2013.11.15
もうすぐですが、2013年11月25日に小著「北に生きるシカたち –- シカ、ササそして雪をめぐる生態学」(1992, どうぶつ社)が約20年ぶりに丸善出版から復刻出版されることになりました。以下、復刻版の「あとがき」の抜粋です。
この本は私の処女作であり、仙台にいて研究者としてスタートし、岩手県の五葉山でシカとササの調査をした三十代の記録として書いたものである。・・・私は ―当時もそうなのだが―シカだけを研究しているつもりはない。むしろシカという研究対象をきっかけに、生物のつながりを知りたいと思ってきた。・・・その過程でいつも思ってきたのは、野外で動植物をよく観察し、自分の目で現象を見つけ、そのことを示すために徹底的にデータをとるということだった。そのような研究スタイルは・・・三十代の五葉山での調査体験で培われたものだった。・・・いま読み直しても、あの五葉山の寒気の中での調査の感覚がリアルに蘇るのを覚える。それはその後の私の研究の血肉になっている。・・・この本はすぐに売り切れた。売り切れたあと、たくさんの人から「あの本が手に入らないので、分けてください」と言われたが、私の手元にもなかったのでお断りするしかなく、ずっと心苦しい思いをしてきた。この復刻でそうした心苦しさから解放されるのはうれしいことだ。本書を手にすることができなかった人、とくに若い世代には、野外調査を進めるとはどういうことか、研究成果が得られるまでに研究者は何を考え、どうフィールドを作りあげ、壁にぶつかったときそれをどう乗り越えるのかといった点を読んでもらいたいと思う。
記
書名「北に生きるシカたち」(1992, どうぶつ社)2013復刻, 丸善出版
著者 高槻成紀(たかつき・せいき)
頒価 本体2400円+税
2013.10.18
10月18日に岩波ジュニア新書から「動物を守りたい君へ」という本が出版されました。
私は2006年に同じ岩波ジュニア新書から「野生動物と共存できるか」という本を出しました。わりあいよく読まれて、現在6刷となり、この種の本としてはよく売れているということで、ありがたいことです。それに、この本の私の文章が2つの中学生の国語の教科書に採用されました。まことに夢のようなことで、子供が好きだった私の父が生きていればどんなにか喜んでくれたかと思います。
私も孫に恵まれて(5人もいます!)、その将来を思うとき、日本人と自然との距離が遠くなることを心配しないではいられません。そういう思いと、麻布大学に移って学生とともにシカ以外の動物を調べるようになり、自分の知りたかったこと、示したかったことは生き物のつながりにあったのだと気づきました。そういう思いを含めて、若い世代に動物を守ることの意味を考えてもらいたいと思いながら書きました。
今回は野生動物だけでなく、ペットと家畜のことも書きました。捨てられる犬のことや、毎日食べている魚や肉を動物の体の一部だと感じることがむずかしい時代になっていることへの懸念からです。もちろん動植物を調べることの喜びや体験についても書きました。そして最後の部分で東日本大震災のことをとりあげ、太平洋戦争後、日本人が自然に対して傲慢になったことの結果があの原発事故であり、再稼働など絶対してはいけないという私の考えを書きました。ご一読いただき、このブログに感想をお寄せいただければ幸いです。
「動物を守りたい君へ」の目次
序章 動物と私たちのかかわり
1章 ペットとどうつきあうか
1 ペットと人間の価値観、2 ペットの運命、3 ペットとの関係、4 外来種としてのペット
2章 家畜をどうみるか
1 動物を食べるということ、2 家畜の生活、3 家畜のこれから
3章 野生動物をどう調べるか
1 観察・調査の重要性、2 フクロウと森林伐採、3 鼻つまみ者の偉大な働き、4 花と虫のリンクと過放牧、5 絶滅種タヒの復活
4章 野生動物をどう守るか
1 二つの絶滅、2 なぜ猛獣が絶滅するか、3 君にもトキは守れる、4 つながりをこそ守る
5章 動植物とともに生きるために
1 東日本大震災と動物、2 人間だけのためではない、3 動物と地球のほうから考えよう
定価は840円+税金です。
2013.10.5
加古さんと(四年)乙女高原で刈り取り効果の評価をする調査に行きました。すでに秋に装いでした。よいデータがとれました。
リンドウ
ヤマラッキョウ
ヤマボウシ
2013.9.28-29
アファンの森で萩原さん(4年)のクルミの調査の指導と、望月さん(3年)の間伐林の調査、「ひっつき虫」の調査、岩田さん(3年)のためのタヌキの糞の採集などをしてきました。
ひっつき虫の調査
間伐林の調査
9月21,22日 八ヶ岳でヤマネの巣箱調査をしました。5月に焼く100個の巣箱を設置したので、それのチェックに行きました。先週の台風ですごい雨が降ったらしく、沢を横切る林道に石や砂が大量に流れたあとがあったし、木の枝なども大量に流れたようです。巣箱は高さの違いをみるために、地上50cmくらいと1.2mくらいに起きましたが、あきらかに上のほうがよく使われており、上だけをみるとなんと60%以上の利用率でした。
これまでの研究で巣材がコケだけならヤマネ、枯れ葉が使われていたらヒメネズミだということですが、ほとんどコケだけど少しだけ枯れ葉が入っているものもあり、自信がないものもありました。今回初めて見たのはサルオガセを巣材にしていた例です。
サルオガセは地衣類で、このあたりのコメツガやカラマツの枝についていました。
ひとつの巣箱のふたを開けたとき、ヒメネズミが飛び出してびっくりしました。一度ですが、シカを見ました。声はよく聞きました。タヌキのため糞、テンの糞を見ました。テンの糞はサルナシだらけでした。調査は順調で、たくさんの巣材が回収できました。
この中にカヤネズミの糞があるはずなので、それを検出して分析します。
2013.83-6 群馬県の神津牧場で3年生の実習をしてきました。牧場で家畜の実習をするというのは別にあるのですが、この牧場は実は野生動物の実習にも適しているのです。今や全国的なことですが、牧場にはシカが入り込みます。それにタヌキやアナグマ、キツネなどもいるし、もちろん鳥類はたくさんいます。コウモリ、サンショウウオなども見られます。それに牧場自体がこうした野外観察の意味をよく理解しておられるので、受け入れ態勢としてもありがたいです。そういうわけでこの3年、お世話になっています。
今年は糞虫の調査と、シャーマントラップというネズミ類を生け捕りにするワナ、自動撮影カメラなどをするとともに、群落調査のてほどき、電波発信器の使いかた、ウシの行動観察などをおこないました。
シャーマントラップにはアカネズミがけっこうかかり、学生は大いにもりあがっていました。私も久しぶりにミヤマクワガタをみつけてよろこびました。<高槻 記>
シャーマントラップに入ったアカネズミをトラップからポリ袋に移す
アカネズミの体重測定
発信器をもった学生の位置を確認する
