雲上と雲下をつなぐもの
* * * * * * * * * * * *
昔、むかしのそのまた昔。深山の草原に、一本の名もなき草がいた。
彼のもとに小生意気な子狐が現れ、「草どん」と呼んでお話をせがむ。
山姥に、団子ころころ、お経を読む猫、そして龍の子・小太郎。
草どんが語る物語はやがて交錯し、雲上と雲下の世界がひずみ始める。
――民話の主人公たちが笑い、苦悩し、闘う。
不思議で懐かしいニッポンのファンタジー。
〈第十三回中央公論文芸賞受賞〉
* * * * * * * * * * * *
ある深い山奥に、何故かぽっかり開けた場所があって、
そこにいる「草どん」に、子狐がお話をせがみます。
ぽつりぽつりと、草どんが物語を語り始めて・・・。
こんなふうに、のどかに始まるこのストーリー。
草どんの語る物語は始めはごく短く、ほのぼのとした昔話。
けれど、その話は次第に長くなり、現実の苦悩がない交ぜになり、
物語とこの世の境界が危うくなってくる。
油断のならない物語ですね。
そもそも、この「草どん」とは何者なのか。
なぜこんなに物語を知っているのか。
そしてなぜこんなところにいるのか。
ストーリーは次第にそうしたいきさつに近づいていきます。
「物語こそが雲上と雲下をつなぐ」という言葉、とても深いです。
雲下というのはまさしく私たちの生きるこの世。
雲上というのは神々の世界。
または、人々の望む輝かしい至高の世界。
そしてまたもしくは、人々が自分でも意識できない深層の世界であるのかもしれない。
物語はそうしたものと、私たちをつなぐ。
ここで言う物語とは何も「昔ばなし」には限らず、
あらゆる「小説」のことでもあるのでしょう。
著者が、自分のかく物語もそういうものでありたい、と願っているのかもしれません。
作中に登場する「物語」は、それぞれ私たちのよく知っている昔話に似ているのですが、
どこか少し違う。
そういうところを楽しみながら読むのもまたいいですね。
「雲上雲下」朝井まかて 徳間文庫
満足度★★★.5