★「白の50番事件」
津田塾大学構内にはタヌキがいて、タヌフン博士はタメフン調査を行っている。私(棚橋)がそのタヌキの行動範囲を知りたいと言ったところ、
「ソーセージなどの餌にプラスチックの色番号付きマーカー片を入れてタヌキの来そうな場所に置き、それを食べたタヌキのフンから出てきたマーカーを調べることにより、タヌキの動きを推定する」
という「マーカー調査」を教えてくださった。初めての経験だったが、私たちはマーカーをつくり、ソーセージに入れ、津田塾大学のキャンパス内において、タヌキが食べてくれて、タメフン場に糞をしてくれるのを待った。
準備したマーカー入りソーセージ
タメフン場には新しい糞あり、タヌフン博士が分析用にもちかえって水洗したところ、なんだか白いものが入っていたという連絡がきた。最初は「貝殻かな?」くらいに思ったそうだが、よく見ると50という数字がみえる。そこで「白色の50番」の写真が送られてきた。
出てきた「白いマーカー」
白色のマーカーなど置いていない…。どうやらこれはテープの粘着面に貼られた薄膜であり、色で場所を区別しようとしていたのにこれでは場所がわからない!ということに気がついた。皆、落胆の色は隠せなかった。
だが、これであきらめるタヌフン博士ではない。
「待てよ、棚橋さんはマーカーにするテープの角がなくなるようにハサミで切っていた(タヌキの消化管やお尻のために)。もしかしたら、その切った形からわかるかもしれない。ダメもとだが聞いてみよう」
夜11時ころ、再びタヌフン博士からのメールがあった。
高槻メール「ダメもとで聞きますが、色付きマーカーの写真を撮っていませんか? 50番の写真があれば、形から何色かわかるかもしれません。」
棚橋メール「ス、スバラシイ思いつき! あります!」(そして添付画像を送信)
すっかり深夜の0時すぎ頃、再びタヌフン博士から比較画像とともにメールがきた。
5色の50番マーカー
高槻メール「さ、さなえちゃーん! ピンクでないの? うん、まちがいない、ピンクの、上が平らで左肩が斜めなのはほかにない。これは快挙である! シャーロック・タカツキ」
(注:さなえは棚橋の下の名前)
棚橋メール「ま、間違いありません!名探偵!ということは、北東、梅子墓所東のですね!!!」
……こうして無事に白の50番の出処が判明したのだった。
後にタヌフン博士は、そのときのことをこう回想している。
棚橋さんはプラスチックテープの角が四角いと、タヌキの消化管やお尻を傷つけるのではないかと心配し、私に相談した。失礼なことに私はその相談を受けたとき、笑い飛ばしてこう言った。
「あのねえ、私はたくさんのタヌキの糞を分析したけど、哺乳類の骨はもちろん、プラスチックの塊りや、輪ゴムや、ゴム手袋や、もうなんでも出てくるんですよ。野生動物は硬いから食べないなどと言っていたら生きていけない。皆さんが思うよりずっと丈夫でたくましいんです。やさしいのはいいけど、人間の感覚をそのまま延長するとまちがうことだってある。」
私の言ったことはまちがっていないと思う。が、もちろん角を切ってはいけないということではない。その面倒な作業をしたことにあきれ、感心したまでだった。しかし一枚一枚ハサミで角を落としたために形が異なり、そのことがマーカーを置いた場所をつきとめることにつながった。
このエキサイティングなコトの運びに、タヌキ調査参加者は大いにわき、タヌフン博士にとってもお気に入りのエピソードのひとつとなった。
★名探偵シャーロック・タカツキ
フンを「ふるい」で水洗いしたときも出る植物片や種、カケラをみながら「これは〜の〜ですね」と言っている様子は、名探偵さながらだ。
糞の中身をじっとながめるタヌフン博士
BBCの取材のとき、タヌキの糞を水洗して、ふるいの上の破片をじーっと眺めては「これはミズキの種子、これはスズメノカタビラの葉、これはげっ歯類の大腿骨」とつぎつぎと中身を言うので、イギリスの取材者が舌を巻いていた。
BBC取材のとき、クリス・パックマンに糞の中身を説明するタヌフン博士
水洗して出てきた糞の中身
そういうタヌフン博士を見ていると、段々と、チェックの帽子にマントを羽織り、虫眼鏡を持っているように見えてくるのだった。
(つづく)
