MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『グッドモーニングショー』

2016-10-31 00:05:53 | goo映画レビュー

原題:『グッドモーニングショー』
監督:君塚良一
脚本:君塚良一
撮影:栢野直樹
出演:中井貴一/時任三郎/長澤まさみ/志田未来/濱田岳/林遣都/池内博之/松重豊/吉田羊
2016年/日本

 「踊らない」大捜査線について

 主人公の澄田真吾は朝のワイドショー「グッドモーニングショー」のメインキャスターを務めているが、かつて報道番組の人気キャスターの地位からある災害現場の現場リポートの「ヤラセ疑惑」から「左遷」されたような立場で、視聴率次第では後がない状況だった。
 いつものように番組がスタートするはずだったが、直前に起こった都内のカフェに銃を持った男が人質を取って立てこもっている事件により予定していたネタを飛ばして番組が始まるのであるが、その番組冒頭に時間は告げるのに誰も日にち言わないところに違和感を持つ(おそらく2015年9月8日だと思うが)。
 犯人の西谷颯太の要求で澄田が現場に呼ばれることになる。そして西谷のさらなる要求で澄田が外に出て謝罪することになるのだが、さすがにその生中継を中断して報道部が割り込むことはリアリティーに欠ける。さらに『踊る大捜査線』の脚本を手掛けた君塚良一監督にしては防弾チョッキと耐爆スーツを着た澄田と警視庁の黒岩哲人たちの、西谷の銃と爆弾に対する防御意識が甘いように見える。
 西谷は澄田に向かってプレゼントだと言って澄田と同じ番組のサブキャスターの小川圭子が澄田とレストランらしき場所でテーブルを共にしている写真がばらまかれ、それがカメラに映ってしまうのであるが、例えば、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(山口雅俊監督 2016年)において弁護士の都陰亮介の浮気現場を撮った写真と比べてみるならばそれが澄田の浮気の証拠になるのかと疑問を生じさせる程度のものである。
 いずれにしても全体的に演出が甘く、特に同じ題材を扱った『マネーモンスター』(ジョディ・フォスター
監督 2016年)の後に観るとチープな感じが際立つ。『マネーモンスター』でさえ傑作と呼べるものではないのだけれど。


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『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』

2016-10-30 20:33:43 | goo映画レビュー

原題:『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』
監督:山口雅俊
脚本:山口雅俊/福間正浩
撮影:西村博光
出演:山田孝之/綾野剛/永山絢斗/やべきょうすけ/崎本大海/最上もが/八嶋智人/真野恵里菜
2016年/日本

「ウサギ」と「共闘」の違いについて

 ファイナルにおいては丑嶋馨の過去が明らかになる。そこで登場するのが、かつての中学校の同級生で2年生の時に転校してきた丑嶋馨に対するリンチに加わらなかった竹本優希である。ところがそれから12年後、丑嶋が設立した「カウカウファイナンス」を一緒に営んでいるのは竹本ではなく、そのリンチの首謀者だった柄崎である。退院後にリンチに加わった相手を一人ずつ殴り倒していった丑嶋の前に、友人の加納が拉致されたということで土下座して救いを求めた柄崎と共に、鰐戸3兄弟らと喧嘩をし、加納を救い出した代わりに、丑嶋は少年鑑別所へ入ることになったのである。
 丑嶋の飼っていたウサギを預かっただけの関係と、強敵を相手に一緒に死闘を演じた関係は12年後の人間関係に大きく反映されている。だからと言ってもちろん竹本は悪い人間ではなく、どちらが悪いかと問われればむしろ柄崎の方であろう。竹本は仕事場で重傷を負った黒田の治療費を捻出しようとしたり、手に入れた5000万円の現金を甲本を初めとする20人の現場の仲間たちの再起のための資金として使おうと試みたりするからである。
 しかしよくよく考えるならば、それは丑嶋がしている「金貸し」と同じことであろう。経験則に従うならば、竹本のやり方では例え資金があっても立ち直れる人間はいないことを丑嶋は身に染みて分かっている。竹本の「善意」は甘いのであるが、悪意はなく結局全責任を一人が背負うことになる竹本に対して丑嶋は珍しく最後まで逡巡している。シリーズ最後までテンションが落ちることなく期待を裏切らない出来である。


