冷淡な頭の形氷水 星野立子
い日がつづきます。氷水など如何でしょう。私の好きな「宇治金時」。デザイン的に「冷淡な頭の形」を餡で覆って、冷淡に見えないように工夫された(のかどうかは知らないけれど、そんな気がする)発明品だ。掲句は、正直言ってよい出来ではない。でも、後世のために(笑)書いておくべきことがあるので、取り上げた次第。すなわち、立子は主に東京や鎌倉で暮らした人だったから、氷水(かき氷)というと「冷淡」とイメージしていたのだろう。面白い見方とは思うが、何を言っているのかわからない人も大勢いるはずだ。というのも、東京近辺の氷水はシロップを器に入れてから、その上に氷をかく。したがって、「頭」部は写真の餡を取り払った感じになり、氷の色そのものしか見えないので、なるほどまことに冷淡に写る。が、名古屋以西くらいからは、氷をかいた上にシロップを注ぐ。と、見かけはちっとも冷淡じゃなくなる。九州の一部の地方では、まずシロップを入れて氷をかき、その上に重ねてシロップを注ぐという話を聞いたことがあるが、真偽のほどは確認できていない。いずれにしても、俳句を読むときに厄介なのは、こうした地方的日常性や習慣習俗などをわきまえていないと、とんでもない誤読に陥ってしまうケースがよくあるということだ。当サイトでも、かくいう私が何度も誤読してきたことは、読者諸兄姉が既にご承知の通り。ましてや、時代を隔てた句となると、作者の真意をつかむのが余計に難しくなる。誤読もまた楽し、と思ってはみるものの、あまりのそれは恥ずかしい……。ところで写真の宇治金時は、一つ5,500円也。550円の誤記ではありません。何故なのかは、おわかりですよね。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)
【氷水】 こおりみず(コホリミヅ)
◇「かき氷」 ◇「氷売」 ◇「氷苺」 ◇「氷小豆」 ◇「削り氷」 ◇「みぞれ」
削った氷に、蜜や種々のシロップで甘みをつけた夏の飲み物。昔ながらの氷店はあまり見かけなくなったが、喫茶店などで「氷」と書かれた旗や幟を見かけると、一種の郷愁を誘われる。入れるシロップなどにより「氷苺」「氷小豆」などの種類がある。
例句 作者
国原の鬼と並びてかき氷 柿本多映
美しき虚のもりあがりかき氷 中嶋秀子
兄以上恋人未満掻氷 黛まどか
氷水世間に疎くなりにけり 大場白水郎
一匙の脳天衝けり夏氷 能村登四郎
親しさにふと翳のさすかき氷 丸山しげる
俳諧はさびしや薬缶の氷水 藤田あけ烏
物言はぬことの愉しくかき氷 永方裕子
海猫ないて氷水置く卓のゆれ 金尾梅の門
眼底を暗めて氷水食ぶ 土井百合子