MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『未来からの挑戦』

2019-07-31 00:51:03 | goo映画レビュー

原題:『未来からの挑戦』
監督:伊東美行/花房實/小山攻
脚本:田波靖男
出演:佐藤宏之/稲垣昭三/小山セリノ/手塚学/熊谷俊哉/阪本真澄/紺野美沙子/テレサ野田
1977年/日本

当時の「少年ドラマ」の特徴について

 『未来からの挑戦』はNHKの「少年ドラマシリーズ」の一篇として制作された。映像が残っていなかったのだが、2014年に視聴者から録画を提供されて、修復の上で2015年に番組公開ライブラリーで公開されて埼玉県川口市のSkipシティのNHKアーカイブスで見られるのだが、映像のノイズが結構残っているため放送されることはないと思う。
 『未来からの挑戦』は眉村卓の『ねらわれた学園』と『地獄の才能』を原作としている。『ねらわれた学園』はその後、何度も映像化されているが本作が一番出来が良いのではないだろうか。おそらく当時の受験戦争と呼ばれる受験勉強の過熱さに警鐘を鳴らす意図で制作されたのであろうが、「全体主義」に対する批評に昇華していると思う。
 「少年ドラマシリーズ」の特徴として野外のシーンも全てスタジオセットで撮っており、今のテレビドラマを見慣れていると多少の違和感はある(「未来人」たちが通信として利用しているのが「家電」というのも笑える)。出演者がセリフを噛んでいる場面もあるのだが、そのまま放送されているのは時間的な問題があったのか、あるいは「少年ドラマ」だから演出が甘めだったのかもしれない。
 しかし決定的に違和感があるのは紺野美沙子や小山セリノなど女性陣の演技と比較するならば主演の佐藤宏之や熊谷俊哉の演技が棒読みのように酷いことである。熊谷はともかく、佐藤は本作の脚本を担った田波靖男のプロダクションに所属していたコネで選ばれたのだと推測できるレベルである。


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『THX 1138』

2019-07-30 00:56:38 | goo映画レビュー

原題:『THX 1138』
監督:ジョージ・ルーカス
脚本:ジョージ・ルーカス/ウォルター・マーチ
撮影:デヴィッド・マイヤーズ/アルバート・キーン
出演:ロバート・デュヴァル/マギー・マコーミー/ドナルド・プレゼンス/イアン・ウルフ
1971年/アメリカ

ルーカスが撮る「アメリカン・ニューシネマ」について

 近未来の世界では人々は精神安定剤を服用することで気持ちをコントロールして精密な作業をこなし、性交や繁殖は禁じられている。THX-1138と呼ばれる主人公は仕事が終われば、家でホログラムを観ながら自動のマスターベーティング装置で性欲を処理しているのだが、そんなTHXに好意を持った女性ルームメイトのLUH-3417がTHXが服用する錠剤の一錠を取り換えたことで、気分が高揚しLUHと性交してしまい、ベッドのみが置かれている真っ白な空間に他の囚人と共に隔離されてしまう。
 ここからTHXの「脱出劇」が始まる。逮捕されるまでの経費が限度を越えたら追跡されることはなくなるためにTHXはSEN-5241と共に逃げ、途中でSRTと遭遇するのであるが、SRTに導かれた扉から出ると、無数の人々が走り回る渦の中に巻き込まれてしまう。そこから脱出した後に、乗った車が柱にクラッシュしてSENは死んでしまう。
 THXはついに逃げ切って、地上に出ると画面の左半分いっぱいに沈む太陽が映される。ストーリーは時代を反映した「アメリカン・ニューシネマ」の影響が色濃いながらもいまいち不明確であることは仕方がないとしても、要所要所に見どころを仕込んでいるところはさすがジョージ・ルーカスだと唸らされる。冒頭でエンドロールを上から下に流すところからして若いルーカスの野心が伺える。


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『ミドリムシの夢』

2019-07-29 00:43:24 | goo映画レビュー

原題:『ミドリムシの夢』 英題:『Dream of Euglena』
監督:真田幹也
脚本:太田善也
撮影:島根義明
出演:富士たくや/ほりかわひろき/今村美乃/吉本菜穂子/佐野和真/歌川椎子/長谷川朝晴
2019年/日本
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