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『闇金ウシジマくん Part3』

2016-10-29 00:08:05 | goo映画レビュー

原題:『闇金ウシジマくん Part3』
監督:山口雅俊
脚本:山口雅俊/福間正浩
撮影:西村博光
出演:山田孝之/綾野剛/本郷奏多/浜野謙太/藤森慎吾/白石麻衣/筧美和子/最上もが
2016年/日本

 「ワイルドサイドを歩く」ことについて

 今回の主役は派遣の仕事で辛うじて生計を成り立たせている沢村真司と、妻がいながら会社の同僚の瑠璃やキャバクラと交際しているサラリーマンの加茂守の2人である。沢村は街角で写真撮影をしていたところをたまたま見かけたタレントの麻生りなと、インターネットで月収1億円を稼ぐという「天生塾」を主宰する天生翔が開くパーティーで再会し、セミナー代などを費用を借りるために、加茂はキャバ嬢の花蓮こと花織に貢ぐために「カウカウファイナンス」に関わるようになる。つまり沢村は仕事を得るために、加茂は女を得るために丑嶋馨から金を借りるのである。
 一見対照的な2人なのだが、共通していることは「はったり」という点であろう。それを天生は「自分自身のブランディング」と呼び丑嶋は「パッケージ」と呼ぶのであるが、不思議なことに自信を持って嘘をつける人に人々は魅了されてしまうのであり、そのことに気がついた沢村は天生翔を真似てセミナーを催し、加茂は花蓮に良いところを見せようとする。しかしその2人の「はったり」を陰で支えているのが「カウカウファイナンス」なのである。
 不幸なことに加茂は愛人たちも妻も失い閑職に追いやられ、密かに人事考課表を改竄して会社から追い出したはずの同僚の曾我部は新しい職場を得ている。一方で、沢村は試行錯誤しながら親子の農業体験の仕事を始め、沢村の「夢ノート」を見ていてそこを訪ねてきた麻生りなとの関係の修復にも希望を見いだす。りながパーティーで沢村に言った「屋上の縁の端から端まで歩け」とは見かけとは裏腹の地味な作業だったのである。まだ救いのあるゲス男と、もはや救いのないゲス男がいるのである。
 白石麻衣と藤森慎吾の意外な好演も手伝って期待を裏切らない佳作である。


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『金メダル男』

2016-10-28 00:04:37 | goo映画レビュー

原題:『金メダル男』
監督:内村光良
脚本:内村光良
撮影:神田創
出演:内村光良/知念侑李/木村多江/ムロツヨシ/土屋太鳳/平泉成/宮崎美子
2016年/日本

「アマチュア」の限界について

 主人公の秋田泉一が小学生の時の運動会の徒競走で1等賞を獲ったことをきっかけに様々なコンテストに挑み、やがて「塩尻の金メダル男」と呼ばれるようになるのだが、中学生になり思春期を迎え、異性を意識するようになると集中力が途切れるようになり、一位から遠のき始めた。
 県立塩尻高等学校に入学し友人の竹岡啓二とバスケットボール部に入るが集団行動に向かないと判断すると「表現部」を一人で設立し、文化祭で『坂本龍馬 その生と死』という舞を演じると入部希望者が殺到し、結果的に泉一が追い出されることになる。
 高校を卒業して上京して「劇団 和洋折衷」に入団するが、やはり集団活動には馴染めず、様々なことに一人でチャレンジするのではあるが、一位には届かない。そんな時にマネージャーをしてくれていた亀谷頼子が、かつて自分が憧れて上京するきっかけになったアイドルの北条頼子だったことを知り、今度は一人ではなく、集団でもない「二人」で一位を目指すことになるのであるが、急ごしらえの芸では何をやってもダメだった。
 それでもプロにはならず何かをやり続ける泉一の信条は「アマチュアリズム」というものであろう。プロになってキャリアを積んで大御所に甘んじることに興味がわかないのであるが、正直に言うならば泉一のように誰もが「アルバイト」のまま人生が上手くいく訳ではない。50歳を過ぎた頃に偶然高校の同級生の竹岡啓二に会い、同級生だった横井みどりが亡くなったことを知る。つまり泉一は死を意識する年齢に差し掛かっていることを自覚しているはずだが、それでも「アマチュア」にこだわれるのは結果的に結婚もして子供もできて全体的には人生が上手くいっているからなのであり、悪い作品ではないが決して私たちの人生の参考にはならない。「性欲」の問題はどこへ行ってしまったのか?


