MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『妖怪人間ベラ』

2021-01-31 00:58:47 | goo映画レビュー

原題:『妖怪人間ベラ』
監督:英勉
脚本:保坂大輔
撮影:川島周
出演:森崎ウィン/emme/堀田茜/吉田奏佑/吉田凛音/桜田ひより/清水尋也/六角精児
2020年/日本

「人間になんかなりたくない」動機の弱さについて

 「妖怪人間ベラ」というタイトルの割にはベラ本人があまり登場しないのは既に本作の前日譚となるドラマ『妖怪人間ベラ ~Episode 0~』が配信済みだったかららしい。
 それはともかくとしても主人公の新田康介は広告代理店に勤めているものの、与えられている仕事は『妖怪人間ベム』のテレビ番組のDVDボックスを編集するといういわゆる「企画もの」で、家庭においても妻の鮎美と息子の陽太に遠慮しているような感じで、『妖怪人間ベム』の幻の最終回が発見され、軍隊に銃で撃たれ火で燃やされるベム、ベラ、ベロの最期を見たことで自分も妖怪人間のようになりたいという願望を持つようになるのだが、人間界に怨みを持つほど康介が虐げられているようには見えず、むしろ広告代理店に勤められて、優しい妻や可愛い息子がいて何が不満なのか本人に詰問してみたいものである。
 あるいは過激な内容で放送を見送られた最終回を見て、ただ単に本当に気が狂ったのならば本作も「幻の最終回」扱いにするべきだったのかもしれないが、個人的には堀田茜の好演を見ることができただけでも良しとしたい。


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『さんかく窓の外側は夜』

2021-01-30 00:54:40 | goo映画レビュー

原題:『さんかく窓の外側は夜』
監督:森ガキ侑大
脚本:相沢友子
撮影:近藤哲也
出演:岡田将生/志尊淳/平手友梨奈/和久井映見/筒井道隆/滝藤賢一/桜井ユキ/北川景子
2021年/日本

目から血を流さざるを得ない物語について

 本作は「青春映画」と言ってもいいと思うが、分かりやすく例えるならば『時をかける少女』のような「ジュブナイル映画」であろう。しかしそれは「大林宣彦的」というよりも、ウルトラマンシリーズなどを手掛けた「実相寺昭雄的」なATG作品のような渇いた雰囲気を感じる。
 主人公の冷川理人、三角康介、非浦英莉可は周囲の理解を得られないまま成長し、辛うじて母親の則子に認められていた康介の勇気が理人と英莉可の良心を突き動かすところなどは、例え肝心の理人と彼の父親との対決が描かれなかったとしても十分に見応えがあるように思う。
 それに加えて彼らの味方についた刑事の半澤日路輝を演じた滝藤賢一の「アル・パチーノ感」も良い味を出している。


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『約束のネバーランド』

2021-01-29 00:42:44 | goo映画レビュー

原題:『約束のネバーランド』
監督:平川雄一朗
脚本:後藤法子
撮影:今村圭佑
出演:浜辺美波/城桧史/板垣季光人/柴崎楓雅/山時聡真/安藤美憂/渡辺直美/北川景子
2020年/日本

優秀な子供を持つ親の苦悩について

 親子関係の寓話として考えさせられる作品だと思う。ママと呼ばれるイザベラの正体を知った主人公のエマとレイとノーマンは、自分たちは「鬼」と呼ばれる種族の食用として育てられている事実を知り、「孤児院」からの脱出を図る。イザベラは子供たちが「ハイスコア」であればあるほど高価値になるために丁寧に育てているのだが、それが却って子供たちを優秀にしてしまい自由の切望に繋がり、巧妙な計略で脱出計画を練られてしまうという矛盾に陥ってしまうのである。さらにレイがイザベラの実子であるということも、その情により彼女の青写真に狂いを生じさせたと思う。
 エマたちが忘れていることが一つあって、自分たちが「孤児院」の脱出に成功するならば、イザベラがどのような制裁を加えられるのか全く想像していないことである。まるで自分たちの将来の「希望」しか見えていないエマたちは当然実社会におけるアナロジーであって、子供たちが実家を離れてしまえばその親は「親」としては死ぬ他ないのである。
 ところでシスター・クローネを演じた渡辺直美はもはや「ヘレナ・ボナム=カーター化」しつつある。


