映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

しゃぼん玉

2019年12月30日 | 映画(さ行)

自分の存在を受け止めてもらえれば・・・

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女性や老人ばかり狙った通り魔や強盗傷害を繰り返していた青年・伊豆見(林遣都)。
逃亡の末、宮崎県の山奥の村にたどり着きます。
たまたま道ばたでけがをして倒れていた老婆・スマ(市原悦子)を助けたことで、
彼女の家に世話になることに。
伊豆見はすぐにお金を盗んで逃げ出すつもりだったのですが、
スマの温かさに触れ、その機会を逸してしまいます。
そしてまた、スマや村の人々に囲まれるうちに、次第に失われた人間性を取り戻していくのです。
ある日、10年ぶりに村に帰ってきたという若い女性・美和と知り合い・・・。

家族の愛をほとんど知らずに育ってきた伊豆見。
その彼がスマを本当の家族のように思うようになるわけです。
「おまえは優しくていい子だ」・・・実の孫のように、伊豆見に語りかけるスマ。
彼は今まで自分にそんな言葉を語りかけてもらったことがないのです。
もうすっかり「大人」というべき年齢でありながらも、やはりそう言われればうれしい。



しかし彼はスマの家でただ毎日ゴロゴロしていたのですが、
あるとき近所のシゲ爺に連れられて山に入ります。
そこで自分で採った山菜やきのこを村のお祭りの時に売った分のお金をくれるというのです。
険しい山道でヘトヘトになってしまう伊豆見ですが、
日に日にやりがいを感じ出します。
結局、自分の存在をなんの偏見もなくすんなり受け止めてくれる人がいれば、
人は生きがいを見いだせるのだ、と、そういうことなのかもしれません。
しゃぼん玉のように、帰るところもなくふらふら漂っていく伊豆見が、自分の居場所を見つけたのです。
けれど、ここにいるために、彼にはすべきことがある。

よい物語でした。
市原悦子さんの遺作です。
もちろん林遣都さんもgood!



結局、スマさんは伊豆見のことを「都会にいられなくなったはみ出しもの」と見抜いていたように思えます。
けれど、自分を助けてくれたのは本当だし、
そして自分の家には盗むようなものもない、と高をくくったのかもしれませんね。
確かに純朴ではあるけれど、一枚上手でもあると思う。

 

 

<WOWOW視聴にて>
「しゃぼん玉」
2016年/日本/108分
監督:東伸児
原作:乃南アサ
出演:林遣都、市原悦子、藤井美菜、綿引勝彦
人生のやり直し度★★★★★
満足度★★★★☆