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高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性

2020-11-26 21:22:30 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
宗兼明香・南正人・高槻成紀

 長野県東部の御代田町のカラマツ林に生息するテン(ニホンテンMartes melampus)の食性を糞分析法により明らかにした.評価は出現頻度法とポイント枠法の占有率によった.平均占有率は,春には哺乳類(64.1%),夏と秋には果実(夏は65.3%,秋は78.0%)が多かった.種子の出現からわかった果実利用は月ごとに変化し,春にはミズキなど,夏にはサクラ属など,秋にはマタタビ属やアケビ属などが多かった.昆虫は夏でも4.9%に過ぎず,他の地域より少なかった.これは本調査地に果実が豊富なためと考えられた.頻度法による評価では平均占有率が小さかった昆虫や葉が過大に評価された.占有率−順位曲線からは平均値や頻度法ではわからない,食物の供給量とテンの食物選択性を読み取ることができた.テンに利用された果実には林縁植物が多いことからテンが林縁植物の指向性散布をする可能性が示唆された.

調査地

表1 テンの糞組成

各季節の主要食物の「占有率ー順位」曲線
一部の個体しか食べることができないとL字型になる

主要種子の占有率の月変化


仙川のタヌキの食性

2020-11-26 16:14:10 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
<はじめに>
 仙川は小金井から始まって南東に流れて野川と合流したあと二子玉川で多摩川に合流する川です。川とはいっても上流部分はいわゆる「三面張り」、つまり自然の川を底も両岸も
人工的にコンクリートにしています。ただし仙川では両岸は鉄板になっています。また水は流れていません。したがって「川」と呼ぶには相当無理がある感じです。
 この仙川上流部にタヌキがいるという情報があったので、様子を見にいったところ、ため糞が見つかりました。私は「都会のタヌキ」の食性を調べたことがあります。一つは小平市の津田塾大学のキャンパス、もう一つは明治神宮です。津田塾大は確かに市街地にありますが、キャンパス内には立派なシラカシの林があるために、ムクノキなどの果実や植栽されたものですが、カキノキとイチョウの果実が主要な食物になっていました(こちら)。もう一つの明治神宮の森は津田塾大学以上に立派な林ですから、やはりムクノキやギンナンがタヌキの重要な食物になっていました。だから、都会のタヌキを調べたと言っても、正確には「都会の立派な林に住むタヌキ」しか調べていないことになります。
 その意味では仙川のタヌキは文字通り都会の極端に人工化された環境に住むタヌキといえますから、そのタヌキが何を食べているかを知ることは、人と野生動物との共存という意味でも意義のあることです。

<仙川の環境>
 仙川の「川底」に降りると、底の部分はコンクリート、両側は鉄の壁で、高さが2メートルあまりもあります。ユニットになっている鉄板は凹凸がありますが、隙間はなく、足がかりになりそうなものもないので、タヌキには上下ができそうもありません。ところどころに鉄の手すりがありますが、もちろんタヌキは使えません。

仙川の「川底」から眺める

 しかも川の両側には高さ1メートル余りの金網柵があるので、人も出入りできません。このことはタヌキにとって人はほとんど来ないという意味で、安全性は確保されていると言えます。

仙川を上から見下ろす

<ため糞>
 その仙川の一角でタヌキのため糞を見つけました。ここから新しいものを数個拾って分析することにしました。またセンサーカメラをおいておきました。

見つかったため糞

 これがタヌキのため糞であるのは間違いないことではありますが、カメラには糞をするタヌキが写っており、確かにタヌキが利用していることが確認できました。

糞をするタヌキ

 このため糞場で5月15日から17日、19日、21日と順調に糞を拾うことができましたが、22日
以降、パタリと利用されなくなりました。理由は不明ですが、あるいはセンサーカメラを警戒したのかもしれません。しかしカメラを設置した初めの方で警戒し、次第になれるのが普通なので、1週間ほどしてから使わなくなったのは不思議です。実はこの近くで営巣していることが確認されており、子供の成長に伴い行動圏が変化した可能性もあります。
 そのため、糞が集められなくなったのですが、5月31日に別の場所2カ所でため糞を見つけることができました。

<分析結果>
 5月に16個の糞を分析しました。分析するには、まず糞を0.5mm間隔のフルイの上で水洗します。そのあとで、特殊なスライドグラスにのせ、顕微鏡でのぞいて多い少ないを評価します。細かいことは略しますが、「有無」ではなく、多い少ないを表現します。
 その結果は以下の円グラフの通りです。
仙川のタヌキの糞組成

 多かったのは種子(19%)、哺乳類(16%)、昆虫(13%)、無脊椎動物(11%)、貝(11%)などでした。種子のほとんどはサクラの種子で、仙川に落ちていたのはヤマザクラのサクランボでした。

仙川に落ちていたヤマザクラのサクランボ

 ただ種子によってヤマザクラとソメイヨシノは区別ができないようです。

サクラ種子 (格子間隔は5mm)