ミヤマクワガタ
2013.6.21-30 マレーシアに行ってきました。かつて指導したAhimsa Campos-Arceizさんがいまマレーシアのノッチンガム大学クアラルンプール校の准教授としてアジアゾウの研究をしています。そのプロジェクトに研究室の山本詩織さん(修士2年)が糞分析をすることで参加しています。試料の持ち出しができないので、現地で糞を採集し、分析するために訪問しています。私はワンポイント・アドバイスに行ってきました。
タイ国境に近い国立公園の近くにフィールドステーションがあり、そこを基地に現地調査をしました。40年ほど前に人造湖ができ、船で移動します。
ゾウがよく訪れる塩場があるので、そこに自動カメラをおいてすばらしい映像を見せてもらいました。糞を集めるのも、そういうところが効率的なので訪問しました。
ゾウの糞をみつけてよろこぶ山本さんと高槻
現地では地元の小さな集落にとまりました。
子供と犬
調査にはマレーシアはもちろんですが、イギリス、スウェーデン、スペインの若者も参加して、国際的でした。
大きな板根の前で記念撮影
基地はなかなかきれいなアパートを借りたもので、山本さんは顕微鏡で分析をしていました。
分析する山本さん
2013.6.12 アファンの森に行ってきました。どんどん緑が濃くなっています。今回はオニグルミの若木の母樹からの位置を調べました。
オニグルミの若木と萩原さん
6月9日 八ヶ岳のフクロウの巣の調査に行きました。ここでは地元の八ヶ岳自然クラブの人たちが2004年からフクロウの人口巣をかけて、巣立ちのようすなどを記録しておられます。4年生の落合さんが昨年から巣に残されたネズミ類の骨の分析をしており、今年も最近巣立ったので巣材を送ってもらいました。落合さんは巣の利用率の違いに影響する環境分析もしたいと考えており、巣をかけた場所を見に行くことにしました。地元の木村さんと村上さんに同行していただくことができました。3年の銭野君、今年度から信州大学の大学院に進学した鏡内君も参加してくれました。
後列 銭野、鏡内、木村
前列 高槻、落合、村上
2013.5.26 丹沢の丹沢山東にある塩水沢に行ってきました。シカの糞を探しにいったのですが、シカによる植物への影響の強さに驚きました。ほとんどの場所はシカの食べない植物で被われていました。道ばたにはテンニンソウが多く、そのなかにオオバアサガラ、ナガバヤブマオ、テンナンショウ類、アセビなどがめだちます。林にはオオバアサガラとマルバダケブキが目立ちました。調査をしていたらヤマビルが近づいてきました。
塩水沢から尾根をのぞむ
堂平したのスギ林。林床にはテンニンソウが優占する。
道ばたにもテンニンソウが多い。
ガクウツギ
タニギキョウ
クワガタソウ
ヤマビル
2013.5.14,15 八ヶ岳でヤマネの巣箱かけをしてきました。乙女高原と続けてですが、快晴に恵まれて、八ヶ岳が実にきれいにみえました。ヤマネの巣箱を87個かけてきました。野辺山のあたりですが、シカの痕跡が多く、植生も強い影響を受けています。
これまでにも巣箱をかけた沢
孤立した木よりも低木などが多いほうが利用率が高いようでした
巣箱は横に入り口があり、鳥が入らない工夫がしてあります
巣箱を前にして
5月12, 13日 乙女高原に行きました。
12日は地元の多くの人が集まって遊歩道作りをしました。いわば「山開き」です。私たちは6月から始める草原刈り取り実験のプロット作りをしました。これとは別に1m四方で高さ2m足らずの柵を作ってシカの影響を排除しました。
13日には訪花昆虫の調査をしました。2日とも初夏のような快晴で、夏には霧がかかったりする場所ですが、空気が澄んで遠くまでくっきり見渡せました。標高1700mなので、まだ植物は限られていましたが、スミレ類、ミツバツチグリ、フデリンドウ、ヒメイチゲなどが咲いていました。
プロットを作る
柵を作って記念撮影
記録をとる
ミツバツチグリ
フデリンドウ
サクラスミレ
サンリンソウ
ヒメイチゲ
2013.4.28, 29 アファンに行きました。リヴァルスさんも誘いました。まだ木の芽は開いておらず、東京よりは1ヶ月遅い感じです。
3年生の望月さんは森林に興味をもっているので、埋土種子を調べることにしました。
湿地にはリュウキンカ群落があり、みごとな花を咲かせていました。
ゲストハウス(山小屋)に泊まり、朝ご飯を食べて
春の花たちです。
キクザキイチリンソウとアズマイチゲ
ニリンソウ群落とアオイスミレ
マメザクラとハシリドコロ
ショウジョウバカマ
2013.4.21, 22 浅間山に行きました。ある学生が植物の調査をするというので、「早いんでないの」といいましたが、予定しているというので行きました。21日に院生がシカとカモシカの頭数調査を予定していたので、それにあわせたようです。新幹線がトンネルを抜けて軽井沢に出ると銀世界。かなりの雪がつもっていました。
それでも2時半くらいには青空が見えて、調査はできたようです。でも植物のほうはまったく無理でした。スペインから来たリヴァルスさんをつれて行きました。ササをめずらしがっていました。
4月15日 発芽実験のためのビニールハウスを建てました。
2013.4.13, 14 今シーズン最初のアファン調査に行きました。おもな目的は異なる群落での土壌に含まれる種子を比較するための実験を始めるためです。まだ植物を見るには早いのはわかっていたのですが、この目的にはいい季節でした。まだ雪が残っていましたが、最初に林に入るとアズマイチゲが歓迎してくれました。4年生の萩原さんはクルミを利用するリスとネズミの比較をするため、枝の束の下を調べました。埋土種子の調査は3年生の望月さんのテーマです。もうひとりの3年生岩田さんはタヌキの種子散布を調べます。
発芽実験のプランター
2013.3.28 八王子市にある森林科学園に行って来ました。4年生の安本さんがテンによる種子散布を調べていて、糞からよく出て来るサルナシの発芽実験をさせてもらうために、プランターを置かせてもらうことにしました。ここにはリスの研究で有名な田村典子先生がおられるので、いろいろお話を聞くことができました。林にはカタクリやスミレが花盛りで、ほかにもコミヤマカタバミやユリワサビなどもあり、高槻は大喜びでした。それから早くもミミガタテンナンショウが咲いていました。
プランターは明るい場所と暗い場所に起きました。これは暗い方です。3月28日 八王子市にある森林科学園に行って来ました。4年生の安本さんがテンによる種子散布を調べていて、糞からよく出て来るサルナシの発芽実験をさせてもらうために、プランターを置かせてもらうことにしました。ここにはリスの研究で有名な田村典子先生がおられるので、いろいろお話を聞くことができました。林にはカタクリやスミレが花盛りで、ほかにもコミヤマカタバミやユリワサビなどもあり、高槻は大喜びでした。それから早くもミミガタテンナンショウが咲いていました。
