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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

酔うと化け物になる父がつらい

2021年06月12日 | 映画(や行)

ダメとわかっていても、止められない

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原作者菊池真理子さんの実体験に基づいたコミックエッセイの映画化です。

 

毎日のように酒浸りで正体なく帰宅する父(渋川清彦)と
新興宗教信者の母(ともさかりえ)を持つ、田所サキ。
母はそんな父と心をつなぐことができないことに絶望したのか、
自殺してしまいます。

その後、父は男手一つでサキと妹フミを育てるため、
ほんの少しの間お酒を断っていましたが、すぐに逆戻り。
長じたサキ(松本穂香)は、相変わらず酔うと化け物のように豹変する父に嫌気がさし、
いつしか自分の心にフタをするようになっています。
彼女は、父が泥酔して帰宅した日には、カレンダーに印をつけていたのですが、
最近ではほとんど毎日に印が付くように・・・。
父はそんな自堕落な生活がたたったのか、病に冒されて・・・。

この、カレンダーの印というのが、実は父に対する無言の圧力になっていたようなのです。
日々、父に刺すような視線を投げつけていて、
ろくに口もきかず、カレンダーのバツ印だけが重なっていく。
父は毎日娘に責め立てられていることを感じてはいたでしょう。
それなら飲むのを止めればいいと思うのですが、そう簡単にそれができれば苦労はしない。
依存症というのはそういうものです・・・。

こんな中でも、不思議と妹・フミ(今泉佑唯)は、さほどに父に嫌悪を見せず、
淡々と自分の生活を送っている。
姉への共感はもちろんあるけれど、どこか姉と父の関係を俯瞰的に見ているようでもある。
この家の出来事の責任を彼女は持っていない、
という幾分気楽な感じを彼女は抱いているからなのかもしれません。
漫画家という引きこもりがちな生活を始めたサキにとって、
彼女を理解する友人も貴重な存在です。

そしてまた私は思うのです。
本作を見る限りは、この家はさほど生活に逼迫はしていませんよね。
よくある“飲んだくれ”の父親の家は、少ない稼ぎが酒代に消えて、超貧乏、というのが定番。
でもここのお父さん、飲んだくれはしても、ちゃんと仕事に行って(サラリーマン)稼いでくる。
実はこれだけでもすごく貴重なことじゃないですか。

色々と、気持ちの持ちようということもあるのかなあ・・・と思ったりしました。

<WOWOW視聴にて>

「酔うと化け物になる父がつらい」

2019年/日本/95分

監督:片桐健滋

原作:菊池真理子

出演:松本穂香、渋川清彦、今泉佑唯、恒松祐里、ともさかりえ、浜野謙太

 

泥酔度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 

 


さんかく窓の外側は夜

2021年06月11日 | 映画(さ行)

霊が見える男と霊を祓う男

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三角(ミカド)(志尊淳)は、幼い頃から幽霊が見える体質に悩まされてきました。
そんな彼が、除霊師・冷川(ヒヤカワ)(岡田将生)に勧誘され、
一緒に除霊の仕事をすることになります。
冷川のなじみの警部・半澤(滝藤賢一)から、1年前の連続殺人事件の調査を依頼され、
やがて二人は遺体を発見しますが、その遺体には呪いがかけられており・・・。
自殺した犯人の言葉から、謎の女子高生・非浦英莉可(平手友梨奈)の存在が浮かび上がります。

ホラー作品。
ちょっと目を背けたくなるようなスプラッタなシーンあり。
でも全体的にはさほど怖い感じはありません。
むしろ、三角と冷川のビミョーに“萌え”る関係が興味深い。
もちろん本作、私は志尊淳さんと岡田将生さん見たさで見たのですもん!

「霊が見える男」と「霊を祓う男」のバディ。
いいんじゃないでしょうか。
しかもこの、あまり人と交わろうとしない、冷川の戦慄の過去。
そうしたところがまた見所ではあります。

そしてまた、彼らと関わる半澤刑事というのが、霊的なものは全く信じない人なのですが、
「信じない」ことには力があるという。
霊がこの人をどうにかしようとしても、
ハナから信じていないのだからどうにもできない、というのです。
なるほど~。
なんか説得力ありますね。

一応すべて解決したように見せかけて、非浦の不穏なできごと・・・。
本作は連続テレビドラマに向くかもしれませんね。
一話ずつ幽霊譚を進めながら、大きなテーマとして非浦を追う、という形で。

北川景子さんがせっかく出てきたと思ったら、その一瞬先の運命は・・・! 
それはない!

