原題:『ラストレター』
監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
撮影:神戸千木
出演:松たか子/広瀬すず/森七菜/神木隆之介/中山美穂/豊川悦司/福山雅治
2020年/日本
マチネの終わり頃のラストレターについて
主人公の乙坂鏡史郎は小説家なのだが、例えば、同窓会で再会した岸辺野裕里から届いた手紙に対して、卒業アルバムに書いてあった彼女の実家の住所へ送ると、夏休みで暇を持て余していた遠野鮎美と岸辺野颯香が勝手に開けて読んでしまい、いたずらで裕里になりすまして乙坂に返事を出して、しばらく文通することになる。しかしどう考えても裕里と鮎美の字のみならず封筒や消印などは違うはずだから自分の相手が違うというくらい気がつくはずなのだが、乙坂は鮎美と颯香に言われるまで気がつかないのである。
乙坂は『未咲』という小説を書いて賞をもらったことで小説家としてデビューするのであるが、その後は、スランプにみまわれて新作が出版されないままでいる。乙坂は高校卒業後に、大学で遠野未咲と交際するようになるのだが、未咲は何故か阿藤という男と駆け落ちするような形で結婚してしまい、阿藤のDVで追いつめられ、別れた後も元々体が弱かったこともあって、森の中で自殺してしまうのはおそらく2018年7月頃のことであろう。
乙坂の『未咲』という小説は未咲に宛てて書いた手紙を基にした小説で、未咲は遺品として乙坂からもらった手紙を全て残しており、母親は自らを励ますために何度も読み返していたと娘の鮎美は乙坂に伝えるのだが、そうなるとこの『未咲』という小説は乙坂と未咲とのいつ頃のことを書いているのだろうか? 高校の2年間なのか、大学生になった後のことか、あるいは未咲が結婚した後のことを書いたのか? 阿藤と未咲が結婚したから乙坂は『未咲』という小説を書くことができたというのが阿藤の言い分で、そうなると『未咲』は乙坂と未咲が別れた後の話ということになるのだが、それならば何故未咲は乙坂を捨てて阿藤と結婚したのか全くわけがわからなくなるのである。
そもそも乙坂と未咲が交際するようになったきっかけは、生徒会長の未咲が卒業式で答辞を読むことになり、その原稿の添削を未咲に頼まれた乙坂が修正したことで上手く行ったことだと思うが、そのような他の人の「作品」のチェックこそが乙坂の才能で、実際に乙坂は糊口をしのぐために学習塾で国語を教えているはずなのであり、小説家としての才能は無いということを乙坂はまだ自覚できていない。
そろそろこのレビューの核心に入ろうと思うが、乙坂鏡史郎は『マチネの終わりに』(西谷弘監督 2019年)の主人公である蒔野聡史と同様に何故か連絡相手を間違えており、その主人公を演じているのはどちらも福山雅治なのである。つまり両作品の失敗は、男として「完成形」として誉の高い福山雅治が最愛の女性と結婚できないという無理筋なストーリーを展開させていることにあるような気がするのである。そして何故福山がこのようなキャラクターを選んで演じているのかも謎なのである。