プランターは明るい場所と暗い場所に起きました。これは暗い方です。
2013.3.20
3月17日から恒例の金華山のシカ調査に行って来ました。意外に暖かく、山を歩いていて汗をかくほどでした。麻布大学がおもでしたが、東北大学、山形大学、信州大学、北里大学などの大学、そのほかの参加者もありにぎやかでした。この冬は寒かったので、シカが死んでいるのではないかという声もありましたが、実際にはいつもより雪もなく、死体は少なかったです。
シカの個体数調査のために山を登り、尾根でパチリ
2012年の死体
2013.3.15
麻布大学では卒業式がありました。私たちの学生時代は大学紛争で荒れていましたから私は卒業式に出た記憶はありません。式そのものがなかったかもしれません。ですから今の学生が晴れやかに着飾ってうれしそうに式に集まるのがまぶしいような気持ちがあります。とくに麻布大学は女子学生が多いので、「卒業式ファッション」がにぎやかです。私自身は地味目にスーツや軽いフォーマルな洋服を着て来た人に好感を持ちました。着物では矢絣がなかなかいいものだと思いました。
式典は学生数が多いのに同じような授賞がくり返され、学生のことばなどまったくないので、みんな退屈していたと思います。なんとか演出をしたらいいのにと思いました。
それに比べれば、研究室にもどっての送別会は心のこもったもので、とても楽しかったです。在学生がこころを込めて部屋を飾り、料理をし、サプライズのプレゼントがあったりと、毎日を共有した仲間ですから、いい雰囲気でした。
これでまた一年に区切りをつけ、新しい年度を迎えることになります。
大学院二年生
四年生
高槻と大貫さん(シカの角で卒論を書いた)
2013.3.13
黒姫のアファンの森で今年度の報告会がおこなわれました。京大の農学部の竹内先生、森林総合研究所の藤森先生もおられました。動植物の生息を主とした調査をしている人からの報告のあと、麻布大学から報告しました。高槻が全体の紹介をしたのに続けて、三年生の笹尾さん、萩原さん、小森君、4年生の佐野さんと池田さん(高槻が代行)、修士の嶋本さんが発表しました。私は三年生の発表は少し心配があったのですが、とてもよく準備されており、皆さんからわかりやすかった、今後が楽しみだと評価してもらいました。ニコルさんはよく「原稿をよむだけではプレゼンとはいえない. Talk to people!」と人前で話すことの達人としてきびしいコメントをしますが、今年に限ってたいへんほめてくれました。それから毎年「ありがとう」というのに、今年は「高槻先生、おめでとう」といわれ、ちょっとどう返事をしていいかわからないような感じでした。よい調査ができるようになっておめでとうという意味なのかもしれず、そうであればうれしいことです。生物学とはなじみのない人からも「いろいろ調べることがあるんですね」とか「ふつうの生き物でもあんなに深いことが調べられるのですね」などという声を聞きました。
昼間は汗をかくほどの陽気でしたが、夜には雪になりました。ニコルさんの手になる鹿肉料理がとてもおいしかったです。それから2万年前の南極の氷でオンザロックを飲みました。ウイスキーの味のわからない私がいただくのはもったいないことでしたが、プチプチと聞こえる気泡がはじける音は不思議な響きで「これが2万年閉じ込められていたのか」と感慨がありました。
14日には松木さんに会って昔話を聞きました。
2013.3.7
静岡で日本生態学会が開催されており、その中で私は2つの集まりに参加しました。まず「過剰なシカの生態系への影響とそのシカ自身への反応」についてのシンポジウムで農工大の梶先生が組織されました。北海道の中ノ島、東北の金華山、日光、房総の4集団の比較がおこなわれ、これを受けて北大の近藤先生が家畜の栄養生理学の視点からコメントされ、最後にカナダのJ. Cote博士からオジロジカでの事例紹介がありました。私は場所ごとに相当事情が違うのではないかと予想していましたが、むしろ驚くほど似ていました。ただし房総はやはり冬が寒くないという点で大きく違うようでしたが。ひとつの感慨は、私は若い頃、日本人同士が英語で会話をしないといけないのがどうにも恥ずかしくて苦手だったのですが、今やそれはまったくなくなったようだということです。でも英会話が未訓練で質問がまったく意味がわからない人がいてちょっと気まずさが漂いました。日本語で聞いてくれれば、質問そのものを紹介しながら返事もできるので、英語が苦手な人はそうしたほうがいいと思います。それならだれにも迷惑がかかりません。質問も返事もわからないとだれもが困ります。
もうひとつ参加したのは哺乳類による種子散布についての自由集会です。若手のすばらしい野外調査をしている4人が研究紹介をしてくれました。私は年寄りとしてコメントをするように頼まれたので、ちょっと工夫をしました。最初に会場に質問をしたのです。「今から3つの質問をします。この会場に来た理由を1)動物の採食生態関連で興味がある、2)植物の繁殖成功の局面として、3)森林生態における哺乳類の役割として。では聞きますよ、1)の人?」みたいな感じです。おもしろいことにほぼ同数でした。このこと自体がたいへんおもしろかったです。それから一応4人を賞賛しました。でもこれは社交辞令なし、本当に圧倒される内容だったからです。辻さんは実は私の指導学生で、長年調べないといけないこと、動物の社会関係が散布する果実の種類に影響するという質の高い内容を目指したものだったので、私は「自分の首をしめている」とちょっとスパイスをきかせました。京大の佐藤さんはマダガスカルのキツネザルの行動と種子散布を、極端な季節変化を巧みにとりこんだ見事に解析していました。そういうクレバーさもさることながら、朝6時から12時間、1分ごとに行動を記録するという根気づよい野外調査にも裏打ちされた研究のたいへんさを想像すべきことを指摘しました。京大の中島さんはパームシベットが指向性散布をすることを、これまた徹底した悉皆調査によって分布の局在性を示すとともに、糞場には別個体が共有することをミトコンドリアDNAを利用することで示したそうです。最後に農工大の小池さんがクマの種子散布を飼育クマの糞に種子を埋めて野外実験したり、糞虫による二次散布まで解明した研究成果を紹介しました。みんなすごいなあと思いながら私が共通項として感じたこととして言ったのは「森林の空間的時間的多様性は会場におられる正木さんが示したとおり。動物の動きのとらえどころのないのは会場におられる福井さんが示したとおり。だから私は動物による種子散布などというむずかしいことは強い関心を持ちながらおそろしくて手を出さなかった。こういうことをするのは無謀である(笑)。しかし、今日の発表者のように問題点を明確にし、妥協しない野外調査をすれば、自然界で起きていることの一部がたぶんまちがいないだろうというところまでは言えるようだという大きな可能性を感じた。」という意味のことでした。