なかなか興味深い作品でした。

 

<シネマ映画.comにて>

「さんかく窓の外側は夜」

2021年/日本/102分

監督:森ガキ侑大

原作:ヤマシタトモコ

出演:岡田将生、志尊淳、平手友梨奈、滝藤賢一、筒井道隆、北川景子

 

妖しい関係度★★★★☆

スプラッタ度★★★★☆

満足度★★★.5

 

 


ライド・ライク・ア・ガール

2021年06月09日 | 映画(ら行)

信じた道を突き進む

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オーストラリア競馬最高の栄誉であるメルボルンカップで、
女性騎手として初めての栄冠を手にしたミシェル・ペインの半生を描きます。

ミシェル・ペインは10人兄弟の末娘として誕生。
生後まもなく母を亡くしますが、父と多くの兄・姉に囲まれ健やかに成長します。

ペイン家は調教師の父と、兄・姉のほとんどが騎手という競馬一家。
ミシェルが幼い頃からそういう世界を見て育ったので、
騎手になるということはほとんど当然のことなのでした。

やがてミシェルは華々しいデビューを飾り、騎手としての人生を歩み始めますが、
落馬で騎手生命を左右するような大けがを何度も体験します。
そしてまた、ミシェルが最も敬愛する姉は、落馬によって命を落としてしまいます。
そのことがきっかけで、父親はミシェルが騎手を続けることに難色を示すようになりますが・・・。

10人兄弟。
いかにも賑やかです。
この家族の中では男も女も関係なく当然のように多くが騎手への道を歩みます。
女性の騎手は珍しくはないモノの、やはり待遇は劣ります。
女性用の更衣室はなく、物置の片隅であったり、
優秀な馬にはなかなかのせてもらえなかったり・・・。

このミシェルについては、女性というハンディをも乗り越えて活躍したというよりも、
幾たびもの大怪我を乗り越えて活躍した、ということの方が印象に残りました。
麻痺が残りそうな怪我をも乗り越えて・・・。
普通ならそこで怖くなって引退してしまいそうです。

でも彼女は、物心つくときから父に導かれ夢に描いていた
メルボルンカップの出場をなんとか果たしたかったわけですね。

それと特筆すべきなのは、彼女の兄の一人がダウン症なのですが、
やはりこの一家ならではということで、調教師の道を歩みます。
そして、ミシェルの傍らにいつも寄り添っている。

ダウン症の青年の活躍の物語でもあるわけです。
本作の彼の役はどうもご本人が演じているようです。
スバラシイ!

馬が走る姿はどうしてこうも、血わき肉躍る感じがするのでしょう・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「ライド・ライク・ア・ガール」

2019年/オーストラリア/98分

監督:レイチェル・グリフィス

出演:テリーサ・パーマー、サム・ニール、サリバン・スティプルトン、スティービー・ペイン

 

競馬の興奮度★★★★☆

不屈度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「無暁の鈴」西條奈加

2021年06月08日 | 本(その他)

ズシンと胸に迫る

 

 

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武家の庶子でありながら、家族に疎まれ寒村の寺に預けられた久斎は、
手ひどい裏切りにあって寺を飛び出した。
盗みで食い繋ぐ万吉と出会い、名をたずねられた久斎は“無暁"と名乗り、
ともに江戸に向かう――
波瀾万丈の人生の始まりだった。
著者の新たな代表作!

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西條奈加さん作品ですが、意外といっては失礼かな、
「生きる」ことに真っ正面から向き合ったズシンとくる重い作品。

 

武家の子でありながら、家族に疎まれ、寺に預けられた久斎。
その寺も飛び出した彼は、自らを“無暁”と名乗ることにする。
同い年の万吉と出会い、江戸に出て、
遊郭界隈を取り仕切るヤクザものの世界に身を置くことになるのですが・・・。

そんな世界でも、気心の知れた人々の中で、
まずは平和とも呼ぶべき生活が一時あって・・・。
しかし、運命は “無暁”をそっとしておいてはくれません。
ヤクザ同士の諍いの中で、無暁をかばって万吉は命を落とし、
無暁はその仇討ちのために殺人を犯してしまう。
そしてその罪のために、無暁は、八丈島へ島流しになってしまいます。