理想と化す「全体主義」について

 前半は深夜にアイドルの望月みうとマネージャーが車内で会話しているシーンと、故郷に戻るミュージシャンとファンの幸恵の逢瀬のシーンが交互に映され、マネージャーと幸恵が夫婦であるように匂わすが、それはミスリーディングで、春日部の登場によりさらに混沌としてくる。
 駐車監視員のマコトと百田茂は冒頭でプロポーズに成功したばかりのカップルの車を取り締まり、ラストではヤクザの車を取り締まり、法律を遵守しているにも関わらず「空気の読めない奴ら」としてどちらにしろ憎まれることはあっても感謝されることはあり得ない。そんな二人の夢は日本の首相になるということである。日本のトップに立てば文句を言われることはないはずということで、それは「全体主義」であり、皮肉が効いていると思う。
 冒頭とラストのBGMの音がうるさく感じたが佳作であることは間違いなく、今村美乃がこんなところで本領を発揮している。


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『バカヤロウの背中』

2019-07-28 00:46:37 | goo映画レビュー

原題:『バカヤロウの背中』 英題:『The Idiot's Back』
監督:藤本匠
脚本:藤本匠
撮影:羽蚋玲
出演:本城裕哉/鳩川七海/千国めぐみ/王細雨/中江聡/山城一乃/山村ひびき
2019年/日本
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

背中を叩く意味について

 冒頭の引っ越しシーンは主人公の雪たちがアパートの狭い廊下を荷物を抱えながら行ったり来たりしている場面で、婚約者として密かなプレッシャーを感じている俊と一緒に住む四畳半の部屋があるシェアハウスは中国人の留学生たちも一緒で相変わらず息苦しさをもたらすのであるが、さらに元カノの軌余子が隣の住人の留学生の王の部屋に居候しだしたことから俊の息苦しさはピークに達する。
 行方不明となった俊を「湖にいる」という情報だけで雪が実際に湖の畔で見つけ出すのであるが、アパートの「狭さ」から湖の「広さ」へと流れる映像の解放感と、見つけられたものの、雪が俊の背中を通してでしかコミュニケーションが取れないという意思疎通の不自由さのアンサンブルが2人の理想と現実の葛藤を暗示していて素晴らしいと思った。


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『サクリファイス』(2019年)

2019-07-27 00:31:40 | goo映画レビュー

原題:『サクリファイス』 英題:『Sacrifice』
監督:壷井濯
脚本:壷井濯
撮影:柗下仁美
出演:青木柚/五味未知子/半田美樹/藤田晃輔/櫻井保幸/矢﨑初音/青木陽南/三浦貴大
2019年/日本
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 優秀作品賞

立教大学現代心理学部映像身体学科の「作風」について

 2011年3月5日、幼い頃に新興宗教団体「汐の会」で母親の葉子と共に「Ap」というホーリーネームで東日本大震災を予知した翠は直後に脱会して7年後の現在は大学生になっているのだが、彼女の近辺では猫殺しや神崎ソラが殺されるなど事件が相次いでいた。ソラは翠と同じ新興宗教に所属していた過去があり、翠を団体から脱出させたのは基なのだが、団体を継承したのは基の弟の漣である。
 同じ大学に通う正哉は大学生を戦争にリクルートしている団体「しんわ」に洗脳されて迷彩服で学校に通っているのであるが、同じ大学に通う鈴木塔子は同じ学部の沖田が猫殺しの犯人ではないかと疑い始める。もう一人狭山という男子学生も登場するのだが、何も取り柄もなさそうな彼は誰にも相手にされないが故に孤高でいられる強みも持つ。
 やがてストーリーは沖田の「猫殺し」と正哉の「人殺し」に挟まれる翠や塔子の、大小の「犠牲」の上に成り立つ「実存」が問われることになるのだが、本作の作風は1986年に制作されたアンドレイ・タルコフスキーの同じタイトルの作品よりも『惑星ソラリス』(1972年)に近い。
 それにしても本作の壷井濯監督は立教大学現代心理学部映像身体学科出身で、『旅愁』(2019年)の呉沁遥監督も同じ学部出身だから立教大学の強さが際立つ年になった。


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『旅愁』(2019年)