発表者たちがいずれも現在進行形で1年に何本も国際誌に論文を書いていることも、ただがんばっているだけではないことを示しており、聞きに来た多くの若者は刺激を受けたと思います。
2013.3.2
青山学院大学でアファンの森財団の10周年記念シンポジウムがありました。さすがに伝統のあるすてきなキャンパスでした。ニコルさんは基調講演でどういう思いでアファンの森に取り組んできたかということと、いま取り組んでいる東松島の森の学校への思いを話してくれました。私にとって印象的だったのは、「日本は迷子になっている」ということばでした。いろいろな意味があると思います。少なくとも自然に対してあまりにもひどいことをしてきたことを見直そうということはあると思いますが、それはこれまでも彼が訴えてきたことです。私は安倍内閣が原発を継続しようとしていることへの警告と感じました。
司会の野口さんが松木さんにアファンの森についてひとこと求めたのに対して松木さんが答えました。
「一本、一本立っているのが木、同じ大きさの木があるのが林。でも森はいろんな大きさの木がないといけない。そこにはいろんな生き物がすめるようにする、それが大事なんだ」。
そのあとニコルさんと松木さんが想い出などを語りました。それからフクロウやノスリなどを調べて来た川崎公夫さんがスライドを使っておもに鳥の話をされました。それを受けて私は3つの話をしました。まずフクロウの食べ物を分析した結果を話しました。森にすむネズミと草地にすむネズミが年によって増えたり減ったりしていたこと。だから森の管理がネズミに影響し、それがフクロウの食事に影響しているというつながりがあるということです。それから自動撮影カメラでとれた哺乳類を紹介しました。カメラには松木さんも写ったので「絶滅危惧種」として紹介しました(けっこう受けました)。カメラは糞をするタヌキも捕らえていたので、タヌキの糞の話をし、たしかに動物がいて糞をするのに糞をみないのはどういうわけか?という問いかけをして、糞トラップの結果と、糞虫の分解力のすごさを紹介しました。人にたとえれば建物ほどもある巨大な糞を1日で分解などできるだろうか?というクエスチョンに、糞虫のイラストで「Yes, we can」と吹き出しをつけたら、大いに受けていました。それから明るい群落を作ると花が咲き、昆虫が訪れる生き物のつながりがよみがえるという話をしました。この3つの話に共通なのは「みんなつながっているんだ」ということです。
そのあと第2部で東日本大震災の復興に取り組む皆さんの出番となりました。気仙沼でカキの養殖をする畠山信(まこと)さんがいまの気仙沼の紹介をしました。あの重篤さんの息子さんで、ニコルさんの教え子でもあります。宮城大学の風見先生が森の学校のビジョンを語られましたが、論理の明快さと熱い思いがつまったすばらしいトークでした。最後のことばが「つながり」で、私は生き物どうしのの、風見先生は人と人、人と自然のつながりでしたが、図らずも一致していて感銘を受けました。私は、多くの人があの震災で、戦後物ごとを単純化し、「合理的」とか「科学的」とかいいながら物ごとを分析してきたことの過ちに気づいたのだと思っています。ばらしていたものをつながないといけない。私たちは今こそ、同じように存在していても、つながっていなければ本当のあることにならないのだということに気づかないといけないと思います。
2013.2.23
大阪で「シカと森と人の葛藤」というシンポジウムがあり、招待されて発表してきました。会場は満席で関心の高さを感じました。信州大学の滝井暁子さんもシカの移動の話をしてくれましたが、二次会で話をしたら、私が東北大学にいたときに彼女が高校生で大学を選ぶのに私に電話で相談したのだそうです。かすかに記憶にありますが、私はそのとき東大に異動することが決まっているので、東北大では受け入れられないと返事をしたそうです。
2月14, 15日
修士論文発表会がありました。以下の4人が立派な発表をしてくれました。ごくろうさまでした。
八木 愛 里山におけるニホンアカガエルとトウキョウダルマガエルの資源利用の比較
嶋本祐子 アファンの森の森林管理が送粉系に及ぼす影響
海老原 寛 農地を利用するようになったニホンザルの行動圏利用
大津綾乃 野生馬(タヒ)を復帰させたモンゴル・フスタイ国立公園におけるタヒとアカシカの種間関係と森林の保全
2013.2.2
4年生の高橋君が「乙女フォーラム」で卒論の内容を発表しました。高橋君は環境生命学部の学生ですが、卒業研究をうちの研究室ですることになり、地元である山梨で調査をすることにしました。わかりやすいよい発表でした。
2月1日
東北大学で同級生で仲のよかった友人がいます。山形大学理学部で植物生態学の研究者で、辻村東國氏です。最終講義ということで山形に行って来ました。磐梯山に永久プロットをとって30年間追跡したすばらしい研究の話で、感銘を受けました。
2013.1.13
アファンの森に行きました。去年のサラサラ雪のイメージがあったので長靴だけで大丈夫と思ったのがまちがいで、湿った雪が50cmくらいつもっていたのでたいへんでした。一歩あるけばズボっと沈みます。次に進むにはその沈んだ足をえいやっと引き抜くので、一歩一歩が力仕事です。ふだん10分で行けるところに30分くらいかかりました。自動撮影カメラを回収するために斜面を登るときは一汗かいてしまいました。
2013.1.11
明治大学で講義をしてきました。その共通テーマがなんと「人権」。そのなかで生物多様性の話をしてほしいということだったので、お引き受けしましたが、文系の学生さんなのでどのくらい伝わったかわかりません。
2013年1月5日
明けましておめでとうございます。
「ニュートン」はおもしろそうな論文などを紹介するFocusというコーナーをもっていて、今回はジャイアントパンダの生息が危機であるという予測をした論文(Nature Clomate Changeという論文に掲載)を紹介しました(2013年2月号)。高槻は若いころWWFの研究員としてパンダの生息地で3ヶ月くらい調査をしたことがあり、そのこともあって取材を受けました。正直なことをいうとこの論文は問題があると思いました。ササの分布を引用し、気象データとの対応を調べ、気候が変化するとササが生育できなくなり、パンダが危ないのではないかというわけです。可能性としてはなんでもいえるわけですが、どれだけ確からしいか検証されていません。どういう情報が引用されているか調べてみましたが、いずれも現地調査にもとずいた証拠はなさそうでした。気候変動は確かだろうし、世界でそこにしかいない生息地にササがあって、パンダはササ食に特化している、こういう条件に目をつけて話題をよびそうな論文を書いたという感じでした。コメントを求められたのでモデル研究と野外調査のバランスが大切だといっておきました。
