五観の偈(三) 星島 光雅
食の心の重要性を説いた五観の偈の第四項目と、最後の第五項目につぃてお話します。
第四項目では、「四には正しく良薬を事として形苦を済はんことを取れ」と唱えます。意味は、食べ物は体を養い命を保つための良薬としていたくだりであり、肉親の苦境を救わんためにいただくのである、ということです。ここで仏教の食に対する考え方が述べられています。すなわち、食と薬、という意味で捉えています。お寺で精進料理を召し上がられることがあるかと思います。お寺で出す食事を薬膳ともいいますが、実はここからきているのです。
最近、日本人に多い病気に成人病あるいは成人疾患といわれるものがあります。たとえば高血圧症、糖尿病、痛風などです。なかには遺伝的なものもありますが、一番の原因は食文化の変化による食べ過ぎ、飲み過ぎだといわれています。食も必要以上にとると、薬が毒になってしまうということです。
一昔前の食事に対する戒めに「腹八分目」という言葉がありました。まさに五観の偈の第四項目からきた言葉です。仏道修行中、修行僧は最低限度の食事しかとりません。
睡魔や性欲的な行の妨げになることを抑えるためでもありますが、今日飽食の時代であって、自分の健康を守るためにもこの第四項目の教えを大切にしたいものです。
次に第五項目目では「五には道業を成ぜんが為なり、世報は意に非ず」と唱えます。意味は、食べ物を受けるのはただひたすら仏道を成就せしめんがためであり、出家者にとって世間の栄達、名誉、地位等にはまったく関係がない、ということです。
今までお話をしてきました第一項目から第四項目までは、在家のみなさま方に食に対しての心構えを説いた教えですが、最後に説かれた第五項目は私たち出家者、すなわち僧侶やお寺を一緒にお守りさせていただいている寺族に対しての心構えを説いたものです。
お寺に住している者は、壇信徒の皆さまより財施、すなわち金品の入ったお布施や野菜、果物、魚等、仏さまにお供えいただいた物をあとで有難く頂戴し、お寺を護持させていただいております。しかし、残念ながら中には、仏さまやお寺の護持のために浄財を志納してくださった布施者の心を忘れ、世間の目を引く栄華な生活をしたり贅沢な高級車に乗っている人がいます。第五項目目は、俗世間的な名誉や地位の為に食することがあってはならないという厳しいお諭しの教えです。私も、いつも心に自戒している言葉です。
四回にわたり、食育の心として五観の偈についてお話してきましたが、今日本人が忘れているのが、食事の前に合掌をし感謝の心を表すということです。動植物の尊い命をいただき生かされている自分は、またどのような生き方をすればいいのかということを、是非ご家庭で話題にしていただきたいと思います。そして、人に言う前にまず、自ら食事前の美しい姿を実行していただきたいと思います。
南無大師遍照金剛
筆者 岐阜県中津川市寶心寺 住職
参与770001-4228(本多碩峯)