 

罪人としてこの島で生きること・・・。
それは耐えがたい苦痛の世界なのでした。

そもそもこの島に生きる人々の生活自体が苦しい。
ここに流された罪人は、牢に押し込められたりはしませんが、
生きる糧を得るためには働かなければならないのです。
手に職でもあるといいのですが、無暁にはそれもナシ。
特に、殺人を犯した者には島人も敬遠しがちで、仕事をもらうことも難しいのです。

そんな彼が次第にこの島での居場所を得ていくのですが、
それは子どもの頃預けられていた寺で覚えたお経のおかげ。

そしてそこで20数年を生きた頃に、恩赦が下り、
ついに島を出ることが許されて・・・。

 

しかしその先、彼はさらに自ら苦難の道を行きます。
折しも、大飢饉が起こり、大量の餓死者が出ます。
そんな中で、自分は一体何ができるのか・・・?

 

私はつい思ってしまいました。
もう十分だよ。

小さな村のお寺で、のんびりと
村人のためにお経を上げたり野良仕事を手伝ったりして暮らせばいいのに・・・。
彼の決意が、最後には覆されることを望んでしまいました。

でもそうでなかったのは、彼が犯したのが「殺人」であったからなのかもしれません。
たくさんの生と死を見てきた彼は、殺害であれ、病であれ、飢餓であれ・・・
生を途中で断ち切られることの無念さは、等しく同じだと思ったのかもしれません。
その思いを自分も分かち合うべきだと思ったのか・・・。

 

八丈島の島流しのこと、出羽三山の僧侶の修行のこと・・・、
著者はかなりの資料を読み込んだと思われます。
しっかりとした考証の上に成り立っている本作、ずっしりと響きました。

でも西條奈加さん、これまでのような心温まる作品もどうか切り捨てないでくださいませ・・・。

 

「無暁の鈴」西條奈加 光文社時代小説文庫

満足度★★★★☆

 


存在のない子供たち

2021年06月07日 | 映画(さ行)

最低限の人権すらも

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中東のとある貧民窟で暮らす12歳ゼイン。
貧しい両親が出生届を出していないため、IDを持ちません。
狭い家に子だくさん。
ゼインは中でもすぐ下の妹を大切に思っているのですが、
彼女は初潮を見るとすぐに、知り合いの年上の男と強制的に結婚させられてしまいます。
反発したゼインは家を飛び出し、とある町でエチオピア難民の女性・ラヒルと知り合います。
ゼインは彼女の赤ん坊の世話を引き受け、一緒に暮らすことに。
ところがある日、家を出たきりラヒルが帰ってこない・・・。

出生届を出していないので、当然学校にも行けない。
誕生日も知らないので、自分の年も正確にはわかっていないのです。
何人いるのかわからないくらい弟や妹が大勢いて、
ゼインはその子らを引き連れて道ばたでジュースを売ったりして日銭を稼ぎます。
妹の生理が始まったのに気づき、
親には決して気づかれないようにと言って、手当の仕方を教える。 
親に知られれば、すぐに結婚させられてしまうからです。
しかしそんな努力もむなしく、妹は男に連れられて行ってしまう。
まだ11歳なのに・・・。

家出をした先で知り合ったラヒルは、不法移民で、
まともな職も得られないままに私生児を育てています。
職場のトイレに赤ん坊を隠したりもして、悪戦苦闘。
そんな彼女には、弟や妹の世話をしなれているゼインが救世主のよう。

赤ん坊の一歳の誕生日には、ラヒルは職場の売れ残りケーキを失敬してきて、
ろうそくを一本立ててお祝いをします。
こんな貧しい誕生のお祝いでも、子供への愛情はよく伝わります。
ゼインは少し複雑な思い。
自分はこんなお祝いを一度もしてもらったことがないのです。
誕生日すらもわからないのですし・・・。

ラヒルが帰らなくなり、お金も食べ物も無くなってしまったとき、
それでもゼインはこの子を守り抜き頑張ります。
涙ぐましい・・・。

ゼインもこの赤子も、出生した証さえない、いわば「存在のない子供」なのです。
学校へも行けない。
病院にもかかれない。
こんな国を出てどこかへ行ってしまいたくても、パスポートすら作れない。
そしてまた、いつどこで死んでも誰も気づかない、記録にも残らない。
こんなことって、あるでしょうか・・・。
でも現実にはこの日本でもあるということですよね・・・。
最低限の「人権」すら求めることができないとは・・・。

