道々の枝折

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体熱の倹約

2022年11月14日 | 健康管理

列島各地から雪の便り、愈々厳しい寒期が始まる。
防寒・保温に熱心な高齢者がついうっかりしていることに、皮膚から蒸散する水蒸気が凝結した水分の体熱冷却作用がある。これを軽視したり無頓着な人は多い。

皮膚から出る水分には先ずがある。過剰な体熱が産生されると、それを冷却するために、私たちには発汗作用が備わっている。汗は体の積極的な冷却の働きである。

気温が下がることは、体熱低下の主要因だから、誰もが着衣や暖房により、保温に気を配る。それで十分かというと、そうではない。
見過ごしがちなのは、水蒸気が飽和して発生する凝結水(コンデンスウォーター)である。皮膚に接している下着は常時凝結水の吸収と放散を繰り返している。運動しないで安静にしていても、就寝中でも凝結水は発生し、気化するときに体温を奪う。ゾクゾクすると感じる時は、凝結水が気化している時である。ベッドや暖かい部屋から外に出ると、凝結水の気化で途端に体温を数℃失う。風があれば、風速1mあたり1°Cの体温を失う。凝結水は自覚していないが、体の冷えの原因のひとつである。

コロナワクチンの接種が始まって以来、免疫力の低下で惹起される帯状疱疹の増加が取り沙汰されているらしい。コロナの予防のための処置が、ごく普通の感染症を防ぐ自然免疫力を低下させる可能性がもしあるのなら、コロナワクチン接種後の高齢者は、出来るだけ免疫力を落とさない生活を心がけなくてはならない。

体熱を産生する仕組みには筋肉が関係している。安静にしていても、基礎代謝により体熱は産生されている。したがって、体熱の逸失を放漫にしていると、体は体熱の産生を余分に増やさなければならず、生体エネルギーの使い途は免疫よりも産熱に傾いてしまう。体熱の逸失量は僅かでも、常態化していれば体力は消耗し免疫力も低下する。常態的な体熱の損失が、私たちの様々な体の不調の要因になっている可能性は、有って当然と考えてよいだろう。

免疫力の語は、医学用語ではないそうだが、生活用語ではある。
ちょうど今頃の気温が下がる季節に、「体がついて行かない」という言葉をよく聞くが、それはこの体熱の逸失と関係があるのではないか?秋から初冬にかけて、つい知らずに体を冷やしてしまい、体調不良に陥ることはよくある。

体熱を無駄に失わないことは、高齢者の健康維持に大きな意味を持つ。
それは、暖かい部屋に居るとか暖房を効かせているとかの、外気への対応だけで済むことではない。外気より暖かい部屋に居ても、被服の内部で失われている体熱があることを知るべきである。

体を冷やさない生活の先ず第一は、汗をかかないことである。発汗は体温を下げる生理的な働きだから、激しい運動をして体温が上がれば発汗は増え、そのままでは冷却が進む。体力を失う因になる。

次に身体の各部位の中で放熱機能が高く、ラジエターの効果を発揮している頭と耳、首周り、手と手首の保温・防寒に注意したい。禿げた頭を直接寒風に晒して平然としている御仁を見かけるが、貴重な体熱を徒に浪費していることに気づいていない。生体エネルギーを無駄遣いすれば、免疫力は必ず低下する。老人は冬には保温目的の帽子・手袋・マフラーを手放してはいけない。この3点が無いと、体を冷やし続けることになる。就寝中でも、暖房を使っていなければ、ナイトキャップは老人の必需品だろう。

運動で汗をかくのは、筋肉の収縮により産生された体熱を放散冷却するためである。汗の水分が蒸発し体熱を下げることは、産生熱を捨てることで正しい生理機能だが、見方を変えれば産生熱の濫費という面もある。老人には、時に運動が仇になることがあり、昔の人はこれを「年寄りの冷や水」と言って警告している。
発汗は高齢者の体に負担をかける。過剰な運動は、発汗と疲労の両面で、免疫力を下げる大きな要因になる。

感染による発熱は体の免疫機能を高めて、感染したウイルスや細菌から組織の細胞を守る自律的で正常な反応である。つまり、体温を上げることによって、免疫を活性化させる仕組みが機能した結果である。そのような機能が体に具わっているということは、人体は体熱を無駄に失ってはいけないということである。円安による諸物価高騰の折から、消費の倹約も大切だが、体熱の倹約も健康の上からは重要である。

