本作の主役である消防士のクーパー・アボットと彼を追うプロファイラーのジョセフィン・グラント博士の関係は、イギリスのテレビドラマ『THE FALL 警視ステラ・ギブソン』の犯人で心理カウンセラーのポール・スペクターとロンドン警視庁の警視であるステラ・ギブソンの関係に似ている。つまりそういうことなのだと思う。 作品前半まではリアリティーがあって良かったものの、盗んだリムジンに乗って逃げおおせながら停止させられ周囲を警官に囲まれながらも逃げ出せてしまうシーンにはさすがに無理があったが、おそらくクーパーと彼の母親の関係を続編で描こうと予定していたのかもしれない。しかし残念なことに続編を制作するほどヒットはしていないが、長女のサレカのプロモーションフィルムとしては成功していると思う。「リリース」を和訳しておきたい。
主人公で高校生の神谷史織のモデルは間違いなくフランスのテレビドラマ『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』の主人公でパリ犯罪資料局の文書係のアストリッド・ニールセンだと思う(因みに本作とは全く関係のない話なのだが、アストリッドを演じたサラ・モーテンセンと相棒の警視のラファエル・コストを演じたローラ・ドヴェールは二人とも誕生日が6日違いの1979年生まれで現在44歳である)。 愛知県の実家の織物工場を手伝っており発達障害を抱える史織の天才性と、東京で一旗揚げようとファッションブランドを立ち上げたものの失敗して実家に戻って来た姉の布美の葛藤が、二人の父親の康考の昔気質の頑固さも手伝ってさらに関係をこじらせてしまうのだが、最終的には史織と布美の成長で上手くまとまるという話は、ありきたりながらも良く出来ているのではないだろうか。『徒花 - ADABANA -』(甲斐さやか監督 2024年)よりもよっぽど観やすい。 しかしどうも「尾州はイギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラと並ぶ世界三大毛織物産地といわれている」という宣伝文句は怪しい感じで、ビエラはともかく、ハダースフィールドは疑問を持たざるを得ない。何故ならば1764年にジェニー紡績機を発明したジェームズ・ハーグリーヴスも、1768年に水力紡績機を発明したリチャード・アークライトも、1779年にミュール紡績機を発明したサミュエル・クロンプトンもランカシャー出身だからである。実際に、英語版のウィキペディアには「19世紀のランカシャーは経済活動の中心地であるが故に裕福な都市の一つだった。経済活動は石炭鉱業や特に綿が使われた織物産業や漁業が含まれていた。(Lancashire in the 19th century was a major centre of economic activity, and hence one of wealth. Activities included coal mining, textile production, particularly that which used cotton, and fishing.)」と書かれている。世界配給も見据えてわざわざタイトルをローマ字の「BISHU」としたのだろうが、多少の勇み足を感じる。