もうすぐですが、2013年11月25日に小著「北に生きるシカたち –- シカ、ササそして雪をめぐる生態学」(1992, どうぶつ社)が約20年ぶりに丸善出版から復刻出版されることになりました。以下、復刻版の「あとがき」の抜粋です。
この本は私の処女作であり、仙台にいて研究者としてスタートし、岩手県の五葉山でシカとササの調査をした三十代の記録として書いたものである。・・・私は ―当時もそうなのだが―シカだけを研究しているつもりはない。むしろシカという研究対象をきっかけに、生物のつながりを知りたいと思ってきた。・・・その過程でいつも思ってきたのは、野外で動植物をよく観察し、自分の目で現象を見つけ、そのことを示すために徹底的にデータをとるということだった。そのような研究スタイルは・・・三十代の五葉山での調査体験で培われたものだった。・・・いま読み直しても、あの五葉山の寒気の中での調査の感覚がリアルに蘇るのを覚える。それはその後の私の研究の血肉になっている。・・・この本はすぐに売り切れた。売り切れたあと、たくさんの人から「あの本が手に入らないので、分けてください」と言われたが、私の手元にもなかったのでお断りするしかなく、ずっと心苦しい思いをしてきた。この復刻でそうした心苦しさから解放されるのはうれしいことだ。本書を手にすることができなかった人、とくに若い世代には、野外調査を進めるとはどういうことか、研究成果が得られるまでに研究者は何を考え、どうフィールドを作りあげ、壁にぶつかったときそれをどう乗り越えるのかといった点を読んでもらいたいと思う。
記
書名「北に生きるシカたち」(1992, どうぶつ社)2013復刻, 丸善出版
著者 高槻成紀(たかつき・せいき)
頒価 本体2400円+税
2013.10.18
10月18日に岩波ジュニア新書から「動物を守りたい君へ」という本が出版されました。
私は2006年に同じ岩波ジュニア新書から「野生動物と共存できるか」という本を出しました。わりあいよく読まれて、現在6刷となり、この種の本としてはよく売れているということで、ありがたいことです。それに、この本の私の文章が2つの中学生の国語の教科書に採用されました。まことに夢のようなことで、子供が好きだった私の父が生きていればどんなにか喜んでくれたかと思います。
私も孫に恵まれて(5人もいます!)、その将来を思うとき、日本人と自然との距離が遠くなることを心配しないではいられません。そういう思いと、麻布大学に移って学生とともにシカ以外の動物を調べるようになり、自分の知りたかったこと、示したかったことは生き物のつながりにあったのだと気づきました。そういう思いを含めて、若い世代に動物を守ることの意味を考えてもらいたいと思いながら書きました。
今回は野生動物だけでなく、ペットと家畜のことも書きました。捨てられる犬のことや、毎日食べている魚や肉を動物の体の一部だと感じることがむずかしい時代になっていることへの懸念からです。もちろん動植物を調べることの喜びや体験についても書きました。そして最後の部分で東日本大震災のことをとりあげ、太平洋戦争後、日本人が自然に対して傲慢になったことの結果があの原発事故であり、再稼働など絶対してはいけないという私の考えを書きました。ご一読いただき、このブログに感想をお寄せいただければ幸いです。
「動物を守りたい君へ」の目次
序章 動物と私たちのかかわり
1章 ペットとどうつきあうか
1 ペットと人間の価値観、2 ペットの運命、3 ペットとの関係、4 外来種としてのペット
2章 家畜をどうみるか
1 動物を食べるということ、2 家畜の生活、3 家畜のこれから
3章 野生動物をどう調べるか
1 観察・調査の重要性、2 フクロウと森林伐採、3 鼻つまみ者の偉大な働き、4 花と虫のリンクと過放牧、5 絶滅種タヒの復活
4章 野生動物をどう守るか
1 二つの絶滅、2 なぜ猛獣が絶滅するか、3 君にもトキは守れる、4 つながりをこそ守る
5章 動植物とともに生きるために
1 東日本大震災と動物、2 人間だけのためではない、3 動物と地球のほうから考えよう
定価は840円+税金です。
2013.10.5
加古さんと(四年)乙女高原で刈り取り効果の評価をする調査に行きました。すでに秋に装いでした。よいデータがとれました。
リンドウ
ヤマラッキョウ
ヤマボウシ
2013.9.28-29
アファンの森で萩原さん(4年)のクルミの調査の指導と、望月さん(3年)の間伐林の調査、「ひっつき虫」の調査、岩田さん(3年)のためのタヌキの糞の採集などをしてきました。
ひっつき虫の調査
間伐林の調査
9月21,22日 八ヶ岳でヤマネの巣箱調査をしました。5月に焼く100個の巣箱を設置したので、それのチェックに行きました。先週の台風ですごい雨が降ったらしく、沢を横切る林道に石や砂が大量に流れたあとがあったし、木の枝なども大量に流れたようです。巣箱は高さの違いをみるために、地上50cmくらいと1.2mくらいに起きましたが、あきらかに上のほうがよく使われており、上だけをみるとなんと60%以上の利用率でした。
これまでの研究で巣材がコケだけならヤマネ、枯れ葉が使われていたらヒメネズミだということですが、ほとんどコケだけど少しだけ枯れ葉が入っているものもあり、自信がないものもありました。今回初めて見たのはサルオガセを巣材にしていた例です。
サルオガセは地衣類で、このあたりのコメツガやカラマツの枝についていました。
ひとつの巣箱のふたを開けたとき、ヒメネズミが飛び出してびっくりしました。一度ですが、シカを見ました。声はよく聞きました。タヌキのため糞、テンの糞を見ました。テンの糞はサルナシだらけでした。調査は順調で、たくさんの巣材が回収できました。
この中にカヤネズミの糞があるはずなので、それを検出して分析します。
2013.83-6 群馬県の神津牧場で3年生の実習をしてきました。牧場で家畜の実習をするというのは別にあるのですが、この牧場は実は野生動物の実習にも適しているのです。今や全国的なことですが、牧場にはシカが入り込みます。それにタヌキやアナグマ、キツネなどもいるし、もちろん鳥類はたくさんいます。コウモリ、サンショウウオなども見られます。それに牧場自体がこうした野外観察の意味をよく理解しておられるので、受け入れ態勢としてもありがたいです。そういうわけでこの3年、お世話になっています。
今年は糞虫の調査と、シャーマントラップというネズミ類を生け捕りにするワナ、自動撮影カメラなどをするとともに、群落調査のてほどき、電波発信器の使いかた、ウシの行動観察などをおこないました。
シャーマントラップにはアカネズミがけっこうかかり、学生は大いにもりあがっていました。私も久しぶりにミヤマクワガタをみつけてよろこびました。<高槻 記>
シャーマントラップに入ったアカネズミをトラップからポリ袋に移す
アカネズミの体重測定
発信器をもった学生の位置を確認する
ミヤマクワガタ