若い頃は、体熱は無尽蔵に湧き出るもので、それを浪費すると免疫力が弱まるなどとは思いもよらなかった。また無駄遣いに気づかないほど、体熱の産生が盛んだった。
しかし、高齢になって、熱の産生量が有限であることが解ってくると、体熱というものが人の生命活動上いかに大切であるかを思い知った。

30代の始めの頃、フィリピン・ルソン島の密林内を丸木舟で移動中にスコールに遇ったことがある。
その時初めて、熱帯のスコールというものが、元は上空の積乱雲の凝固した氷の粒で、地表近くで溶けた冷水であることを知った。
僅か3、40分の降雨だったが、その間Tシャツと半ズボンで雨着も傘も持たなかった私は、氷点に近い雨にずぶ濡れになり、体熱を奪われ歯の根も合わぬほどに体が冷え切ってしまった。休憩ポイントについた時には、困憊していた。体温を維持するために、体力を消耗したのだろう。歩行して産熱していたら、それほどにはならなかったかも知れない。熱帯モンスーン気候の地の6月だから、雨に濡れて行動しても何の心配もないと舐めていた罰である。これが私の低体温体験の初めだった。

次の低体温体験は、50代の終わりごろ
に遭遇した。20年の歳月は、間違いなく体熱の産生量を減らしていたようだ。
それは春3月、遠・信国境の山歩きをしていた時のことである。
1600m前後の広くなだらかな稜線を歩いていて、汗をかくほど暑くなり、アウターの防風ジャケットを脱ぎセーター姿になった。
2・30分ほど、涼しく快適な谷風に吹かれ、稜線漫歩を愉しんでいたら、急な身体の震えに襲われた。低体温から身を守る身体の自律反応である。
慌てて稜線の日向斜面、遠州側に降り、樹林内の凹地に風を避けた。さらにジャケットを着込んで熱いコーヒーを飲み、行動食を食べた。暫くすると震えは収まり、登山を続けられる体調に戻った。

これらはどちらも、不注意と不心得に因る低体温症の発症の実例だが、日常の生活でも、体熱の浪費は、うっかりするといつでも発生する。
汗が出ない状態でも、私たちの体は水分を発散していて、それは皮膚表面から下着に吸収され、僅かながら水湿の状態にある。この水分が蒸散する際に体熱を奪う。この水分の素は、皮膚から蒸発する水蒸気で、被服内で飽和して生まれた凝結水である。

低い気温に晒されたり、風に吹かれて水分の気化が盛んになると、自覚しない状態でも体は冷やされる。その結果僅か数度でも体温が下がれば、それを回復するために自律的に産熱機能が高まり、相当分のカロリーを消費する。相対的に免疫力維持のエネルギーは低下する。風邪その他の感染症に罹りやすい状態になるのは、このような時らしい。

高齢者は汗をかかない程度に保温することが肝要である。これは夏の熱中症対策よりもはるかに難しい。
厚着が良いのではない。屋内なら三層、屋外なら四層のレイヤーが標準である。体熱の損出と発汗を、衣服の重ね方で調整しなければならない。

衣服の素材による機能の違いを知ることは極めて重要である。吸水性は綿、透湿性はまたは麻綿混、透湿性・発熱性・保温性はメリノウール保温性はウールカシミヤアルパカダウンが優れ、衣服の内層・中層・外層に目的に応じて使い分けるべきである。

ポリエステル素材の軽さと断熱性・気密性だけは天然素材に無いものなので、最外層(アウター)の防風・防水・防湿着として活用したい。透湿機能のあるポリエステル素材(ゴアテックス)などは、凝結水の生成を防ぐに効果があるが、湿度が100%に近い露点環境下では、物理的に凝結水の発生を避けられない。霧や雲の中を歩く時は、透湿機能を過信しないことが大切かと思う。
間違っても、水分を吸収しないポリテステル素材を冬場の下着に選んではいけない。皮膚表面の水分を衣料が吸収しない欠陥は、機能的にどう改良しようとも改善できない。
裏起毛のポリエステルインナーなどは凝結水を全然吸収しないから、着用しないに越したことはない。


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