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「ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか?~脳化社会の生き方~」養老孟司

2019年12月28日 | 本(解説)

「ああすれば、こうなる」脳化社会で

 

 

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身近な疑問から見えてくる知識社会の限界。

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ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか? 
この問いかけに興味を持ち読んでみました。
とはいえ、この本の主題はゴキブリではなく、
サブテーマとされている「脳化社会」についてです。


脳化社会。
聞き慣れない言葉です。
著者は私たちを取り巻いている現代の社会をそのように呼びます。
人間がいわゆる人間としてやっていることは、じつは全部脳の機能、脳の働きであるから。
私たちが現実と考えているのは、私たちの脳が決めたある一つの世界。
その中は「ああすれば、こうなる」という計算ずくの世界です。
けれど、例えば人の「生まれて年をとって、病気になって、死ぬ」ということは
計算ではいきません。
地震や台風などの天災も「ああすれば、こうなる」という計算はできません。
つまり自然は「ああすれば、こうなる」という脳の考えが成り立たない世界・・・。
著者は人間の脳の中が理想になっているのが「都市」だと言います。
だから、都市に自然はない。
あってはならない。

 

けれど天災はあるのです。
人には病気もあり、死もある。
私たちは今、あまりにもこの「脳化」社会に囚われすぎている。
もう少し自然のあり方に寄り添うべきなのかもしれませんね。


そこで私がこの頃こだわっている、在宅介護や在宅死についても少し触れられていました。
昔はみな家で死ぬのが当たり前だったけれども、
今はほとんどの人が病院で死を迎えます。
「死」は全く当たり前のことなのに、脳化された社会では
「死」は「ああすれば、こうなる」という計算が成り立たたず、
理解できないから嫌われるのです。
だから家から追い払われてしまった・・・。
在宅死がやはり自然のあり方のようです・・・。

 

そこで、本巻の題名に戻るのです。
つまり人は「ああすれば、こうなる」という、脳で考えられるものが好きで、
そうでない「自然」なものが嫌いなワケですね・・・。

「ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか?~脳化社会の生き方~」養老孟司 扶桑社新書
満足度★★★☆☆