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『少女』

2016-10-27 00:07:45 | goo映画レビュー

原題:『少女』
監督:三島有紀子
脚本:三島有紀子/松井香奈
撮影:月永雄太
出演:本田翼/山本美月/佐藤玲/真剣佑/児嶋一哉/白川和子/稲垣吾郎
2016年/日本

 トラウマと因果応報の関係について

 作品の途中まではまるで難解なアート系作品のようでなかなかストーリーが展開しないのであるが、後半になるとだんだんと分かりやすくなってくる。
 転校生の滝沢紫織の「親友の死体を見たことがある」という告白に主人公の桜井由紀と草野敦子が敏感に反応し、由紀は「A子のために」授業中にも『ヨルの綱渡り』という小説を書いているが、それは少々歪んでおり、敦子を救うつもりで敦子を学校の屋上から落とす幻想を由紀は見る。
 
夏休みになると由紀は小児科の病棟で、敦子は特別養護老人ホームでボランティアを始め、それぞれ死に対する探求を試みるのであるが、それは由紀には祖母の体罰のトラウマがあり、敦子には剣道部の大会の決勝戦で負けたことによる同級生たちからのいじめがトラウマになっていることと関係があるだろう。
 敦子が老人ホームで知り合った高雄孝夫と由紀が関わっている小児科の病棟に入院しているタッチーが実の親子として偶然出会うことになるが、痴漢の冤罪によって家庭が崩壊したことを知らないタッチーは孝夫の腹部をナイフで刺して怪我を負わせてしまう。それを目の当たりにした由紀は人の死を見たいと思いながら実際に見てしまうとパニックになってしまい、敦子に病室から出されて救われるのであるが、それは幼い頃に由紀が怪我をして巻いていた包帯から血が滲み出て敦子が連れ出した状況の再現となる。敦子は老人ホームで大福を咽喉に詰まらせたおばあちゃんを掃除機で助けるのであるが、そのおばあちゃんは由紀の祖母なのである。
 そもそも由紀はタッチーの友人で一緒の病室に入院している昴の父親の居場所を探していたのであるが、父親の居場所を教える代償として体を求めてきた三条という男は痴漢されたと嘘を言い男たちから金を巻き上げていた滝沢紫織の父親で、警察が三条の家に家宅捜査に入った際に、部屋から女性用の下着が大量に見つかる。結果的に、紫織が「遺書」を残して自殺に追い込まれる。
 『ヨルの綱渡り』とは実は綱渡りをしているつもりでも、夜が明けて陽光が届けば綱だと思っていたところには道があることを知り、恐怖がなくなるという話で、ようやく国語教師の小倉一樹によって引き起こされた「因果応報」の呪縛から逃れた由紀と敦子は元気になって学校に通うようになるのである。「詩的」な割りには上映時間が長すぎるような気がする。


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崩して歌うことについて

2016-10-26 00:42:57 | 邦楽

うたコン初登場の乃木坂46、昭和のアイドル・松本伊代、早見優と競演でアイドルソングのスペシャルメドレーを披露
乃木坂46、16thシングル「サヨナラの意味」ミュージックビデオが公開
橋本奈々未が涙…乃木坂46新曲「サヨナラの意味」MV公開
ぱるる卒業曲「ハイテンション」MV解禁

 10月22日にフジテレビで放送された「MUSIC FAIR」を見ていて、不思議に思った

ことがある。「目上の人に怒られた経験」という質問に関するゲストの布施明の答えである。

布施は自分が「ポップス系だから歌を崩して歌いたくなる」と言い、そのことに対して当時の

事務所の先輩でもあったハナ肇が「おまえは自分の財産というものを何故そう粗末に扱うのか? 

