映画と本の『たんぽぽ館』

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かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発

2019年12月23日 | 映画(か行)

「不在」の存在が切ない

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RAILWAYSのシリーズ第3作。
といっても始めの二つは2010年、2011年と、トントンと出たのですが、
本作は2018年。
しかしその年月の開きも納得。
本作は女性の電車運転士ということで、
そのことに強い違和感を抱かなくなるだけの時の流れがあったということかもしれません。

 

夫(青木崇高)を突然亡くした奥薗晶(有村架純)は、
残された夫の連れ子・駿也とともに夫の故郷、鹿児島県に住む
義父・節夫(国村隼人)の元を訪れます。
鉄道の運転士である節夫は妻に先立たれて一人暮らし。
疎遠だった息子の死と、その妻、孫の突然の訪問に当惑します。
しかし、行く当てがないというこの二人をやむなく受け入れ、3人の生活がスタート。
仕事を探していた晶は、節夫と同じ肥薩おれんじ鉄道の運転士になろうと決意しますが・・・。

始めいかにも仲よさげな母・晶と息子・駿也に見えていたのですが、
そもそも血がつながっていません。
駿也を生んだ実の母は、彼を産み落として亡くなったのです。
晶は25歳、駿也は10歳くらいなので、
親子というよりはほとんど姉弟といったほうがいいくらいです。
そこで次第に見えてくるのは、二人をつなぎ止めていた夫であり父である修平の存在の大きさ。
そして必死に駿也の母親であろうと務める晶自身も未熟で、
頼りになる夫の突然の死からの心細さを払拭できていない。
また、晶の前ではしっかり者のように振る舞う駿也も、
実の両親を亡くしているということのさみしさを拭うことができないのです。



晶が運転士の研修のため長期間家を空けることになるのですが、
そのときに駿也は「また帰ってくるよね?」と晶に念を押すのです。
もしかしたら自分を捨ててどこかへ行ってしまうのではないか、
そんな思いが彼にはあったのですね。
確かに25歳の若さなら、孫を祖父に預ければあとは自由の身。
いくらでもやり直しは効きますね。
けれどここまでの晶を見ていたら、彼女にそんな選択肢がないことは私たちには一目瞭然。
だからこそ、駿也の不安がここで際立ちます。


そして、ストーリーの要所要所で、この二人と過去の修平とのエピソードが挿入されます。
何気なく幸せだった頃・・・。
そのことがまた、今現在の修平の不在を際立てるのです。
この「不在」の存在がなんとも切なく、つい涙させられること多々。
晶は駿也の母としての自分に自信を喪失し、
そしてまた運転士としての独り立ちにも壁に突き当たります。
全く、人生はお気楽なことばかりではありませんね・・・。



この二人を、見守るのが父・節夫。
言葉少なながら、確かに。
温かみあふれる作品です。

 

 

<WOWOW視聴にて>
「かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発」
2018年/日本/120分
監督:吉田康弘
出演:有村架純、国村隼人、青木崇高、桜庭ななみ、歸山竜成

家族度★★★★☆
不在の存在度★★★★★
満足度★★★★☆