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『真・鮫島事件』

2021-01-28 00:59:46 | goo映画レビュー

原題:『真・鮫島事件』
監督:永江二朗
脚本:永江二朗
撮影:今井哲郎
出演:武田玲奈/小西桜子/濱正悟/林カラス/鶴見萌/しゅはまはるみ/佐野岳
2020年/日本

国柄の、あるいはテレビドラマと映画の殺人事件の特徴について

 『ズーム 見えない参加者』(ロブ・サベッジ監督 2020年)のような作品は日本でも制作されている。比較してみるならば、『ズーム』においては悪霊の正体が暴かれることはないのだが、本作では悪霊の正体を徹底的に突き詰めていくところが文化の違い(?)として興味深かった。
 既にテレビドラマとしては7月26日に放送された『リモートで殺される』(中田秀夫監督)という作品があるが、おそらく本作は映画として初めてコロナ禍が反映された作品だと思う。何故かリモートで出会う登場人物たちが高校時代の同級生という設定も同じなのだが、『リモートで殺される』が恨みによる殺人であるのに対して、本作があくまでも悪霊による犯行であるというのはテレビドラマと映画のそれぞれの特質であるというのは言い過ぎなのだろうか。
 インターネットにスマートフォンが加わり「視点」が複数になったことで、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(ダニエル・マイリック/エドゥアルド・サンチェス共同監督 1999年)が完全に過去のものになったと思う。


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『ズーム 見えない参加者』

2021-01-27 00:59:57 | goo映画レビュー

原題:『Host』
監督:ロブ・サベッジ
脚本:ロブ・サベッジ/ジェド・シェパード/ジェマ・ハーレイ
出演:ヘイリー・ビショップ/ジェマ・ムーア/エマ・ルイーズ・ウェッブ/ラディ―ナ・ドランドバ
2020年/イギリス

「本物の霊」の「弱さ」について

 新型コロナウィルスのパンデミックによりロックダウンされたイギリスで2020年7月30日の午後8時頃から主人公のヘイリーたちは自宅にいながら「Zoom」を介して霊媒師のセイラン・バクスターを招いて交霊会を始めるのだが、冗談半分で始めたことが冗談ではなくなる様子が描かれる。ズームに付属している映像加工アプリが上手く使われているとは思う。
 しかし本作の肝は56分の本編よりも、その後加えられた12分の「メイキング」の方にあるのではないだろうか。「メイキング」において監督や出演者たちがズームを使って撮影前のお祓いのようなものをしており、その最中に画面が全部フリーズしたり奇妙な音がしたりするのであるが、例えこの現象が「本物」だとしても映像的にはバグや偶然といったレベルで弱いと思う。


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『アンチ・ライフ』

2021-01-26 00:47:29 | goo映画レビュー

原題:『Breach』
監督:ジョン・スーツ
脚本:エドワード・ドレイク/コーリー・ラージ
撮影:ウィル・ストーン
出演:コディ・カースリー/ブルース・ウィリス/カラン・マルベイ/レイチェル・ニコルズ
2020年/アメリカ

失敗する「父親殺し」の物語について

 西暦2242年の地球は滅亡の危機を迎え、5000万人が移住する「ニュー・アース」に向かう最後の宇宙船に主人公のノアと彼の子供を妊娠している恋人のヘイリーは2人とも乗船できるのであるが、実はヘイリーは艦長のアダムス提督の娘で、ノアは娘との関係を隠して密航したのである。
 ゾンビの要素を取り入れた『エイリアン』(リドリー・スコット監督 1979年)といったテイストだが、宇宙船に30万人が乗船しているようには見えず、ゾンビたちを倒すために最初から鉄をも溶かす洗浄剤を使えばいいのにとも思うのだが、ノアが眠りから醒ましたアダムス提督もゾンビと化しノアとヘイリーが戦うために対峙したことで、本作は娘を奪おうとする男の「父親殺し」の物語だったことに気がついた。
 だから「ニュー・アース」に到着したノアとヘイリーがそこに佇んでいた娘のゾンビに襲われる理由は、ヘイリーが子供を産むことでノアがアダムス提督の立場に追われるからだと思うのだが、あまり上手く描けているとは思えない。


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『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』

2021-01-25 00:36:11 | goo映画レビュー

原題:『Mission Mangal』
監督:ジャガン・シャクティ
脚本:ジャガン・シャクティ/R・バールキ/ニディ・シン・ダルマ/サケス・コンディパルティ
撮影:ラヴィ・ヴァルマン
出演:アクシャイ・クマール/ヴィディア・バラン/ソーナークシー・シンハ―/キールティ・クルハーリー
2019年/インド