粗末にする人はいないぞ」と指摘されたことで直したというのである。ハナ肇の意見はもっともで

ヒット曲は何回も歌うから本人が飽きてしまい得てして崩して歌ってしまうのである。

ところがそう言っている布施明が実際に直しているかどうか過去の動画を見直してみると

布施の大ヒット曲「シクラメンのかほり」や代表曲の「マイ・ウェイ」などやっぱり崩して歌って

しまっているのである。布施の発言の真意が分からない。できるだけオリジナルに忠実に歌うことを

心掛けている歌手は、私の知る限り野口五郎だけである。

 しかし目下私の関心は乃木坂46の新曲「サヨナラの意味」が初のミリオンに達するかどうか

ということと、逆の意味でAKB48の新曲「ハイテンション」がミリオンに達するかどうか

ということであるが、それはあくまでもセンターになって卒業する2人の人気比べということ

ではなく楽曲のクオリティーの良し悪しという意味においてである。


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『バースデーカード』

2016-10-25 00:04:57 | goo映画レビュー

原題:『バースデーカード』
監督:吉田康弘
脚本:吉田康弘
撮影:木村信也
出演:橋本愛/ユースケ・サンタマリア/須賀健太/木村多江/中村蒼/宮崎あおい
2016年/日本

もう一つの「クイズ大会」について

 主人公の鈴木紀子が10歳の時に病気で亡くなった母親の鈴木芳恵から、紀子が11歳の誕生日から20歳の誕生日まで毎年手紙が届くことでストーリーが展開していくのであるが、ここでは紀子が着ているTシャツに書かれている英文に注目してみたい。
 紀子が芳恵と図書館に本を借りに来た時に着ていた紀子のTシャツには「Desires will come to you(欲望があなたの心に湧いてくる)」と書かれている。入院している芳恵のところに紀子が訪ねてきた時に着ていた紀子のTシャツには「Have a cozy talk(気楽に話そう)」と書かれている。紀子が芳恵の親友だった石井沙織が住む小豆島を訪れた時に着ていた紀子のTシャツには「Rise and Grow(元気よく成長しよう)」と書かれているが、これは紀子と、沙織の一人娘で不登校で引きこもっている真帆に向けてのものであろう。19歳の誕生日に紀子が芳恵の手紙を読まないことで父親の宗一郎と喧嘩になった時に着ていた紀子のTシャツには「I am happy that we can smile with you(あなたと一緒に笑えることができることが私の幸せ)」と書かれている。ここまでストーリーとTシャツの「メッセージ」が絶妙に組み合わさっている作品を初めて観た。


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『何者』

2016-10-24 00:00:55 | goo映画レビュー

原題:『何者』
監督:三浦大輔
脚本:三浦大輔
撮影:相馬大輔
出演:佐藤健/有村架純/菅田将暉/二階堂ふみ/岡田将生/山田孝之
2016年/日本

「著名」と「無名」と「匿名」の違いについて

 『永い言い訳』(西川美和監督 2016年)の主人公の衣笠幸夫は著名な小説家になれただけでも幸せなのかもしれない。ほとんどの人々は「無名」のままで生きていくのだから。それでも若い内は多少なりとも野心を持ち、世の中に認めてもらえるように就職活動に耐えられなければ、主人公の二宮拓人と共に演劇サークルで活動していたものの、やがて二宮と袂を分かち小劇団を旗揚げして活動するようになる銀次がしたような選択もあるのだが、なかなか企業から内定をもらえない、一見すると誠実そうな二宮の性格はかなり歪んでおり、それは「匿名」として「何者」というよりも「何様」として糾弾されることになる。
 そんな二宮と同じ大学に通う田名部瑞月は何故かいつも二宮の前に突然現れる。当初は二宮たちと一緒に就職活動をしていたが、就職活動に対して否定的な宮本隆良を非難したことをきっかけにグループを離れる一方で、最後まで二宮に対して肯定的ではあるのだが、最後に分かるようにそれは内定をもらえている「傍観者」だからで、実は一番性格が悪いのではないかと思えてくる。しかしそれは本作をあれやこれやと思いながら楽しんで観ている私たち観客にも当てはまることなのである。
 ラストで二宮は面接試験で一分間の自己紹介にタイムオーバーで失敗し、会社を後にする。もはや二宮に残された選択は性格が悪くても生きていける衣笠幸夫が所属する文芸の世界だけであろう。


