映画と本の『たんぽぽ館』

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存在のない子供たち

2021年06月07日 | 映画(さ行)

最低限の人権すらも

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中東のとある貧民窟で暮らす12歳ゼイン。
貧しい両親が出生届を出していないため、IDを持ちません。
狭い家に子だくさん。
ゼインは中でもすぐ下の妹を大切に思っているのですが、
彼女は初潮を見るとすぐに、知り合いの年上の男と強制的に結婚させられてしまいます。
反発したゼインは家を飛び出し、とある町でエチオピア難民の女性・ラヒルと知り合います。
ゼインは彼女の赤ん坊の世話を引き受け、一緒に暮らすことに。
ところがある日、家を出たきりラヒルが帰ってこない・・・。

出生届を出していないので、当然学校にも行けない。
誕生日も知らないので、自分の年も正確にはわかっていないのです。
何人いるのかわからないくらい弟や妹が大勢いて、
ゼインはその子らを引き連れて道ばたでジュースを売ったりして日銭を稼ぎます。
妹の生理が始まったのに気づき、
親には決して気づかれないようにと言って、手当の仕方を教える。 
親に知られれば、すぐに結婚させられてしまうからです。
しかしそんな努力もむなしく、妹は男に連れられて行ってしまう。
まだ11歳なのに・・・。

家出をした先で知り合ったラヒルは、不法移民で、
まともな職も得られないままに私生児を育てています。
職場のトイレに赤ん坊を隠したりもして、悪戦苦闘。
そんな彼女には、弟や妹の世話をしなれているゼインが救世主のよう。

赤ん坊の一歳の誕生日には、ラヒルは職場の売れ残りケーキを失敬してきて、
ろうそくを一本立ててお祝いをします。
こんな貧しい誕生のお祝いでも、子供への愛情はよく伝わります。
ゼインは少し複雑な思い。
自分はこんなお祝いを一度もしてもらったことがないのです。
誕生日すらもわからないのですし・・・。

ラヒルが帰らなくなり、お金も食べ物も無くなってしまったとき、
それでもゼインはこの子を守り抜き頑張ります。
涙ぐましい・・・。

ゼインもこの赤子も、出生した証さえない、いわば「存在のない子供」なのです。
学校へも行けない。
病院にもかかれない。
こんな国を出てどこかへ行ってしまいたくても、パスポートすら作れない。
そしてまた、いつどこで死んでも誰も気づかない、記録にも残らない。
こんなことって、あるでしょうか・・・。
でも現実にはこの日本でもあるということですよね・・・。
最低限の「人権」すら求めることができないとは・・・。

ゼインは「自分を生んだ罪」で、両親を訴えます。
子供に愛も教育も与えないのなら、子供なんか作るな!と。
それは、自分の存在さえも否定してしまうことなのですが・・・。

どんな子供も、「生まれてきて良かった」と思える社会であればいいのですが、
それには、ほど遠そうです。

 

<WOWOW視聴にて>

「存在のない子供たち」

2018年/レバノン/125分

監督:ナディーン・ラバキー

出演:ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティブトレジャー・バンコレ

貧困度★★★★★

満足度★★★★☆