社会的弱者(=アンダードッグ)の物語について

 太陽系の小惑星の「イトカワ」に向けて日本が飛ばした探査機「はやぶさ」を巡る映画は三作品も製作されたのだが、それに『アポロ13』(ロン・ハワード監督 1995年)と『ドリーム』(セオドア・メルフィ監督 2016年)の要素を詰め込んで「ボリウッド色」で色付けたような作品である。
 それほどストーリーてんこ盛りであるのだが、これがほぼ事実に忠実だというのが驚きである。ただ主人公でMOM計画の主任であるラケーシュ・ダワンが最初のロケット打ち上げに失敗した時でさえ鼻歌を歌って余裕をかましていたにもかかわらず、火星へのロケット打ち上げに関しては怒りやすくなっており、その性格の不安定さが彼を独身のままにしているのかもしれない。2時間ちょっとの上映時間だが、途中でインターミッションが入っている理由が分からない。


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『この世界に残されて』

2021-01-24 00:49:40 | goo映画レビュー

原題:『Akik maradtak』 英題:『Those Who Remained』
監督:バルナバーシュ・トート
脚本:バルナバーシュ・トート/クラーラ・ムヒ
撮影:ガーボル・マロシ
出演:カーロイ・ハイデュク/アビゲール・セーケ/マリ・ナジ/カタリン・シムコ―/バルナバーシュ・ホルカイ
2019年/ハンガリー

残らない「残された者たち」について

 作品冒頭は主人公で産婦人科医のアルダール・ケルネル(=アルド)が女性の出産に立ち会っているシーンで、その後1948年、その赤ん坊が生理不順に悩んでいる16歳になったクララで、相変わらず42歳になっているアルドが既に2年前から主治医として診察しているのだが、アルドもクララも両親を戦争(ホロコースト)で亡くしており、クララはおばのオルギに育てられている。
 アルドとクララは似たような境遇で、おばとの折り合いが悪いクララの「押し」でアルドとクララは半同棲のような生活を送ることになるのだが、絶えずソ連当局の秘密警察の家宅捜査を気にしながら性交渉はないままで、ラストシーンは1953年の3月5日を迎える。
 クララの誕生日(?)でアルドや彼の恋人やクララのボーイフレンドのペペたちが集う中でヨシフ・スターリンが亡くなったことがラジオで報じられる。ペぺはこれで自由に仕事ができるということで喜んだりしているのだが、私たち観客はその後1956年に起こったハンガリー動乱の事実上の失敗によりペペが想像していたような自由を得ることはできなかったことを知っているために複雑な思いで彼らを見ることになる。同様に、スターリンの死去を知った後に全員で「ここにいない大切な者たち」のことを想いながら祈るのであるが、何故かアルドだけが祈っていないのはスターリンの死が全てを解決するわけではないと察していたからかもしれない。


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『100日間のシンプルライフ』

2021-01-23 00:57:03 | goo映画レビュー

原題:『100 Dinge』 英題:『100 Things』
監督:フロリアン・ダーヴィド・フィッツ
脚本:フロリアン・ダーヴィド・フィッツ
撮影:ベルンハルト・ヤスパー
出演:フロリアン・ダーヴィド・フィッツ/マティアス・シュヴァイクホファー/ミリアム・シュタイン
2018年/ドイツ

エピソード過多でシンプルにならないライフについて

 本作は元々は『365日のシンプルライフ』(ペトリ・ルーッカイネン監督 2013年)というドキュメンタリー映画を劇映画にしたもので、主人公のパウル・コナスキーとトニー・カッツという35歳の幼馴染み同士は「ナナ」と呼ばれるスマホ用のアプリが実業家のデヴィッド・ザッカ―マンに売れたことですっかり有頂天になり、祝賀パーティーで羽目を外し、社員たちの手前、どちらかがギブアップするまで全ての所持品を倉庫に預けて何もない自宅で缶詰状態になり一日一個ずつ倉庫まで取りに行くという耐久レースを始めることになる。
 最初はそれぞれ寝袋とコートを選ぶのだが、その後、買い物依存症のルーシーとの出会いや、パウルの祖母のオマとのエピソードが挿入されると物語の軸である勝負の流れ、つまり彼らが次に何を持ち帰るのかということが分からなくなってきて、ズルもしているので本当に物の有難みを学んだのかどうか怪しくなり、パウルがザッカ―マンにヘッドハンティングされてカリフォルニア行きの片道切符を貰ったにも関わらず行かなかった動機も弱くなるのではないだろうか。ザッカ―マンが「アップル」をかじっているシーンは面白かったが。