2013.6.21-30 マレーシアに行ってきました。かつて指導したAhimsa Campos-Arceizさんがいまマレーシアのノッチンガム大学クアラルンプール校の准教授としてアジアゾウの研究をしています。そのプロジェクトに研究室の山本詩織さん(修士2年)が糞分析をすることで参加しています。試料の持ち出しができないので、現地で糞を採集し、分析するために訪問しています。私はワンポイント・アドバイスに行ってきました。
タイ国境に近い国立公園の近くにフィールドステーションがあり、そこを基地に現地調査をしました。40年ほど前に人造湖ができ、船で移動します。
ゾウがよく訪れる塩場があるので、そこに自動カメラをおいてすばらしい映像を見せてもらいました。糞を集めるのも、そういうところが効率的なので訪問しました。
ゾウの糞をみつけてよろこぶ山本さんと高槻
現地では地元の小さな集落にとまりました。
子供と犬
調査にはマレーシアはもちろんですが、イギリス、スウェーデン、スペインの若者も参加して、国際的でした。
大きな板根の前で記念撮影
基地はなかなかきれいなアパートを借りたもので、山本さんは顕微鏡で分析をしていました。
分析する山本さん
2013.6.12 アファンの森に行ってきました。どんどん緑が濃くなっています。今回はオニグルミの若木の母樹からの位置を調べました。
オニグルミの若木と萩原さん
6月9日 八ヶ岳のフクロウの巣の調査に行きました。ここでは地元の八ヶ岳自然クラブの人たちが2004年からフクロウの人口巣をかけて、巣立ちのようすなどを記録しておられます。4年生の落合さんが昨年から巣に残されたネズミ類の骨の分析をしており、今年も最近巣立ったので巣材を送ってもらいました。落合さんは巣の利用率の違いに影響する環境分析もしたいと考えており、巣をかけた場所を見に行くことにしました。地元の木村さんと村上さんに同行していただくことができました。3年の銭野君、今年度から信州大学の大学院に進学した鏡内君も参加してくれました。
後列 銭野、鏡内、木村
前列 高槻、落合、村上
2013.5.26 丹沢の丹沢山東にある塩水沢に行ってきました。シカの糞を探しにいったのですが、シカによる植物への影響の強さに驚きました。ほとんどの場所はシカの食べない植物で被われていました。道ばたにはテンニンソウが多く、そのなかにオオバアサガラ、ナガバヤブマオ、テンナンショウ類、アセビなどがめだちます。林にはオオバアサガラとマルバダケブキが目立ちました。調査をしていたらヤマビルが近づいてきました。
塩水沢から尾根をのぞむ
堂平したのスギ林。林床にはテンニンソウが優占する。
道ばたにもテンニンソウが多い。
ガクウツギ
タニギキョウ
クワガタソウ
ヤマビル
2013.5.14,15 八ヶ岳でヤマネの巣箱かけをしてきました。乙女高原と続けてですが、快晴に恵まれて、八ヶ岳が実にきれいにみえました。ヤマネの巣箱を87個かけてきました。野辺山のあたりですが、シカの痕跡が多く、植生も強い影響を受けています。
これまでにも巣箱をかけた沢
孤立した木よりも低木などが多いほうが利用率が高いようでした
巣箱は横に入り口があり、鳥が入らない工夫がしてあります
巣箱を前にして
5月12, 13日 乙女高原に行きました。
12日は地元の多くの人が集まって遊歩道作りをしました。いわば「山開き」です。私たちは6月から始める草原刈り取り実験のプロット作りをしました。これとは別に1m四方で高さ2m足らずの柵を作ってシカの影響を排除しました。
13日には訪花昆虫の調査をしました。2日とも初夏のような快晴で、夏には霧がかかったりする場所ですが、空気が澄んで遠くまでくっきり見渡せました。標高1700mなので、まだ植物は限られていましたが、スミレ類、ミツバツチグリ、フデリンドウ、ヒメイチゲなどが咲いていました。
プロットを作る
柵を作って記念撮影
記録をとる
ミツバツチグリ
フデリンドウ
サクラスミレ
サンリンソウ
ヒメイチゲ
2013.4.28, 29 アファンに行きました。リヴァルスさんも誘いました。まだ木の芽は開いておらず、東京よりは1ヶ月遅い感じです。
3年生の望月さんは森林に興味をもっているので、埋土種子を調べることにしました。
湿地にはリュウキンカ群落があり、みごとな花を咲かせていました。
ゲストハウス(山小屋)に泊まり、朝ご飯を食べて
春の花たちです。
キクザキイチリンソウとアズマイチゲ
ニリンソウ群落とアオイスミレ
マメザクラとハシリドコロ
ショウジョウバカマ
2013.4.21, 22 浅間山に行きました。ある学生が植物の調査をするというので、「早いんでないの」といいましたが、予定しているというので行きました。21日に院生がシカとカモシカの頭数調査を予定していたので、それにあわせたようです。新幹線がトンネルを抜けて軽井沢に出ると銀世界。かなりの雪がつもっていました。
それでも2時半くらいには青空が見えて、調査はできたようです。でも植物のほうはまったく無理でした。スペインから来たリヴァルスさんをつれて行きました。ササをめずらしがっていました。
4月15日 発芽実験のためのビニールハウスを建てました。
2013.4.13, 14 今シーズン最初のアファン調査に行きました。おもな目的は異なる群落での土壌に含まれる種子を比較するための実験を始めるためです。まだ植物を見るには早いのはわかっていたのですが、この目的にはいい季節でした。まだ雪が残っていましたが、最初に林に入るとアズマイチゲが歓迎してくれました。4年生の萩原さんはクルミを利用するリスとネズミの比較をするため、枝の束の下を調べました。埋土種子の調査は3年生の望月さんのテーマです。もうひとりの3年生岩田さんはタヌキの種子散布を調べます。
発芽実験のプランター
2013.3.28 八王子市にある森林科学園に行って来ました。4年生の安本さんがテンによる種子散布を調べていて、糞からよく出て来るサルナシの発芽実験をさせてもらうために、プランターを置かせてもらうことにしました。ここにはリスの研究で有名な田村典子先生がおられるので、いろいろお話を聞くことができました。林にはカタクリやスミレが花盛りで、ほかにもコミヤマカタバミやユリワサビなどもあり、高槻は大喜びでした。それから早くもミミガタテンナンショウが咲いていました。
プランターは明るい場所と暗い場所に起きました。これは暗い方です。3月28日 八王子市にある森林科学園に行って来ました。4年生の安本さんがテンによる種子散布を調べていて、糞からよく出て来るサルナシの発芽実験をさせてもらうために、プランターを置かせてもらうことにしました。ここにはリスの研究で有名な田村典子先生がおられるので、いろいろお話を聞くことができました。林にはカタクリやスミレが花盛りで、ほかにもコミヤマカタバミやユリワサビなどもあり、高槻は大喜びでした。それから早くもミミガタテンナンショウが咲いていました。
プランターは明るい場所と暗い場所に起きました。これは暗い方です。