ゼインは「自分を生んだ罪」で、両親を訴えます。
子供に愛も教育も与えないのなら、子供なんか作るな!と。
それは、自分の存在さえも否定してしまうことなのですが・・・。

どんな子供も、「生まれてきて良かった」と思える社会であればいいのですが、
それには、ほど遠そうです。

 

<WOWOW視聴にて>

「存在のない子供たち」

2018年/レバノン/125分

監督:ナディーン・ラバキー

出演:ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティブトレジャー・バンコレ

貧困度★★★★★

満足度★★★★☆

 

 


青の炎

2021年06月06日 | 映画(あ行)

完全犯罪を目指す少年

 

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貴志祐介さんの原作を読み、本作も見た覚えはあるのですが、
内容をさっぱり覚えていないという・・・。
高校生男子が犯罪を犯す、ということだけはおぼろげに。

 

というわけで、この際再見しましたが、2003年作品。
当たり前ですが、ニノが若く初々しく・・・ついニマニマしてしまいました。

 

17歳、高校生秀一(二宮和也)は、
10日ほど前から家に居座り、母(秋吉久美子)と妹(鈴木杏)との平和な暮らしを乱す
元継父の曾根(山本寛斎)に殺意を抱いていました。
そしてその思いをついに実行に移してしまいます。

殺害方法も、アリバイ造りも、完璧なはずでした。
しかし、友人に感づかれてしまい、彼をも殺害しなければならなくなってしまいます。

刑事コロンボ並みに、ちょっととぼけたのんきそうな刑事・山本(中村梅雀)に、
秀一は次第に追い詰められていきます。

 

秀一は自分の頭脳をちょっと過信していたキライがあります。
身一つで突然転がり込んできて、酒浸り、働きに行こうともしない、粗暴な男。
母の再婚相手ではありますが、とうに離婚して縁も切れていたはずなのに。
秀一にはこんな男の存在自体が許せないのです。
こうした硬質でまっすぐな少年らしい思いが、彼を殺人へと誘う・・・。

ちょっぴり冷めた感じの美少女・クラスメイト紀子(松浦亜弥)との淡い交流もいい感じです。
鎌倉が舞台となっていて、その雰囲気もまた良し。

なかなか、楽しめました。

<Amazonプライムビデオにて>

「青の炎」

2003年/日本/116分

監督:蜷川幸雄

原作:貴志祐介

出演:二宮和也、松浦亜弥、秋吉久美子、山本寛斎、鈴木杏、中村梅雀

 

青春度★★★★★

満足度★★★★☆

 

 


私をくいとめて

2021年06月05日 | 映画(わ行)

もう一人の自分と会話する女

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何年も恋人がおらず、一人暮らしを続けている31歳、みつ子(のん)。
自らをお一人様と称し、独身生活を満喫しています。
彼女の脳内にはもう一人の自分である相談役「A」(声:中村倫也)が存在し、
人間関係や身の振り方に迷ったとき、アドバイスをくれるのです。
あるとき、取引先の若手営業マン・多田(林遣都)に、恋心を抱きますが・・・。

みつ子は就職をしてからそれなりに恋愛もしたし、職場の上司からセクハラを受けたりもして、
一応は歴戦のOLという体。
けれども本当はそんな出来事に傷つき、再び傷つくことを恐れていたのです。
そんな彼女を慰めるのは、自分自身である「A」。
「A」は辛辣なことも言うけれど、決して致命的なことは言わない。
そりゃそうです、自分自身なのだから。

そんな彼女に接近してきた多田もまた、みつ子と同様に恋愛に臆病に見える。
自炊ができないという多田に、みつ子が手作りの食事を振る舞うことになるのですが、
彼は決して部屋には上がらず、パック詰めした食事を持ち帰るのみ。
みつ子は物足りなく思うわけですが、
でも実は、このときの彼女にはこれくらいがちょうどいい。

ついにある日彼が部屋に上がったときにも、彼女は思わず思ってしまう。
相手の気持ちを伺って緊張するよりも、自分一人の方がずっと気楽でいい、と。
人と人との距離感の取り方が非常に難しくなっている今日ならではのストーリーに思えます。

イタリアに住んでいる、みつ子の親友がなんと橋本愛さんだったのにはちょっと嬉しくなりました。

中村倫也さんの声はなんともソフトで、こんな声と毎日会話できたら、
確かに一人暮らしも天国のよう、かもしれない・・・。

<Amazonプライムビデオにて>

「私をくいとめて」

2020年/日本/133分

監督・脚本:大九明子

原作:綿矢りさ

出演:のん、林遣都、臼田あさ美、片桐はいり、橋本愛、中村倫也

生きづらさ★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


「紙鑑定士の事件ファイル」歌田年

2021年06月03日 | 本(ミステリ)

神探偵?

