高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

最近の論文(2023-)

2023-05-23 07:44:26 | 最近の論文など
Takatsuki, S. and K. Kobayashi. 2023.
Seasonal changes in the diet of urban raccoon dogs in Saitama, eastern Japan.
埼玉の市街地のタヌキの食性の季節変化
Mammal Study, in press
埼玉県の都市部の高校で、タヌキの食性を調査した。調査地は住宅地に囲まれているが、池に隣接している。2022年1月から12月にかけて糞サンプル(n = 126)を採取し、ポイント枠法を用いて分析した。糞の組成は、冬は葉、果実、種子、人工物など多様であった。春はニホンヒキガエルと昆虫の割合が増加し、夏はエノキの果実、昆虫、アメリカザリガニの割合が増加した。秋には、エノキとムクノキの果実が優勢になった。ヒキガエルやザリガニわ食べていたことから、タヌキは日和見的な摂食をすることが示唆された。種子は10種、果実は5種の野生植物からしか回収されなかったが、これは関東地方の里山でキイチゴ、クワ、ヒサカキなどがしばしば大量に検出された既往論文よりも低い数値であった。また、さまざまな人工物が検出されたが、その量は少なかった。これらの結果は、樹木が少なく、池に隣接する市街地という調査地の特徴を反映していた。

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫. 2023.
玉川上水の植生状態と鳥類群集
山階鳥学誌,55: 1‒24.
玉川上水は東京の市街地を流れる水路で,その緑地は貴重である。玉川上水の樹林管理は場 所ごとに違いがある。本調査は 2021 年に玉川上水の樹林管理が異なる 4 カ所(小平,小金井, 三鷹,杉並)で鳥類の種ごとの個体数の調査(7 回)と樹林調査(18 地点)を実施した。鳥類 群集は上水沿いの樹林帯と周辺の樹林も豊富な三鷹と小平で豊富であった。緑地が両側を交通 量の多い大型道路に挟まれた杉並では,鳥類の種数と個体数が少なかったが,オナガ ,ハシブトガラス,ドバトは比較的多かった。サ クラ以外の樹木を皆伐した小金井では,近くに広い小金井公園があるにもかかわらず,鳥類群 集は最も貧弱であった。とくに森林性の鳥類が少なく,都市環境でも生息するムクドリ ,スズメなどがやや多いに過ぎなかった。玉川上水での鳥類群 集の季節変化は都心の皇居や赤坂御所などと共通しており,夏にヒヨドリや他の森林性鳥類は減少した。これらの結果は,玉川上水の鳥類群集が植生管理の影響を強く 受ける可能性を示唆する。今後の玉川上水の植生管理においてはこのような生物多様性の視点 を配慮することが重要であることを指摘した。

大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 
玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. 
Strix, 39: 25-48.
玉川上水は東京を流れる水路で鳥類の生息地となっている.その開渠状態の東端の久我山に 2019 年 6 月に放射 5 号線が開通した.これを挟む 2017 年から 2022 年までの 6 年間ラインセンサスで鳥類の種数 と個体数を記録したところ,種数は開通前の 86%,個体数は 57% に減少した.とくに多かったのはヒヨドリ, スズメ,ムクドリなどであった.開通後はヒヨドリ,ムクドリ,ハシブトガラス,スズメは減少したが,ド バトとメジロは 50% 程度増加した.隣接する三鷹地区と井の頭公園では,エナガ,メジロなど樹林性の鳥 類が久我山より多かったが,ムクドリ,スズメ,ドバトなどは久我山の方が多かった.このことは 2019 年 の道路開通が久我山の鳥類の減少をもたらしたことを示唆する.

高槻成紀. 2023.
都市孤立樹木の結実パターンと鳥類による種子散布:舗装を利用した種子回収の試み
保全生態学研究、印刷中
都市緑地の生物多様性にとって鳥類による種子散布は重要であるが、都市での方法上の制約のため調査が進ん でいない。本調査では市街地の孤立木の樹下の舗装した地表面を利用することで、森林では困難な種子回収を試みた。 2020 年の 12 月から 2021 年の 3 月上旬まで、東京都の小平市でセンダン、ハゼノキ、トウネズミモチ、クロガネモチ の 4 本の樹木について、鳥類によって搬入された可能性のある種子を回収し、結実と種子の落下時期、鳥類による果 実の利用時期、対象とした樹木の外部からの搬入などを調査した。果実と種子の落下時期はトウネズミモチとハゼノ キは同調したが、センダンでは果実よりも種子の落下のピークが 2 週間、クロガネモチでは 1 カ月遅れ、鳥類の好み などに関係する可能性が示された。樹冠以外の種子の種数は 11 種から 29 種(不明種を除く)であり、樹下で回収さ れた種子数の延べ数はハゼノキ、トウネズミモチ、クロガネモチの 3 種では約 900-1300 個 /m2 と多かったが、センダ ンでは約 30 個 /m2 と少なかった。樹冠以外の種子数の割合はセンダンは 47.7%と大きかったが、センダン以外は 20% 以下と小さく、センダン樹冠下では高木種の種子が過半数であったが、ハゼノキとトウネズミモチの樹冠下では低木 種が最も多く、クロガネモチ樹冠下では高木、低木、つる植物の順で多様であった。回収された果実の大半は短径が 10 mm 以下で、ヒヨドリの嘴幅(15.4 mm)より小さく、それより大きいのはカラスウリとスズメウリだけであった。

Takatsuki, S., E. Hosoi and H. Tado. 2023. 
Food or rut: contrasting seasonal patterns in fat deposition between males and females of northern and southern sika deer populations in Japan. 
色気か食い気か−日本の南北のニホンジカにおけるオス、メスの脂肪蓄積の対照的な季節パターン
Mammalia, 2023aop. 
https://doi.org/10.1515/mammalia-2022-0092

Takatsuki, S., Purevdorj Y, Bat-Oyun T, Morinaga Y. 2023. 
Responses of plants protected by grazing-proof fences based on the growth form in north-central Mongolia.
モンゴル中北部における放牧圧排除柵内の植物の反応−生育形に注目して.
草原管理はモンゴルにとって重要である。放牧が草原に及ぼす影響を、生育型(Gimingham, 1951)に着目して評価するために、モンゴル中北部のブルガン・アイマグのモゴド・ソムにおいてオルホン川の川辺、平坦地、丘に2013年4月に柵を設置し、同年8月に柵内外の植物と植物群落を比較した。その結果、川辺はもともと多湿であるから植物生産性が高く、家畜がよく利用してCarex duriusculaが優占していたが、柵を作ると柵内でTt(大型叢生型)が高さを回復した。平坦地ではStipa krylovii, Leymus chinensis, Cleistogenes squarrosa, C. duriusuculaなどが生育しており、多様性は高かったが、柵内でTt, Er(直立型), Br(分枝型)などが回復した。丘ではもともとErが多かったが柵設置後もErが回復した。この調査により放牧の影響を生育型で評価するのは有効であること、同時に嗜好性も重要であることが示された。
Human and Nature, 33: 39-47.
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最近の論文 (2020-2022) | トップ | 秩父大山沢のシカの食性 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

最近の論文など」カテゴリの最新記事