2019-07-26 00:40:06 | goo映画レビュー

原題:『旅愁』 英題:『Travel Nostalgia』
監督:呉沁遥(ゴ・シンヨウ)
脚本:呉沁遥
撮影:呉楽/王常錦/木易真人
出演:朱賀/王一博/呉味子
2019年/日本・中国
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

理解を越えた複雑すぎるセクシャリティーについて

 東京の高田馬場近辺で民泊を営む中国人の李風は、訪日客のリクエストで買い物に勤しんでいる毎日を送っている。そんな時、近所のギャラリーで個展を開いている中国人の画家の王洋と知り合う。意気投合した二人は李風の宿泊所に王洋の作品を展示するということで一緒に暮らすようになるのだが、そこに王洋の元カノであるジェニーが現れて、王洋がメインテーマのように描いている女性がジェニーであることを知る。
 こうして3人の奇妙な生活が始まるのだが、本作のテーマは「日本で暮す中国人の日常」といったものではない。李風は同性愛者で、王洋が元カノであるジェニーに未練があるのは作品を見れば分かるのだが、ジェニーは実の父親に成人用のビデオを見させられたりする虐待を受けており、男性に対する不信感がある。
 このようなふわふわとした関係のまま3人はキャンプをするのだが、3人の関係は突如として変化を遂げる。李風と王洋が口づけを交わすと、それを目の前で見たジェニーも興奮して2人に加わり、3人はその夜テント内で3Pを交えるのである。
 正直に言うならば、セクシャリティーが複雑すぎて登場人物に共感できなかったのであるが、女性監督が主人公を男性にしたことに難しさはなかったかと訊かれ、監督は「全く問題なかった」と発言していたから、監督自身が男女に関して特別な違いを感じていないのだと思った。


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『イリーナ』

2019-07-25 00:49:15 | goo映画レビュー

原題:『Irina』
監督:ナデジダ・コセバ
脚本:ナデジダ・コセバ/スヴェトスラフ・オフチャロフ/ボヤン・ヴェルティッチ
撮影:キリル・プロダノフ
出演:マルティエ・アポストロバ/フリスト・ウシェフ/イリニ・ジャンボーナス
2018年/ブルガリア
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 監督賞

感情の起伏の激しさについて

 主人公のイリーナはブルガリアの寒村で夫と幼い息子と暮しているのであるが、生活に余裕はなく、働いているレストランで残飯や飲み残しのビールなどくすねていたのだが、同僚の告げ口で店長にバレてクビになってしまう。
 幼い息子の世話にも忙殺されていたイリーナは夫のサショを相手にしていなかったために、ある日、同居していた妹のエヴァと夫の不倫関係を目撃してしまう。さらに不幸は重なり、夫のサショが石炭を掘り出している最中に落石事故が起こり、サショは両足を切断するはめになり車椅子の生活になってしまう。
 完全に収入が途絶えたイリーナは金策のために身ごもった子供を売るために首都のソフィアへ行ってリューデミラという女性と契約を結ぶものの、土壇場になって子供に情が移ってしまうのであるが、ラストでイリーナは一人で帰ってくるのである。
 例えば、イリーナが見つけた缶の箱を証拠にサショの事故は友人のヴァラームの犯行だと疑うのであるが、それはサショが使っていたと分かり、一旦はヴァラームに謝罪するのであるが、ヴァラームは自ら自分が犯人だと告白するのである。このように感情の起伏が激しい本作は登場人物の「本心」が理解しにくい。それはラストでイリーナが一人で帰って来た理由にも当てはまり、イリーナがリューデミラに同情したのか、あるいはやはり子供よりもお金を優先したのかよく分からない。しばしば登場人物がガラス越し、あるいはガラスに反射したイメージで映される演出面においても、彼らのはっきりしない心理が暗示されているように思う。


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『陰謀のデンマーク』

2019-07-24 00:33:56 | goo映画レビュー

原題:『Danmarks Sønner
監督:ウラー・サリム
脚本:ウラー・サリム
撮影:エディ・クリント
出演:ザキ・ユーセフ/ムハンマド・イスマイル・ムハンマド/ラスムス・ビョーグ
2019年/デンマーク
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 監督賞