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『勝手にしやがれ』

2021-01-22 19:27:59 | goo映画レビュー

原題:『À bout de souffle』
監督:ジャン=リュック・ゴダール
脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ラウール・クタール
出演:ジャン=ポール・ベルモンド/ジーン・セバーグ/ダニエル・ブーランジェ/ジャン=ピエール・メルヴィル
1959年/フランス

長篇デビュー作から既に難解なゴダール作品について

 もう語り尽された作品だが、あるシーンについて書いておきたい。以下はNHK-BSプレミアムの森みさによる字幕翻訳に基づくのだが、もちろん字幕翻訳を批判する意図はなく、そもそもゴダールが書いたセリフが難しいのである。
 主人公のパトリシア・フランキーニが住む部屋にミシェル・ポワカールが勝手に入り込んだ後、パトリシアがピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)の『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(Portrait d'Irène Cahen d'Anvers)』のポスターを部屋のどこに貼ろうかと迷っていて、結局浴室に貼ることになる。その際、パトリシアが絵画のモデルが「私よりきれい?(Est-ce que tu le trouves plus jolie que moi?)」と訊いて「君の中の同居する恐れと驚きが君の目を輝かす(Dès que tu as peur, Dès que tu es étonnée, ou les deux en même temps, tu as un drôle de reflet dans les yeux.)」とミシェルは答えるのだが、正確には「両目にいかがわしい者が反映すると同時に君は恐れと驚きを被る」となり、ポスターのモデルよりもパトリシアの方がきれいであると言っているのだが、パトリシアが「だから?(Et alors?)」と返すと「そんな目の君と寝たい(Je voudrais recoucher avec toi, à cause de ce reflet.)」とミシェルは答えるのだが、正確には「その反映した者のおかげで(君がきれいに見えて)僕はまた君と寝たくなるんだ」となる。足を洗いながら「ミシェル、ミシェル」とパトリシアが呼んでいる時に、ミシェルは「そこで何してる(Je peux pisser dans le lavabo.)」とつぶやいている。

 元々の訳は「洗面台で小便してもいい?」と訳されていてこの訳がオリジナル脚本に近い。

 2016年のリマスター版の寺尾次郎による字幕翻訳では「浴室で何している」とされている。

 何故「洗面台で小便してもいい?」という訳から「浴室で何している」、「そこで何してる」と変わったのか勘案するならば、ミシェルが小便をしたいのにパトリシアが足を洗ってできないからというニュアンスを込めたと思われるが、正確にはパトリシアは浴槽の横にある蛇口が付いた流し台で浴槽の端に座って足を洗っているのだからミシェルはトイレは使えるのである。
 それではミシェルの「俺は洗面台でも小便できるぜ(Je peux pisser dans le lavabo.)」の真意は何かと勘案するならば、ここで言う「le lavabo」とは「洗面台」を指すのではなく、中世の修道院で洗浄に用いられた水槽を指すのではないかと推測する。つまりミシェルの意図はパトリシアとなかなかセックスできない鬱憤を晴らすにまかせて、セックスの暗喩(尿=精液)でタブーを犯すこともできると強がって発言したように聞こえるのである。
 その後、パトリシアは「話があるのよ(Devine ce que je vais dire.)」と訊くのだが正確には「私が言うことを察してみて」という意味になる。ミシェルは「何かな(Aucune idée!)」と答えるが正確には「何も思いつかない」という意味である。パトリシアは「子供ができたの(Je suis enceine, Michel!)」と言うのである。
 そして問題のラストシーンなのだが、撃たれたミシェルが「まったく最低だ(C'est vraiment dégueulasse.)」と言った言葉を聞き取れなかったパトリシアが警官に訊いて「最低って何のこと?(Qu'est-ce que c'est "dégueulasse"?)」と言って終わる。もちろんパトリシアはアメリカ人でフランス語がよく分からないという設定を踏まえた上で、これまでのストーリーの流れから判断するならば、パトリシアの意図は自分が妊娠したことも無視して警官を銃殺しキリスト教を冒涜するミシェルこそ最低ではないのかというニュアンスが込められているように思うのである。


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