映画と本の『たんぽぽ館』

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「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀

2019年12月07日 | 本(その他)

過酷な時代をスウィングで乗り切れ!

スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)
佐藤 亜紀
KADOKAWA

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ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。
軍需会社経営者である父を持つ、15歳エディが熱狂しているのは、
敵性音楽の“スウィング”だ。
歌い踊り、天才的な即興に驚嘆する。
ゲシュタポの手入れを逃れるのもお手のものだ。
だが音楽に彩られた日々にも、戦況の悪化が不穏な影を落とし始める…。
権力と暴力に蹂躙されながらも、自分らしく生きようと闘う人々の姿を、
ジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。

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「ベルリンは晴れているか」や「革命前夜」など、
ナチス政権下のドイツの話がなぜか好きな私。
本作も、そんな時代のドイツ、ハンブルグが舞台です。

主人公エディは裕福な家の御曹司。
父親は以前仕事で渡米したこともあり、ジャズは彼らのお気に入り。
しかし、ナチ政権下では敵性音楽とされています。

どんな時代でも庶民の密かな楽しみはあります。
エディは庶民というには少し裕福すぎますが、
だからこそ、夜な夜な密かにクラブでジャズに浸りスウィングする楽しみはやめられない。
しかしどんどんナチの締め付けが厳しくなり、戦況は悪化していきます。
あるときついにゲシュタポの手入れがあって、逮捕されたエディは監獄送りに・・・。
ただ夜中にクラブでスウィングしていただけなのにですよ・・・。

 

少し長いのですが、エディの思いを綴った文章を引用。 

なあ、感じの悪い「退去」とかつまんないご禁制とかやめてくれよ、誰得だよそれ。
そういう理屈が全く通らないというのは―
そのせいで次から次へといろんなことしなきゃならないのはとても疲れる。
彼らはぼくに多くを求めすぎだ。
血統だの純血だの民族の一因としての自覚だのは、やりたいヤツがやればいい。
どこかの離れ小島でも買い取って。
で、ひたすらアーリア人にアーリア人を掛け合わせて
ジャズとか一切聞かせずに愛国作文でも書かせて
朝から晩まで運動させて歌わせて行進させていれば理想のアーリア人が作れる、
というならどの程度のものが仕上がるか喜んで見せてもらうけど、
僕にやれとか言わないでくれよ。
もううんざりだ。

 

本当にこれこそが彼の思いのすべて。
ドイツの人がすべてナチに心酔していた訳ではないですね。
それで、エディはこんな時勢を逆手にとって、
仲間とともにご禁制の音楽をレコードにして密かに売りまくって儲けたりします。

しかしいよいよ戦況が悪化、町は空襲により壊滅状態。
エディの両親も亡くなってしまいます。

自由を切望しながら、それでもできる限り自分らしく時代を乗り切っていく。
エディとその仲間たち、感動のストーリーです。
それにしてもあまりにも痛烈な時代。
日本とドイツの状況はよく似ています・・・。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀 角川書店

 

満足度★★★★.5