 

 

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どんな紙でも見分けられる男・渡部が営む紙鑑定事務所。
ある日そこに「紙鑑 定」を「神探偵」と勘違いした女性が、
彼氏の浮気調査をしてほしいと訪ねてくる。
手がかりはプラモデルの写真一枚だけ。
ダメ元で調査を始めた渡部は、
伝説のプラモデル造形家・土生井(はぶい)と出会い、意外な真相にたどり着く。

さらに翌々日、行方不明の妹を捜す女性が、
妹の部屋にあったジオラマを持って渡部を訪ねてくる。
土生井とともに調査を始めた渡部は、
それが恐ろしい大量殺人計画を示唆していることを知り――。

* * * * * * * * * * * *

「このミス」の大賞受賞作ですね。

でも、「紙鑑定」という表題から想像する内容とはちょっと違ったかな?
という印象が最後まで残ってしまった・・・。

そもそも主人公・渡部は探偵でも何でもありません。
紙を扱う商売で自らを「紙鑑定士」と呼んでいる。
しかしある日、「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性客が、
彼氏の浮気調査の依頼にやってくる。
手がかりはプラモデルの写真・・・ということで、
なんとこの物語、テーマは「紙」を離れて「模型」になっていきます。

プラモデルやジオラマ、ドールハウスめいたもの・・・。
それがまだ発覚もしていない事件の手がかりになっていく。
渡部が協力を仰ぐのが、伝説のプラモデル作家・土生井(はぶい)。
ほとんどゴミ屋敷みたいな家で貧乏暮らしというこのキャラクター造形がなかなか楽しい。
そして最後にはとんでもない大量殺人を暴くことになるのですが・・・。
まあ、面白く読めました。

 

でも返す返すも、なぜ「紙鑑定士」なのやら、
内容と題名の乖離がなんとも残念な気がしてしまいます。
やはり、謎の主題は紙であってほしい。

そして悪いけど、ここに登場する晴子と土生井がいい仲になるというのが、全く納得できない。
普通の女子が、ゴミ屋敷の住人を好きになりますかね? 
いや、無理、無理。

渡部の元恋人・真理子の人物像も、できすぎです。

やっぱり「このミス」なんだなあ・・・、というところでは納得ですが、
あんまり大人向けではないですね。

近年、「このミス」大賞受賞作にはのめり込めないと感じている私。
それを確認してしまったという結果でした。
単に私自身の思考力が柔軟でなくなった、ということなのかもしれませんが。

「紙鑑定士の事件ファイル」歌田年 宝島社文庫

満足度★★★☆☆

 


台風家族

2021年06月02日 | 映画(た行)

なんで銀行強盗?

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ブラックユーモアを交えたコメディ。

鈴木一鉄(藤竜也)と妻・光子(榊原るみ)は、銀行から2000万円の大金を強奪し逃走。
その後行方不明となります。

その10年後。
鈴木家の子どもたちが、未だに所在がわからない両親の仮想葬儀と
財産分与を行うために集まりました。
本作はその一日の出来事を追います。

カラの棺桶を二つ並べた葬儀。
その前で、兄弟たちはさっそく財産を巡って諍いを始めます。

長男(草なぎ剛)、長女(MEGUMI)、次男(新井浩文)、三男(中村倫也)。
そして、長男の妻(尾野真千子)、その娘、長女の恋人(若葉竜也)。

家は古くて解体するしかない。
土地の値段から解体費用を差し引いて、およそ800万円。
兄弟4人で均等に分けるべきところを長男は、全額自分の取り分をすることを主張。
それはないって、なりますよね。
でも、彼にはある目的のためにどうしてもお金が欲しかった・・・。
そのためには守銭奴といわれても辞さない覚悟。

しかしそんなことでもめているところを、
なんと三男が隠し撮りしてSNSでライブ配信していた!!
かつての銀行強盗の家族の内輪もめ・・・。
瞬く間に視聴者数アップ!!

