
 と当たり前のように言う。私は思わず
「ヒヤー!!!!」
 となった。これをどうやって処理するのか尋ねると
「ちょうど今、亀の骨格標本をつくるために庭で亀を煮ているので、その鍋でグツグツ煮て骨格だけを取り出します」
 という。この人はどういう毎日を送っているのか。


 タヌフン博士が作ったネズミの骨格標本

★「速い!」
 タヌフン博士は多くの本を出されている。どうしてそんなことができるのか不思議に思うが、その理由がわかってきた。
 観察会を終えたその日の夜までには、観察会であったことを文章にし、写真とともに報告書を作成してしまう。データ化したものも、次の日くらいには送られてくる。このスピードは本当に脱帽ものだ。そして周囲は(特に写真記録係は)、このスピードについていくことがやっとの状況で、毎度「棚橋さん、写真を早く送ってください」とせっつかれることとなるのだった。

(つづく)

交通事故

2017-01-10 08:21:38 | ぽんぽこ便り
 玉川上水から1キロメートルほど北にすんでいる親戚が、近くのお寺の近くでタヌキが交通事故に会って死んでいたと、写真を送ってくれました。2016年10月3日のことです。頭を轢かれたようで、口から出血しています。その後処理されたようです。野生動物の死体はゴミとして処理されます。


交通事故で死亡したタヌキ(2016年10月3日、小平市)

 そのお寺は道を挟んで神社もあり、両方で直径数十メートルほどの林があるので、前からタヌキがいるだろうと思っていたところでした。
「せっかく生き延びて来たのに、こうして死んで行くんだ」
と胸が痛みました。
 英語では「ロードキル」といいますが、交通事故死といえば「死ぬ」ですが、「キル」は「殺し」です。そのほうが実態を的確にとらえた表現です。
 実は私は学生と麻布大学がある神奈川県相模原市と隣接する町田市で野生動物の交通事故を調べたことがあります。驚いたことに両市で年間800頭もの犠牲者が出ており、3分の2ほどはタヌキでした。私の感触としては小平市よりは自然が残っているようなので、タヌキもいるし、自動車量も多いために交通事故が多いのだと思います。小平のほうが交通量は多そうですが、野生動物はあまり生き延びていないのではないかと思います。
 生まれて来る数と死ぬ数のバランスが崩れたときに数の変化が起きるのですから、死ぬ数が多くなればいなくなります。
 この例はこのあたりのタヌキの将来が楽観できないことを示していると思います。

タヌキの足

2017-01-10 02:39:17 | ぽんぽこ便り
これはタヌキの足です。「あし」といえば脚あるいは肢と足があります。腕と手のひらの関係です。

 
左が前足 右が後足

タヌキの足は人の足に対応します。あたりまえのようですが、馬の足は中指の先端です。タヌキの足跡は「梅の花」といわれますが、これは「肉球」が丸いからで、この5個が梅の花の花びら5枚のようだということです。雪の上についたタヌキの足跡はなるほど梅の花に似ています。



もっともこれは本当の梅の花というより、デザイン科された「梅花」の形に似ているからです。



タヌキの頭骨

2017-01-10 01:27:25 | ぽんぽこ便り


これはタヌキの頭骨で、意外感があると思います。というのはずいぶん細長いからです。タヌキといえば丸顔、骨もそうだろうと思いますが、意外に細面なのです。丸顔の印象があるのは、この頭骨に筋肉がつき、長い毛が生えているからです。頭骨はキツネ、アライグマなども似たようなものですが、タヌキだけが脳の収まる部分の表面に独特のザラザラ感があります。
 前歯は3対で、小さく、先端に切れ込みがあります。その手前に牙(犬歯)があります。これはたいへん大きく、ほかの歯とは飛び抜けた大きさです。イヌ科の動物はだいたいこういう大きい犬歯をもっていますが、犬歯は英語でcanineといい、canisというのはイヌの意味です。その奥に3つ位の前臼歯、さらに奥にもう3対の後臼歯があります。
 下顎の基部には3本の突起がありますが、中央の突起が頭部の「受け」とがっちり組み合わさって蝶番のように顎を上下する支点になっています。