原題:『世界から希望が消えたなら。』
監督:赤羽博
脚本:大川咲也加
撮影:木村弘一
出演:竹内久顕/千眼美子/さとう珠緒/芦川よしみ/石橋保/木下渓/大浦龍宇一/田村亮
2019年/日本
信者以外を納得させきれない作品について
本作のレビューはどれも絶賛の嵐のようなので実際に観てみたら、ツッコミどころ満載の作品だった。まずもって主人公の御祖真の経歴があやふやで、30歳で商社を辞めて執筆活動に専念して現在40歳なのであるが、長男はどう見ても高校生で、そうなると真は24歳の頃には結婚していることになる。
ところで執筆活動に夢中な真を心配した父親の正が結婚相談所に勝手に登録して、相談所を訪れて別の部屋に案内されたことで真は妻となる磯子と出会う。磯子はもともとデビュー作となる『平凡からの出発』からの真のファンなのだが、そうなると真はいつから執筆活動をしていたのかよく分からなくなる。
磯子の言動が終始エキセントリックなのも気になった。それまで啓蒙的なビジネス書を書いて人気作家になった真が心不全を患ったことを機に『新復活』という経験をもとにした宗教書を書き出すのであるが、磯子は真の方針変更の心変わりに反対し続ける。しかしそもそも磯子の猛烈なアタックで2人は結婚したわけだし、真が売れなくても自分の父親は医師だから金銭面の心配はいらないと言っていた磯子の心変わりがよく分からないのである(因みに心不全を患った人が本作を観ても奇跡なのだから参考にはならない)。
真が幻覚のようにして見る神として仏陀やメシアやイエスがいるのだが、イエスの背後にオジサンがいて一体誰なのかと思っていたら、エンドロールでエドガー・ケイシーであることが明かされる。「第4の神」としてエドガー・ケイシーが登場することに驚かされるが、常識で考えるならばムハンマドだと思う。
結局、真と磯子は対立したままで、磯子は真と3人の子供たちを残して早朝に家を出て行ってしまう。妻さえ説得できない人が異教徒たちの間に生じたトラブルを解決できるのだろうかという素朴な疑問はどうしても生じる。
一応『君のまなざし』(2017年)も観ているが、大川宏洋が抜けたためなのかエンタメ色が薄れてしまっている。しかし先端科学医療よりも信仰を重視させたいのであるならば、実話を基にした話よりもトルストイを見習って「文学」に徹して観客を納得させるべきだと思う。