しかしそれを見たかつて被害を受けた銀行員がやって来て、
犯人が死亡し、それを遺族が相続するならば、
遺族が2000万円の負債を追うことになる、とのたまう。
すなわち800万円手に入っても、2000万円返さなければならないので、大幅な赤字!!
ヤレヤレ・・・。

ところが、そんなお金の問題でもめているうちに、
次第に彼らは自分たちの親のことを何も知らなかったことに気づきます。
そもそも、なんだって銀行強盗なんかをしてしまったのか。
本当に、今は亡くなっているのか? 
生きているならどこへ行ったのか?

最後に真実がくっきり浮かび上がります。

それはいい加減な父親の行動ではなかった。
父は家族のことなどどうでもいいと思っていると、皆思い込んでいたけれど、
決してそうではなく・・・。

冒頭、銀行強盗を犯した父が乗り込んだ車は霊柩車、というシーンがあって、
まず度肝を抜かれます。
何で霊柩車? 
その後のストーリーで、鈴木・父の家業が葬儀屋ということがわかり、なるほど~とは思うのですが、
それにしても、その彼が、なぜ、銀行強盗を???と言う謎も深まるのです。

面白い物語でした。
このポスターの写真、次男の新井浩文さんが抜けてますね・・・。
しょうがないか・・・。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「台風家族」

2019年/日本/108分

監督・脚本:市井昌秀

出演:草なぎ剛、MEGUMI、新井浩文、中村倫也、藤竜也、榊原るみ、若葉竜也、尾野真千子

 


ブリット=マリーの幸せなひとりだち

2021年06月01日 | 映画(は行)

女だって、いくつになったって

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スウェーデンで大ヒット作となったという作品です。

結婚40年になる専業主婦のブリット=マリー。
夫のため毎日食事を作り、家の中を整然と整えておくことが自分の役割と信じています。
ところがある日、夫の愛人の存在を知り、スーツケース一つで家を出ます。

これまで外で働いたことのない63歳。
仕事は簡単には見つからず、
田舎町ボリのユースセンター管理人兼子どもたちのサッカーチームコーチという仕事に就くことに。
しかし彼女はサッカーのことなど何も知らず、これまで興味もなかった・・・。
実にありがちなストーリーで、それが何故そこまで人気だったのかがよくわからない。
面白いことは確かですが。

ブリッド=マリーは、夫の浮気が発覚した時点で、即、家を出ます。
そこのところが実にいさぎよい。
・・・というのも、後にわかることなのですが、実は彼女はうすうすそのことには気づいていた。
香水を付けない彼女の夫のシャツから香水の香りがする。
彼女はいつも重曹を使って念入りに洗濯をし、その香りをかき消していたのです。
真実を知ることが怖かったのでしょうね。
だから万全なはずの彼女の結婚生活は、すでにかなり危ういところに来ていた。
夫の愛人との対面は、彼女の最後の一押しをしただけだったんですね。

それにしても、その愛人は若く金髪、ナイスバディな美人。
・・・なぜ?って言いたくなりますが。
夫は大金持ちというわけでもないのに。

 

さて、ブリッド=マリーは田舎町の閉鎖寸前のユースセンターに職を得て、
管理人の仕事ならバッチリでした。
得意の清掃術で、まずまずのところまで心地の良い環境に。
しかし、サッカーのコーチ?

以前までいた優秀なコーチのおかげでチームはかなり良い成績を収めていたらしいのですが、
その後はコーチもいなくて、今は負けてばかりのおんぼろチーム。
その子どもたちさえ、こんなサッカーも何も知らないおばあちゃんをコーチとは認めることができません。

今は、できることをやるしかない・・・と、
ブリッド=マリーはサッカーのことを勉強し始めて・・・。

いくつになったって人生はやり直しができる、
女だからって夫の付属物ではない・・・と、
メッセージとしてはカビの生えた感じでしたが。
そう言いたくなってしまう女の立場は万国共通でありますね。

<WOWOW視聴にて>

「ブリット=マリーの幸せなひとりだち」

2018年/スウェーデン/97分

監督:ツバ・ノボトニー

原作:フレドリック・バックマン

出演:ペルニラ・アウグスト、ペーテル・ハーベル、アンディシュ・モッスリング、マーリン・レバノン

 

ひとりだち度★★★★☆

満足度★★★.5