テリー・ジョーンズが監督を務め、モンティ・パイソンのメンバーたちが集結している本作は、さながらモンティ・パイソン作品のスピンオフといった作風で、例えば、ヒロインで編集者のキャサリン・ウェストは何故かグラント・コチェブ大佐と知り合いで、大佐に執拗に迫られて困っていたり、主人公で小学校の教師のニール・クラークがキャサリンにゲイ疑惑を持たれたり、ニールの同僚のレイは、同じ学校の教師のプリングルに片思いだったのであるが、ニールの超能力でプリングルがレイを崇拝するようになるところなど、かつて「モンティ・パイソン」シリーズで描かれていた反権力、反宗教、親同性愛を彷彿とさせる。モンティ・パイソンの作品は決して嫌いではないのであるが、これらのテーマをメインに据えることは古色蒼然とした感はある。しかし精確に言わなければ超能力がニールが想像もしていない結果を巻き起こすというアイロニーは効いている。 演出の面においても疑問は残る。例えば、ニールの部屋に突然キャサリンが訪れて、そのまま一晩過ごしてしまう。ニールは自分の超能力でキャサリンはやって来たと思い込んでいるのだが、実はその時だけシステムの故障でニールには超能力は無く、キャサリンは本当にニールのことが好きで彼の部屋に来たのである。しかしこの事実を知っているのは観客だけで、この伏線は最後まで活かされることはない。あるいはキャサリンの上司で書評番組の司会者であるフェネラと『What You See With Your Eyes Closed』というタイトルの著書を執筆するはずのニールとのバトルのくだりなど未消化のまま終わってしまう。ジョン・クリーズが演じたエイリアンの「シャロン(Sharon)」が何故自分の名前がオーストラリアに多いからという理由で改名したのかよく分からなかった。 確かに「Absolutely Anything」という原題通りに「何でもかんでも」取り入れている姿勢は評価に値するが、個々のネタは面白いものの大きなストーリーをまとめるためには85分という上映時間は短すぎる感じがする。
原題:『The Second Best Exotic Marigold Hotel』 監督:ジョン・マッデン 脚本:オル・パーカー 撮影:ベン・スミサード 出演:ジュディ・デンチ/ビル・ナイ/マギー・スミス/デヴ・パテル/リチャード・ギア 2015年/イギリス
「卵巣の疼き方」について
前作『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』の原題は「The Best Exotic Marigold Hotel」で本作の原題は前作の原題に「Second」が付いただけであるが、結果的に「二番目に最高(The Second Best)」というタイトルがそのまま当てはまるような出来だと思う。 ホテルの支配人であるソニー・カプールとスナイナの結婚式でダグラス・エインズリーが引用した詩はアルフレッド・テニスン(Alfred Tennyson)のもので、『007 スカイフォール』(サム・メンデス監督 2012年)においてもテニスンの詩は引用されており、ここにイギリス映画らしさを感じさせるのであるが、ダグラスの娘のスーザンも「Beating the Bubble(誇大な計画を打ちのめせ)」という経営に関する講演をしており、インテリの家族とはこのようなものなのであろう。 しかし最も印象的なシーンはそのような知性よりも「感情的」なラストで、ソニーとスナイナの結婚式に何故かミュリエル・ドネリーだけが出席しないまま終わってしまう。体調がすぐれないとしても寝込んでいるわけではないので、出席することは可能だったはずで、他のホテル滞在者が年相応の相手を求めていたのに対して、ミュリエルのソニーに対する想いが本気であることを感じさせるのである。