2013.3.20
3月17日から恒例の金華山のシカ調査に行って来ました。意外に暖かく、山を歩いていて汗をかくほどでした。麻布大学がおもでしたが、東北大学、山形大学、信州大学、北里大学などの大学、そのほかの参加者もありにぎやかでした。この冬は寒かったので、シカが死んでいるのではないかという声もありましたが、実際にはいつもより雪もなく、死体は少なかったです。
シカの個体数調査のために山を登り、尾根でパチリ
2012年の死体
2013.3.15
麻布大学では卒業式がありました。私たちの学生時代は大学紛争で荒れていましたから私は卒業式に出た記憶はありません。式そのものがなかったかもしれません。ですから今の学生が晴れやかに着飾ってうれしそうに式に集まるのがまぶしいような気持ちがあります。とくに麻布大学は女子学生が多いので、「卒業式ファッション」がにぎやかです。私自身は地味目にスーツや軽いフォーマルな洋服を着て来た人に好感を持ちました。着物では矢絣がなかなかいいものだと思いました。
式典は学生数が多いのに同じような授賞がくり返され、学生のことばなどまったくないので、みんな退屈していたと思います。なんとか演出をしたらいいのにと思いました。
それに比べれば、研究室にもどっての送別会は心のこもったもので、とても楽しかったです。在学生がこころを込めて部屋を飾り、料理をし、サプライズのプレゼントがあったりと、毎日を共有した仲間ですから、いい雰囲気でした。
これでまた一年に区切りをつけ、新しい年度を迎えることになります。
大学院二年生
四年生
高槻と大貫さん(シカの角で卒論を書いた)
2013.3.13
黒姫のアファンの森で今年度の報告会がおこなわれました。京大の農学部の竹内先生、森林総合研究所の藤森先生もおられました。動植物の生息を主とした調査をしている人からの報告のあと、麻布大学から報告しました。高槻が全体の紹介をしたのに続けて、三年生の笹尾さん、萩原さん、小森君、4年生の佐野さんと池田さん(高槻が代行)、修士の嶋本さんが発表しました。私は三年生の発表は少し心配があったのですが、とてもよく準備されており、皆さんからわかりやすかった、今後が楽しみだと評価してもらいました。ニコルさんはよく「原稿をよむだけではプレゼンとはいえない. Talk to people!」と人前で話すことの達人としてきびしいコメントをしますが、今年に限ってたいへんほめてくれました。それから毎年「ありがとう」というのに、今年は「高槻先生、おめでとう」といわれ、ちょっとどう返事をしていいかわからないような感じでした。よい調査ができるようになっておめでとうという意味なのかもしれず、そうであればうれしいことです。生物学とはなじみのない人からも「いろいろ調べることがあるんですね」とか「ふつうの生き物でもあんなに深いことが調べられるのですね」などという声を聞きました。
昼間は汗をかくほどの陽気でしたが、夜には雪になりました。ニコルさんの手になる鹿肉料理がとてもおいしかったです。それから2万年前の南極の氷でオンザロックを飲みました。ウイスキーの味のわからない私がいただくのはもったいないことでしたが、プチプチと聞こえる気泡がはじける音は不思議な響きで「これが2万年閉じ込められていたのか」と感慨がありました。
14日には松木さんに会って昔話を聞きました。
2013.3.7
静岡で日本生態学会が開催されており、その中で私は2つの集まりに参加しました。まず「過剰なシカの生態系への影響とそのシカ自身への反応」についてのシンポジウムで農工大の梶先生が組織されました。北海道の中ノ島、東北の金華山、日光、房総の4集団の比較がおこなわれ、これを受けて北大の近藤先生が家畜の栄養生理学の視点からコメントされ、最後にカナダのJ. Cote博士からオジロジカでの事例紹介がありました。私は場所ごとに相当事情が違うのではないかと予想していましたが、むしろ驚くほど似ていました。ただし房総はやはり冬が寒くないという点で大きく違うようでしたが。ひとつの感慨は、私は若い頃、日本人同士が英語で会話をしないといけないのがどうにも恥ずかしくて苦手だったのですが、今やそれはまったくなくなったようだということです。でも英会話が未訓練で質問がまったく意味がわからない人がいてちょっと気まずさが漂いました。日本語で聞いてくれれば、質問そのものを紹介しながら返事もできるので、英語が苦手な人はそうしたほうがいいと思います。それならだれにも迷惑がかかりません。質問も返事もわからないとだれもが困ります。
もうひとつ参加したのは哺乳類による種子散布についての自由集会です。若手のすばらしい野外調査をしている4人が研究紹介をしてくれました。私は年寄りとしてコメントをするように頼まれたので、ちょっと工夫をしました。最初に会場に質問をしたのです。「今から3つの質問をします。この会場に来た理由を1)動物の採食生態関連で興味がある、2)植物の繁殖成功の局面として、3)森林生態における哺乳類の役割として。では聞きますよ、1)の人?」みたいな感じです。おもしろいことにほぼ同数でした。このこと自体がたいへんおもしろかったです。それから一応4人を賞賛しました。でもこれは社交辞令なし、本当に圧倒される内容だったからです。辻さんは実は私の指導学生で、長年調べないといけないこと、動物の社会関係が散布する果実の種類に影響するという質の高い内容を目指したものだったので、私は「自分の首をしめている」とちょっとスパイスをきかせました。京大の佐藤さんはマダガスカルのキツネザルの行動と種子散布を、極端な季節変化を巧みにとりこんだ見事に解析していました。そういうクレバーさもさることながら、朝6時から12時間、1分ごとに行動を記録するという根気づよい野外調査にも裏打ちされた研究のたいへんさを想像すべきことを指摘しました。京大の中島さんはパームシベットが指向性散布をすることを、これまた徹底した悉皆調査によって分布の局在性を示すとともに、糞場には別個体が共有することをミトコンドリアDNAを利用することで示したそうです。最後に農工大の小池さんがクマの種子散布を飼育クマの糞に種子を埋めて野外実験したり、糞虫による二次散布まで解明した研究成果を紹介しました。みんなすごいなあと思いながら私が共通項として感じたこととして言ったのは「森林の空間的時間的多様性は会場におられる正木さんが示したとおり。動物の動きのとらえどころのないのは会場におられる福井さんが示したとおり。だから私は動物による種子散布などというむずかしいことは強い関心を持ちながらおそろしくて手を出さなかった。こういうことをするのは無謀である(笑)。しかし、今日の発表者のように問題点を明確にし、妥協しない野外調査をすれば、自然界で起きていることの一部がたぶんまちがいないだろうというところまでは言えるようだという大きな可能性を感じた。」という意味のことでした。