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『永い言い訳』

2016-10-23 00:23:00 | goo映画レビュー

原題:『永い言い訳』
監督:西川美和
脚本:西川美和
撮影:山崎裕
出演:本木雅弘/深津絵里/竹原ピストル/堀内敬子/藤田健心/白鳥玉季/池松壮亮/黒木華
2016年/日本

「他人」として生きなければならない原因について

 主人公の名前は「衣笠幸夫」である。綴りは違うが「きぬがさ さちお」と聞けば大抵の日本人は国民栄誉賞を受賞した元プロ野球選手「衣笠祥雄」を思い出すであろう。衣笠幸夫は生まれた時からそのプレッシャーに耐えてきたが、とりあえず「津村啓」というペンネームで小説家としてブレイクしテレビのクイズ番組にも出演して活躍していたが、それでも「衣笠祥雄」という名前が大きすぎてプレッシャーから逃れられず、本業の小説が上手く書けなくなってくる。
 そんな時に妻の夏子が彼女の親友の大宮ゆきと旅行先に向かうために乗っていたバスの事故で急死してしまうのだが、幸夫は自宅に自分の編集者で愛人の福永智尋を招いて情事に耽っていた。知らせを受けた幸夫は、その後は体裁振り、葬式を取り仕切り、長距離トラック運転手の大宮陽一の子供で中学受験を控える真平と保育園に通う灯の世話をすることを買って出る。福永からは「あなたは自分以外誰も愛していない」と罵られ、夏子のスマホには幸夫宛てに「もう愛していない。ひとかけらも」というメッセージが残されるが、陽一の子供たちと接する中で幸夫は「人生は他者だ」とメモを取り、人間として成長するという展開になっていくはずだった。
 ところが衣笠幸夫はその一連の出来事を小説『永い言い訳』として執筆し、文学賞を受賞してしまうのである。つまり幸夫はやはり小説家としての体裁を崩すことができず、事故で妻を亡くした悲劇の主人公になりきりながら、自ら編集者との不倫を暴露するような人間が人を本気で愛せるようにはならないはずだが、社会的高評価は得てしまう。幸夫が書いた「人生は他者だ」という他者は本当に「他人事」という意味なのである。ゲスな男だと非難しないで欲しい。これは「きぬがさ さちお」と名付けられ「他人」の人生を生きなければならなくなった悲しい男の宿命なのだから。
 灯がプレゼントしてくれた「家族写真」には幸夫だけが写っていないが、それは幸夫が撮っているからで、決して「他人」になりたい訳ではないのである。「長い」ではなく「永い」言い訳になってしまう理由は、結局、このように言い訳が終わらないことを示している。フランスの映画監督エリック・ロメールの「喜劇と格言劇」シリーズを彷彿させる傑作である。


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『真田十勇士』

2016-10-22 00:02:46 | goo映画レビュー

原題:『真田十勇士』
監督:堤幸彦
脚本:マキノノゾミ/鈴木哲也
撮影:唐沢悟
出演:中村勘九郎/松坂桃李/大島優子/加藤雅也/永山絢斗/松平健/大竹しのぶ
2016年/日本

舞台と映画の演出の使い分けについて

 『高慢と偏見とゾンビ』(バー・スティアーズ監督 2016年)は「原作物」のパロディとして出来が良い方で、「原作」があるという点においては本作も、冒頭の作風とクライマックスの演出もトリッキーでラストの大胆な「伝説」も面白いのだが、ここでも肝心の合戦シーンをどのように評価するべきだろうか。
 大阪冬の陣は何とか乗り切ったが、淀殿の強い意向による大阪城の堀の埋め立ての翌年に豊臣方は大阪夏の陣を迎えることになる。一念発起した真田幸村が十勇士を従え徳川家康の首を獲りに攻勢に出るものの、家康を目の前にして息子の真田大助を庇おうとして幸村が背中を撃たれ、さらに大助も射殺されてしまうのである。もちろんそれを目の当たりにしていた猿飛佐助や霧隠才蔵が2人のみならず、殺された他の仲間の仇を討つために家康を襲うと思いきや、何故かシーンが変わってしまうのである。これは舞台の演出ならばあり得ると思うが、映画の演出としては観客は気がそがれてしまうのではないだろうか。


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