正常な人間が正常さを保つことの困難さについて

 コペンハーゲンで23人が亡くなった爆弾テロが起こったのは2024年4月20日。それから一年後、国民運動党(National Movement)の指導者であるマルティン・ノーデル(Martin Nordahl)は移民排斥を掲げて選挙運動をしており、支持率を上げていた。
 イラク出身の19歳のザカリア(Zakaria)はアリ(Ali)と共に過激組織を立ち上げ、ノーデルの暗殺を試みるのであるが、それを未然に防いだのが警察のマリク(Malik)である。ノーデルはネオナチ組織「デンマークの息子たち(The Sons Of Denmark)」との関わりを疑われていたのだが、本人は否定したまま、ついに大統領に就任し、間もなくしてマリクは自分が助けた人物が「モンスター」であることに気がつき、その責任を問われることになる。
 サスペンス映画なのでネタバレはしないが、本作で提示される最大の難問(アポリア)は「クレイジーな人間は平気で気楽にクレイジーなままでいられる中、正常な人間が正常さを保つことの困難さ」なのである。


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『ブラインド・スポット』

2019-07-23 00:57:32 | goo映画レビュー

原題:『Blind Spot』
監督:ツヴァ・ノヴォトニー
脚本:ツヴァ・ノヴォトニー
撮影:ヨーナニ・アラリク
出演:ピア・シェルタ/アンドレス・バースモ・クリスティアンセン/ノーラ・マテア・オイセン
2018年/ノルウェー
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

ワンカットでこそ捉えられる「生々しさ」について

 冒頭は主人公である高校生のテアが参加しているハンドボールの試合風景である。そこから試合後、友人と途中まで一緒に帰宅し、家に帰ると母親のマリアが弟で5歳のビョルンを絵本を読みながら寝かしつけているところである。テアはテレビを見て、宿題をして、2人がいる弟の部屋を覗いた後、マリアは「悲劇」を発見することになる。
 マリアは息子を義理の母であるモナに託し、義理の父のハッセと共に病院に向かう。電話で呼び出された夫のアンデシュも駆けつける。そこで看護師をしているマルティンによるならばテアが幼い頃、アンデシュと一緒に同じ病院の精神科に通っていたようで、テアの実の母親であるリーネが拳銃自殺したことが原因だったようである。
 病院で失神したアンデシュはハッセと共に病院に残ることになり、マリアは用意された車で帰宅するのであるが、ビョルンはモナと一緒に眠っていた。マリアがベッドに横になると寝ていたはずのビョルンがやって来てマリアと一緒に寝るまでが98分のワンカットで描かれている。臨場感が感じられてワンカットで撮った意味が理解できるのであるが、これはもちろん俳優たちが巧者であればこそである。


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『私の影が消えた日』

2019-07-22 00:28:46 | goo映画レビュー

原題:『Yom Adaatou Zouli』 英題:『The Day I Lost My Shadow』
監督:スダーデ・カダン
脚本:スダーデ・カダン
撮影:エリック・デヴィン
出演:サマー・イスマイル/ソウサン・アルシード/レハム・アル・カサール
2018年/シリア・レバノン・フランス・カタール
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

影を失う「説得力」について

 主人公のザナはシングルマザーのようで一人息子のカリルとシリアのアパートで暮しているのだが、生活環境は決して良いものではなく、洗濯機を使っても30分ほどで停電になったり、ガスの供給も滞りがちだった。
 そんな時、ザナがガスの配給に並んでいると列の途中で配給のガスが尽きてしまい、たまたま一緒にいたジャラルとリームとタクシーに乗って隣町に向かっていたら、そのタクシーの運転手が実はスパイで隠しカメラが車内で落ちたことに動揺して検問を突破してしまったことからザナたちの放浪が始まる。
 3人で歩いているとザナは目の前でジャラルと一緒に歩いているリームに影が無いことに気が付く。目覚めた時に行方が分からなくなっていたリームは銃殺され、ザナと一緒に戻って来た時に亡くなったリームを背後から抱くジャラルの影も無くなってしまう。ようやくザナはカリルのいるアパートに帰ってこれたのだが、夜中に兵士たちが2人のアパートに忍び寄る時、ロウソクの炎で壁に映っていたザナの影も無くなってしまう(ポスターのシーン)。
 「ウルトラQ」のようなテイストにミケランジェロ・アントニオーニの初期の作品を想起させたりするのだが、影が無くなる原因に統一性がないために、暗示としては弱いのではないだろうか?


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