映画と本の『たんぽぽ館』

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「夜行」森見登美彦

2019年12月05日 | 本(その他)

宇宙の深淵=夜

夜行 (小学館文庫)
森見 登美彦
小学館

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十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、
連れだって鞍馬の火祭を見物にでかけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。
十年ぶりに皆で火祭に出かけることになったのは、
誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ。
夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。
尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。
僕たちは、全員が道中で岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作絵画を目にしていた。
その絵は、永遠に続く夜を思わせた―。
果たして、長谷川さんに再会できるだろうか。
怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語。
直木賞&本屋大賞ダブルノミネート作品。

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森見登美彦さんの、現実と不思議世界が地続きとなっていく作品。
けれど、著者に多い諧謔味はなりを潜め、
作中に登場する銅版画のように、暗い色調のひんやりとした手触りの物語です。

10年前、鞍馬の火祭で行方不明となったままの長谷川さん。
その10年後、当時の仲間が集まり、
この10年の忘れられない体験をそれぞれが語り始めるのですが・・・。

誰もが岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作に絡んだ不思議な体験をしていたのでした。
そして皆が体験を語り終えてから、
また驚きの展開があるところがこのストーリーのすごいところ。
一読の価値ありです。


人類初の宇宙飛行士ガガーリンが「地球は青かった」と言ったといわれていますが、
彼は本当は地球のことよりその背後に広がる宇宙の深淵、真っ暗な闇にこそに心動かされたのだとか。
すなわちこの世界は基本「夜」なのだ・・・という下りが、なんだか恐ろしく胸に響きました。
夜の闇が、どこか別の世界につながっている・・・。
森見登美彦さんにやられました。

 

「夜行」森見登美彦 小学館文庫

満足度★★★★☆