発表者たちがいずれも現在進行形で1年に何本も国際誌に論文を書いていることも、ただがんばっているだけではないことを示しており、聞きに来た多くの若者は刺激を受けたと思います。
2013.3.2
青山学院大学でアファンの森財団の10周年記念シンポジウムがありました。さすがに伝統のあるすてきなキャンパスでした。ニコルさんは基調講演でどういう思いでアファンの森に取り組んできたかということと、いま取り組んでいる東松島の森の学校への思いを話してくれました。私にとって印象的だったのは、「日本は迷子になっている」ということばでした。いろいろな意味があると思います。少なくとも自然に対してあまりにもひどいことをしてきたことを見直そうということはあると思いますが、それはこれまでも彼が訴えてきたことです。私は安倍内閣が原発を継続しようとしていることへの警告と感じました。
司会の野口さんが松木さんにアファンの森についてひとこと求めたのに対して松木さんが答えました。
「一本、一本立っているのが木、同じ大きさの木があるのが林。でも森はいろんな大きさの木がないといけない。そこにはいろんな生き物がすめるようにする、それが大事なんだ」。
そのあとニコルさんと松木さんが想い出などを語りました。それからフクロウやノスリなどを調べて来た川崎公夫さんがスライドを使っておもに鳥の話をされました。それを受けて私は3つの話をしました。まずフクロウの食べ物を分析した結果を話しました。森にすむネズミと草地にすむネズミが年によって増えたり減ったりしていたこと。だから森の管理がネズミに影響し、それがフクロウの食事に影響しているというつながりがあるということです。それから自動撮影カメラでとれた哺乳類を紹介しました。カメラには松木さんも写ったので「絶滅危惧種」として紹介しました(けっこう受けました)。カメラは糞をするタヌキも捕らえていたので、タヌキの糞の話をし、たしかに動物がいて糞をするのに糞をみないのはどういうわけか?という問いかけをして、糞トラップの結果と、糞虫の分解力のすごさを紹介しました。人にたとえれば建物ほどもある巨大な糞を1日で分解などできるだろうか?というクエスチョンに、糞虫のイラストで「Yes, we can」と吹き出しをつけたら、大いに受けていました。それから明るい群落を作ると花が咲き、昆虫が訪れる生き物のつながりがよみがえるという話をしました。この3つの話に共通なのは「みんなつながっているんだ」ということです。
そのあと第2部で東日本大震災の復興に取り組む皆さんの出番となりました。気仙沼でカキの養殖をする畠山信(まこと)さんがいまの気仙沼の紹介をしました。あの重篤さんの息子さんで、ニコルさんの教え子でもあります。宮城大学の風見先生が森の学校のビジョンを語られましたが、論理の明快さと熱い思いがつまったすばらしいトークでした。最後のことばが「つながり」で、私は生き物どうしのの、風見先生は人と人、人と自然のつながりでしたが、図らずも一致していて感銘を受けました。私は、多くの人があの震災で、戦後物ごとを単純化し、「合理的」とか「科学的」とかいいながら物ごとを分析してきたことの過ちに気づいたのだと思っています。ばらしていたものをつながないといけない。私たちは今こそ、同じように存在していても、つながっていなければ本当のあることにならないのだということに気づかないといけないと思います。
2013.2.23
大阪で「シカと森と人の葛藤」というシンポジウムがあり、招待されて発表してきました。会場は満席で関心の高さを感じました。信州大学の滝井暁子さんもシカの移動の話をしてくれましたが、二次会で話をしたら、私が東北大学にいたときに彼女が高校生で大学を選ぶのに私に電話で相談したのだそうです。かすかに記憶にありますが、私はそのとき東大に異動することが決まっているので、東北大では受け入れられないと返事をしたそうです。
2月14, 15日
修士論文発表会がありました。以下の4人が立派な発表をしてくれました。ごくろうさまでした。
八木 愛 里山におけるニホンアカガエルとトウキョウダルマガエルの資源利用の比較
嶋本祐子 アファンの森の森林管理が送粉系に及ぼす影響
海老原 寛 農地を利用するようになったニホンザルの行動圏利用
大津綾乃 野生馬(タヒ)を復帰させたモンゴル・フスタイ国立公園におけるタヒとアカシカの種間関係と森林の保全
2013.2.2
4年生の高橋君が「乙女フォーラム」で卒論の内容を発表しました。高橋君は環境生命学部の学生ですが、卒業研究をうちの研究室ですることになり、地元である山梨で調査をすることにしました。わかりやすいよい発表でした。
2月1日
東北大学で同級生で仲のよかった友人がいます。山形大学理学部で植物生態学の研究者で、辻村東國氏です。最終講義ということで山形に行って来ました。磐梯山に永久プロットをとって30年間追跡したすばらしい研究の話で、感銘を受けました。
2013.1.13
アファンの森に行きました。去年のサラサラ雪のイメージがあったので長靴だけで大丈夫と思ったのがまちがいで、湿った雪が50cmくらいつもっていたのでたいへんでした。一歩あるけばズボっと沈みます。次に進むにはその沈んだ足をえいやっと引き抜くので、一歩一歩が力仕事です。ふだん10分で行けるところに30分くらいかかりました。自動撮影カメラを回収するために斜面を登るときは一汗かいてしまいました。
2013.1.11
明治大学で講義をしてきました。その共通テーマがなんと「人権」。そのなかで生物多様性の話をしてほしいということだったので、お引き受けしましたが、文系の学生さんなのでどのくらい伝わったかわかりません。
2013年1月5日
明けましておめでとうございます。
「ニュートン」はおもしろそうな論文などを紹介するFocusというコーナーをもっていて、今回はジャイアントパンダの生息が危機であるという予測をした論文(Nature Clomate Changeという論文に掲載)を紹介しました(2013年2月号)。高槻は若いころWWFの研究員としてパンダの生息地で3ヶ月くらい調査をしたことがあり、そのこともあって取材を受けました。正直なことをいうとこの論文は問題があると思いました。ササの分布を引用し、気象データとの対応を調べ、気候が変化するとササが生育できなくなり、パンダが危ないのではないかというわけです。可能性としてはなんでもいえるわけですが、どれだけ確からしいか検証されていません。どういう情報が引用されているか調べてみましたが、いずれも現地調査にもとずいた証拠はなさそうでした。気候変動は確かだろうし、世界でそこにしかいない生息地にササがあって、パンダはササ食に特化している、こういう条件に目をつけて話題をよびそうな論文を書いたという感じでした。コメントを求められたのでモデル研究と野外調査のバランスが大切だといっておきました。
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