津田塾大学構内にはタヌキがいて、タヌフン博士はタメフン調査を行っている。私(棚橋)がそのタヌキの行動範囲を知りたいと言ったところ、
「ソーセージなどの餌にプラスチックの色番号付きマーカー片を入れてタヌキの来そうな場所に置き、それを食べたタヌキのフンから出てきたマーカーを調べることにより、タヌキの動きを推定する」
という「マーカー調査」を教えてくださった。初めての経験だったが、私たちはマーカーをつくり、ソーセージに入れ、津田塾大学のキャンパス内において、タヌキが食べてくれて、タメフン場に糞をしてくれるのを待った。
準備したマーカー入りソーセージ
タメフン場には新しい糞あり、タヌフン博士が分析用にもちかえって水洗したところ、なんだか白いものが入っていたという連絡がきた。最初は「貝殻かな?」くらいに思ったそうだが、よく見ると50という数字がみえる。そこで「白色の50番」の写真が送られてきた。
出てきた「白いマーカー」
白色のマーカーなど置いていない…。どうやらこれはテープの粘着面に貼られた薄膜であり、色で場所を区別しようとしていたのにこれでは場所がわからない!ということに気がついた。皆、落胆の色は隠せなかった。
だが、これであきらめるタヌフン博士ではない。
「待てよ、棚橋さんはマーカーにするテープの角がなくなるようにハサミで切っていた(タヌキの消化管やお尻のために)。もしかしたら、その切った形からわかるかもしれない。ダメもとだが聞いてみよう」
夜11時ころ、再びタヌフン博士からのメールがあった。
高槻メール「ダメもとで聞きますが、色付きマーカーの写真を撮っていませんか? 50番の写真があれば、形から何色かわかるかもしれません。」
棚橋メール「ス、スバラシイ思いつき! あります!」(そして添付画像を送信)
すっかり深夜の0時すぎ頃、再びタヌフン博士から比較画像とともにメールがきた。
5色の50番マーカー
高槻メール「さ、さなえちゃーん! ピンクでないの? うん、まちがいない、ピンクの、上が平らで左肩が斜めなのはほかにない。これは快挙である! シャーロック・タカツキ」
(注:さなえは棚橋の下の名前)
棚橋メール「ま、間違いありません!名探偵!ということは、北東、梅子墓所東のですね!!!」
……こうして無事に白の50番の出処が判明したのだった。
後にタヌフン博士は、そのときのことをこう回想している。
棚橋さんはプラスチックテープの角が四角いと、タヌキの消化管やお尻を傷つけるのではないかと心配し、私に相談した。失礼なことに私はその相談を受けたとき、笑い飛ばしてこう言った。
「あのねえ、私はたくさんのタヌキの糞を分析したけど、哺乳類の骨はもちろん、プラスチックの塊りや、輪ゴムや、ゴム手袋や、もうなんでも出てくるんですよ。野生動物は硬いから食べないなどと言っていたら生きていけない。皆さんが思うよりずっと丈夫でたくましいんです。やさしいのはいいけど、人間の感覚をそのまま延長するとまちがうことだってある。」
私の言ったことはまちがっていないと思う。が、もちろん角を切ってはいけないということではない。その面倒な作業をしたことにあきれ、感心したまでだった。しかし一枚一枚ハサミで角を落としたために形が異なり、そのことがマーカーを置いた場所をつきとめることにつながった。
このエキサイティングなコトの運びに、タヌキ調査参加者は大いにわき、タヌフン博士にとってもお気に入りのエピソードのひとつとなった。
★名探偵シャーロック・タカツキ
フンを「ふるい」で水洗いしたときも出る植物片や種、カケラをみながら「これは〜の〜ですね」と言っている様子は、名探偵さながらだ。
糞の中身をじっとながめるタヌフン博士
BBCの取材のとき、タヌキの糞を水洗して、ふるいの上の破片をじーっと眺めては「これはミズキの種子、これはスズメノカタビラの葉、これはげっ歯類の大腿骨」とつぎつぎと中身を言うので、イギリスの取材者が舌を巻いていた。
BBC取材のとき、クリス・パックマンに糞の中身を説明するタヌフン博士
水洗して出てきた糞の中身
そういうタヌフン博士を見ていると、段々と、チェックの帽子にマントを羽織り、虫眼鏡を持っているように見えてくるのだった。
(つづく)
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