 「哺乳類」としたのは毛で、タヌキの毛と思われるものは微量で、多くはネズミの毛を思われる細く、短いものでした。その割には哺乳類の骨が少ししか出てこなかったのは不思議でした。

哺乳類の毛 (格子間隔は5mm)

 昆虫は甲虫やアリとわかるものもありましが、多くは細かい断片で、識別できませんでした。
 貝としたのは、カタツムリの殻で、これは別の場所ではあまり見かけないものでした。

カタツムリの殻 (格子間隔は5mm) 

<まとめ>
 全体を見ると、動物と植物がほぼ半々で、文字通り雑食性と言えます。ただし、日本のタヌキは果実依存で、ふつうは植物の方が多いので、このことが仙川のタヌキの食性の特徴かもしれません。食物環境としては、植物が貧弱で、川底にナガバヤブマオなどの方か外来雑草が生えている程度ですが、地上に植えられているサクラ、ヤマグワ、ミカンなどの果実が落ちてくるようです。今後も糞が確保できたら、季節変化を追跡したいと思います。

<タヌキがいなくなった>
その後、調査地からタヌキがいなくなりました。どこに行ったのかわかりません何度も糞を探して歩きましたが、見つからなくなりました、残念ながら調査を停止しました。

ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して

2020-11-26 16:03:28 | 研究
ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して
海老原 寛・高槻成紀

伐採、植林、農地化、森林の分断化などの活動はニホンザルの生息地を改変し、その群落利用に影響した。神奈川県厚木市の森林をよく利用する「森林群」と農地をよく利用する「農地群」の群落利用を比較したところ、両群とも秋に落葉広葉樹林と夏に林縁をよく利用し、農地群は森林と農地の林縁をよく利用し、秋・冬には農地群による広葉樹林の利用が増えた。猿にとってオープンな場所は心理的に危険を感じるため両群とも森林をよく利用した。落葉樹林が人工林になり、農耕地には食物が豊富にあるため、サルは林縁を利用するようになったものと思われる。本調査では、従来面積的に狭いため、独立した生息地として認められてこなかった林縁を取り上げたことで、サルの群落利用が一歩深く理解できるようになった。

サル2群の行動圏に占める群落の割合

スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例

2020-11-26 09:48:05 | 研究
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響  —アファンの森と隣接する人工林での観察例—.
高槻成紀・望月亜佑子

人と自然, 32: 99−108 こちら

日本の国土の27%は常緑針葉樹の人工林で占められている。これまで日本の林業は生産性が重視され、森林の生物多様性保全という視点は十分でなかった。本研究では、スギ人工林の間伐が下層植生や訪花昆虫による受粉(ポリネーション)に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。間伐を行うことによって照度、温度が好転した。下層植物のバイオマス指数(被度と高さの積)はスギ人工林に対して間伐1年目は1.7倍、2年目には80倍と大幅に増加した。特に先駆性の低木や、明るいところを好む大型双子葉草本が大幅に増加した。虫媒花植物も増え、ポリネーション数は大きく増加した。ポリネーションはスギ人工林ではまったく観察されなかったが、間伐林では落葉広葉樹林とほぼ同じ程度観察された。本研究はスギ人工林を間伐することで、生物多様性機能が回復することを示した。

位置図


調査地の景観


間伐林とスギ人工林の照度の月変化。間伐によって明るくなった。

間伐林とスギ人工林の湿度の月変化


間伐林とスギ人工林の地表温度の月変化


各群落のバイオマス指数 生育型によるまとめ。間伐2年目で植物量が急に増え、特に低木が大きく増加した。

各群落のバイオマス指数 散布型によるまとめ。間伐により鳥類散布型と動物被食散布型が増えた。

各群落のバイオマス指数 受粉型によるまとめ。間伐により虫媒花が大きく増えた。

各群落における訪花昆虫の数の月変化。スギ人工林では訪花昆虫が全く見られなかったが、間伐林では落葉樹林並みに増えた。


麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布

2020-11-26 08:48:41 | 研究
2020.10.8
麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布
高槻成紀
麻布大学雑誌

私は2007年に麻布大学に移りましたが、2009年にキャンパス内のカキノキにくる鳥が外部から運んできて落とす種子の調査をしました。
 森林の動態は極めて複雑であり、種子散布一つをとっても、多種が重なり合って生育しており、林床に植物や枯葉があるために実際の調査(種子の回収)が困難です。その点、都市緑地では樹木が孤立しており、林床が土か、場合によっては舗装されているので、回収が可能です。注目したのは - 対象として樹木の下にその樹木の種子が落ちるのは当然ですが - 鳥類が持ち込んだ別の樹木の果実も落とされる点です。調べた結果少なくとも37種、7918個の種子が確認され、外部から多様な種子が持ち込まれていることがわかりました。

センダンの果実を食べるヒヨドリ

表1 麻布大学のカキノキに鳥類によって運び込まれた種子または核。回収期間は2009年11月、12月。