ファーウェイ、5Gモデム内蔵プロセッサーで「Mobile AI 2.0」を宣言
「Mobile AI 2.0の到来」日経 xTECHより 9月10日
中国ファーウェイ(華為技術)のConsumer Business Group CEOのRichard Yu氏は、世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスの展示会「IFA 2019」(2019年9月6~11日、ドイツ・ベルリン)の開幕を告げる基調講演に登壇し、子会社のハイシリコンが設計した5Gモデム内蔵のスマートフォン(スマホ)用アプリケーションプロセッサー(SoC)「Kirin 990 5G」を発表、詳細を説明した。5Gモデム内蔵プロセッサーの発表では、9月4日に行った韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に先を越されたものの、市場投入では一番乗りになる見通しだ。
今年から市場に登場している5G対応スマホは、SoCの他に5Gモデムチップを搭載している。例えば、ファーウェイの5Gスマホ「Mate 20 X(5G)」は、Kirin 990の前モデルでLTEモデム内蔵の「Kirin 980」に加え、5G専用モデム「Balon 5000」を搭載している。
Yu氏は、5Gモデムを内蔵したSoCの登場は5Gの普及を後押しし、AIのパワーをどこでも利用できるようになる「Mobile AI 2.0」の時代が来ると話した。既存のハイエンドスマホはSoC内にAI(人工知能)関連の計算処理をするNPU(Neural network Processing Unit)を備え端末でエッジ処理をしているが、携帯電話回線が高速で超低遅延の5Gになることでクラウド経由のAI処理もリアルタイムでできるようになるという。
Yu氏は5Gが本格的に使えるようになることで、クラウドのAIもリアルタイムに利用できる「Mobile AI 2.0」の時代が来ると話した(写真:日経 xTECH)
CPUコアを8個搭載し処理能力アップ
Kirin 990 5Gは5Gモデムを内蔵する以外に、従来モデルより大幅な機能強化が図られている。詳細は別記事で紹介するが、主な改良点を挙げるとこうなる。CPUコアは最大動作周波数が異なる3種類を合計8個搭載する(最大動作周波数が2.86GHzのArm Cortex-A76が2個、2.36GHzのCortex-A76が2個、1.95GHzのCortex-A55が4個)。NPUは「Tiny-Core」と呼ぶ低消費電力で稼働する小さなコアを併用し、従来より電力効率が24倍に高まったとしている。GPUはKirin 980で10コアの「Mali-G76」を搭載していたが、今回16コアのMali-G76に増強した。
ファーウェイの子会社・ハイシリコンが設計した5Gモデムを内蔵したスマートフォン(スマホ)用のアプリケーションプロセッサー「Kirin 990 5G」
製造はEUV(極端紫外線)露光を使った7nm世代の技術を使っており、総トランジスタ数は103億としている。なお、Kirin 990シリーズには5Gには対応していない4G対応の「Kirin 990」もある。
Kirin 990 5Gの技術概要
ファーウェイはKirin 990 5Gを搭載した5G対応スマホ「Mate 30シリーズ」の発売を計画しており、Yu氏は欧州では9月19日にドイツ・ミュンヘンで発表会を開催すると話した。
政治とは離れて現実路線貫く
Yu氏は基調講演で、競合する米Qualcomm(クアルコム)やサムスン電子のチップセットを含めたベンチマークテスト結果を随所に示し、露骨なまでにKirin 990 5Gの優位性をアピールした。5GとAIの活用がメーンテーマの今回のIFAにおいて、「主役」であることを満員の聴衆に印象付けた。
もう1つ見逃せないのが、IFAを主催するドイツのメッセベルリンが、米中貿易摩擦の矢面に立つファーウェイをあえて基調講演のトップバッターに据えたことだ。
その背景には、ファーウェイの技術力もさることながら、欧州市場における中国の経済的存在感の拡大、コンシューマーエレクトロニクスのサプライチェーンにおいて中国企業はその中心にいるという現実を直視した結果だ。筆者は、もう1つの世界最大級の見本市である米国の「CES」への対抗という意味も大きいと考えている。